第18話 魔法の練習と気になる事

「『光』」


村から帰ってきた僕は一度宿屋に戻り、

若干忘れかけていた光魔法の練習をしていた。


「ここで魔導書を離すと……」


ベッドに魔導書を放り出すと、自動的に指先の光は消えてしまう。

アシュリーの助言通りだな。


「なるほど次は……『光』」


ベッドから魔導書を拾い上げ、

今度は魔導書を閉じた状態で呪文を暗唱してみる。

問題無く光った。


「なるほど暗唱でも問題無いのね……」


正直、魔導書に書いてある内容は、

呪文の部分以外が古文のようで全く読めなかったのでありがたい。


とりあえず試したい事は試せたので次の呪文に移ろう。

僕はページを数十枚めくって、次の呪文を見つけた。


「『光線』」


唱えると人差し指から細い光線が真っ直ぐ延びる。


「だけど……本当にただの光線なんだな……」


目が潰れる程眩しかったり、数兆度の熱線だったりする事は無く、

本当にただただ光線が出せるだけであった。


「……いつ使うんだこれ?」


強いて言うなら、目を狙ってつけたり消したりして

チカチカさせれば嫌がらせくらいにはなるだろうけど……

何回も魔法を唱えるのはコスパが悪過ぎる。

産廃技かな……


「まあいい、次だ。『閃光』」


そう言った瞬間、目の前に光が溢れて……!


「ああああ! 目が! 目があああ!」


視界が白一色から焼け付いた黒一色に染まる。

自分の魔法で自分の目を潰すなんて

誰かに見られたら大笑いされる様な間抜けな光景だろう。

……ちょっと光量が予想以上だっただけだからな。


「あー……やっと見えるようになってきた」


段々と視界の黒が黒点程度になっていく。

しかし本当に予想以上だったな。

この魔導書に載ってる中じゃ唯一エタブレでも登場してた魔法だから期待はしてたけど。


「閃光……敵に命中率低下のデバフを付けるありきたりな魔法だったけど……

現実だと普通に強くないか?」


手応えを感じて、もう一度唱えようとしてみるが何も起きない。


「……あ」


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HP:22/22

MP:0/19

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MP切れか……

やっぱり三種類の魔法の中じゃMP消費が一番大きいみたいだ。


「仕方ない、少し休むか……」


ベットに寝っ転がり、回復を待つ。

体を止めると頭が動いてくるもので、

どうやったら光魔法を戦闘などにいかせるか考えが巡る。


「補助魔法との併用は一応出来るけど……

やっぱり切り札になるよなぁ。

MP全部使っちゃうもん」


いつの日か常に魔法を使う魔法剣士的な戦いが出来たらそれが最高なんだけどね……今は必殺技として切るタイミングを大事にしていこう。


「こう、いきなり光をバーンってやっていきなり後ろに回り込むとか……

ジャンプしてみたりもいいかも、まさか上から来るのは予想つかないでしょ」


そんな事を考えていても、ベットの上にいると眠くなってくる。

そういやゴブリン達を倒したり、村から歩いて帰ってきたり結構動いてたな……



「おい、ちょっとジュース買って来いよ。お前の奢りで」


いきなり部屋に入ってきた姉は、冷たい目でそんな事を言う。

僕は人としての情を感じさせない彼女の目が苦手だった。


こうして見つめられると萎縮して、直ぐに「はい」と答えてしまう。

だが、今日は、今日こそは屈しないんだ……


「はぁ? 嫌に決まってるだろ」

「……反抗期か?」

「そうだよ。分かったら自分で買え」


そう返すと、姉はこちらに近づいてくる。

そして、僕のスマホを強引に奪った。


「おまっ、ちょっと何すんだよ」

「えーとクラスライン……コレか、

『僕は2組の○○ちゃんが好きです』っと……」

「!? 辞めろお前マジで! 返せよ!」


僕は姉に掴みかかろうとした。

だがしかし、スマホは高く掲げられてしまい、第二次成長前の僕では届かない。


「返して欲しかったら言うこと聞けや。それまでコレは没収な」

「……クソが」



「っ!? はあ……夢かよ」


ベットから跳ね起きる。

背中にじんわりと汗が染みていて気分は最悪。

なんだってこんなクソみたいな前世の記憶が……


「……あ。そっか、目線だ」


心当たりを思い出す。そう、目線なのだ。

昨日村にいたソエラとかいう奴の目……

あの冷たい目に、僕は姉と同じものを感じたんだ。


あの時は意識しないようにしてたけど……

こんな夢を見るくらいには衝撃を受けてたのか。


「そういやアイツ……気になるな。村長さんはあんまり教えてくれ無かったし」


窓の外を見ると、そろそろ太陽が夕日に姿を変える時間だ。


「今からでも間に合うよな……

ちょっとアシュリーのお見舞いがてら聞きに言ってみるか。

魔法の練習は夜でも出来るもんな」


僕は外に出た。

汗で湿った体に風が冷たくて……寒い。

自分が病人になってしまう前に、さっさと病院に行こう。

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