雨が降るその前に

竜胆 薊 (りんどう あざみ)

プロローグ『夕凪』

〜「何故、人は夢を見るのだろう?」〜

夢とは現実から逃れる一時の薬であり、

人間の快楽である。

それを手に入れたい者は、

執拗に夢を追い求める。

 夢が、3種類あることをご存知であろうか?

一つ  人が睡眠時に

    無意識で創り上げる夢。

二つ  人間の欲望、

    理想を満たそうとする行為。

三つ  人間の絶望、諦めの境地。


夢は薬である。

闇に覆われた現代社会で精神を病んでしまった人間達のオアシスであり、防波堤でもある。

堰き止めた水が勢いよく流れ出さない様に、

夢は存在する。

心がばらばらになった人間達が壊れてしまわない様に、夢は存在する。

世界が天国と地獄の二つに分かれる様に、

夢にも闇の世界がある。

それを悪夢と呼ぶ。

悪魔に囚われた人々は、

現実と夢の狭間で、もがき苦しむ。

現実が夢となり、夢が現実となる。

そんな恐ろしい世界。

一度闇に苛まれた人々は、

その世界を彷徨い続ける。


稀に毒が転じて薬となる事もあるだろう。

だが、毒に侵された殆どの人間は、悪夢にうなされ夢と現実の差別が出来ない。

〜「何故、人は夢を見るのだろう?」〜

神様はその答えを教えてはくれない。

神は人類が滅びようとも、

地球に天変地異が起きようとも

常に沈黙を貫いている。

無言でその光景を眺めている。

幾年の時を経ても

神が人間の再起を願って

手を差し伸べようとも

人間の愚かさがそれを無視し、

目の前の欲望に貪りつく。

神様は悲しんでいた。

人間を救いたいと尽力しているにも関わらず、

いつの時代でも人間は目の前の欲望に忠実に屈してしまう。

時は流れる。

何千年と。

ときに時間というものは残酷である。

この世に生まれ、老い、やがて死ぬ。

人間は何万年も繰り返してきた。


常に時は刻まれる。

神様は悲しんでいる。

今もなお。

でも決して諦めてはいないのだ。

それほどまでに人間を愛し、信じているのだ。

その期待に応えられる日は来るのだろうか?

人間が神の期待に応える日は。

強者が弱者を救う日は。

権力をかざす人が居なくなる日は。

自分達の国が豊かになる事以外にも、

考えられるようになる日は。

慈愛と平和を求める日は。

国と国が協力し合う日は。

そして、地球を愛し大切にする日は。


地球にある一人の少女が居た。

その少女は感情に対して悩んでいた。

人の生死を肌で感じても、

動じない心を持っていた。

それは普通ではない。

彼女はそう思っていた。

その少女は分析をして生きてきた。

何に対しても、誰に対しても。


ある時、自分を幼い子供だと思った。

頭脳だけが働き、心が追いついていないと。

その事実は、優れた知能を持つ大人にだけ

理解されるだろう。

「大人びている子だねぇ」

大抵の人はそう理解する。


大人にならざるをえない環境。

その中にどれ程の苦しみと痛みが

隠されているのかを知りもせず、

大抵の人はこう言った。

「しっかりしているね」


感情を忘れ、大人びてしまった1人の少女。

その女の子が神様と紡いだ時間を、

ほんの少し覗いてみよう。

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