生首夢幻綺譚

二枚貝

第1話 むかしむかし(むかしむかし)

 むかしむかし、この国を治めていた貴族たちは、人間の生首を集めていたんだって。


 生首 ? 何だってそんなことを。


 知るわけないさ、僕たち平民だもの、お貴族さまの考えなんて。ただね、その生首が、たまに古いお屋敷なんかで見つかることがあるんだって。


 生首って、そりゃただの骸骨だろ。何百年も前の話だってんじゃ……。


 ところがね、そうじゃないんだよ。どんな技か、魔術か手品か、その生首っていうのが生きているかのように、みずみずしくて、動くし、喋るんだ。


 ※


 昔聞いた与太話を、だから今、思い出してしまった。

 目の前にいる、宝物のようにガラス箱に収められた人間の生首。ゆっくり瞬きすることに長いまつげが上下して、キラキラと輝く瞳は宝石のよう、美しく整えられた黄金の巻き毛は美術品のよう。

「ごきげんよう。あなたが、新しい私の飼い主ということ?」

 はは、と俺は笑った。こういういかれた話は大好きだ。あるいはイカれた幻覚かもしれないが。何しろ、俺たちそのものが到底イカれまくった存在だから。

「まあ、そういうことになるんかね。ちょっと聞かせてくれねえか、お姫様。あんたのことを――、さ」


 ※


 そんなわけで、今から話すのはすべて俺が聴き取った話だ。いつから存在しているのかもわからない、生首のお姫様が話してくれたことばかり。

 嘘だろうって思うんなら、まあそれでもいいやな。とにかく、俺はこの話を聴いて、わくわくして、忘れちゃうのがもったいないってんで、今こうやって記録を残してる。


 じゃ、本格的に始めよう。むかしむかし、この国には、王様や貴族がいて、神様や悪魔がいて、妖精や吸血鬼がいて、魔術師や聖女がいたって話だ。

 そんな時代、やつらに愛玩されてきたっていう生首たちの、世にも奇妙な物語をさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る