第4話:真珠湾、壊滅!

 怪獣の光線が滑走路を焼き尽くした直後、怪獣はゆっくりと方向を変えた。

 巨大な爪が瓦礫をかき分け、目の前に広がる巨大な貯蔵タンク群を見据える。


 重油タンク。

 基地全体の命脈ともいえるこの施設には、膨大な量の重油と航空燃料が備蓄されていた。

 これが破壊されれば、基地の再建は不可能となる。


「あれがやられたら終わりだ……」


 生き残った司令部の将校が、蒼白な顔で呟いた。

「阻止しろ!!  あそこだけは守り抜け!!」


 高射砲陣地が重油タンクの周囲に急遽設営され、砲手たちが怪獣を狙って砲撃を開始した。


ドォォォォン!! ドォォォォン!!


 砲弾が怪獣の側面に命中し、爆煙と火花が散る。

 だが……

「……効いてない……!」


 鱗に弾かれ、砲弾はただの火花にしかならない。

 怪獣は無反応のまま、重油タンクに向かってゆっくりと前進する。


「駄目だ……止められない……」


 次の瞬間!!

 怪獣がその長い尾を振り上げた。


 ズシャアアアアッ!!!


 尾が重油タンクの最外壁を一撃で切り裂いた。

 装甲鋼板がねじ切られ、中から黒い重油が滝のように流れ出す。


「やめろぉぉぉぉ!!!」


 怪獣はゆっくりと口を開き、喉奥に赤黒い光を溜め始めた。

「まずい! 光線を撃つ気だ!!」


 次の瞬間!

 バシュウウウウウウッ!!!


 灼熱の光線が重油タンクに一直線に突き刺さった。

 ドォォォォォォン!!!!!!


 衝撃波が基地全体を揺るがした。

 直撃を受けたタンクが爆発し、炎と黒煙が一瞬で数十メートルの高さに吹き上がり破片が飛び散る。

 火の粉が夜空に舞い、破片が弾け飛ぶ。


「ギャ~~~~~~~~ッ!!!!!」

「逃げろ!!!」


 流れ出た重油に火が燃え移る。

 真紅の火柱が滑走路を覆い尽くし、炎が波のように広がっていく。


 だが、怪獣は止まらない。


 怪獣は炎の中を悠然と進む。

 黒い鱗の間から、流れ出た重油が滴り落ちる。

 青白い光をまとった棘がさらに強く輝き始める。


「……くそっ……化け物が……」


 残った砲手たちが必死に砲撃を続けるが、怪獣は無傷だった。

 燃え盛る炎の中を進みながら、怪獣はさらに口を開き……


 バシュウウウウッ!!!


 二発目の光線が別の重油タンクに命中。

 ドォォォォン!!!!!!


 巨大な火球が吹き上がり、基地全体に衝撃波が広がった。

 爆風が残っていた格納庫や防空壕を吹き飛ばし、炎が滑走路を一気に覆っていく。


「うわあああああ!!!」

「消火班は!? 応答しろ!!」

「無理だ! 火が強すぎる!!」


 次々と重油タンクが誘爆し、

 まるで火山の噴火のように爆風と火柱が次々と上がる。


 ゴゴゴゴゴ……!


 怪獣が重油まみれの尾を振り払った。

 その衝撃で、基地中央にあった弾薬庫が崩れ落ちる。


 ドォォォォォン!!!


 ……大爆発。

 弾薬庫が爆発し、周囲の航空機や車両が吹き飛ばされる。

 滑走路が火と煙に包まれ、周囲にいた兵士たちが衝撃で海に叩きつけられる。


「……これが……終わりなのか……?」


 司令部の生き残った将校達がが、絶望に膝をつく。

 怪獣が再び喉奥に光を溜め始める。


「まだだ!! 最後の砲撃を!!」


 巡洋艦“ホノルル”から主砲が火を噴いた。

 8インチ砲弾が怪獣の頭部を直撃——

 だが、怪獣は顔をゆっくりと持ち上げた。


「……効いてない……」

 次の瞬間、怪獣の尾が“ホノルル”に向かって一閃。


 ズシャアアアア!!


 巡洋艦の艦橋が一撃で粉砕され、艦が横転して一瞬にて沈没する。

「もう終わりだ……」


 残っていた重油タンクが次々に爆発。

 真珠湾の空が赤く染まり、海面が火に包まれていく。


 怪獣は燃え盛る炎を背に、ゆっくりと歩みを進める。

 炎と煙が夜空に舞い上がり、破壊し尽くされた真珠湾が地獄のような光景と化していた。

 真珠湾基地は、完全に壊滅していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る