時間を戻す時、世界はもう壊れている

三冠食酢

第1話プロローグ

「大丈夫、また世界が壊れただけだから」


先輩がその言葉から始まる毎日は、繰り返すだけで何も変わらない。

朝が始まり、人と話し、朝食を作る。

そして、世界が壊れる。これを繰り返す。


でも、変わらない事が正常だと思うこともある。


それは世界が正常に動き始めた時だ───────

──────────




「……椿くん起きないかい?私の授業は退屈かい?」


「……はい、……すみません」


椿 青樹は重たい瞼をゆっくりと開け、またノートに前の文を書き写していく。


(つまんねぇ…………)


高校に入り始めてからだった。その異変は、なんの音沙汰も無く現れ、僕のたった一日の人生を繰り返している。

ちょっとかっこよく言ったが、詰まるところを言うとループと言うやつだ。


SFとかであるだろう。皆が思うそんな感じのやつだ。

決して変わることのない一日。そこに居る人達は同じように動きしたりしなかったり、だが最終的にはそれは変わることの無い事象となる。


だけど僕は例外だったらしい。

何故かは分からないが僕だけがこの世界で一人、自由に動くことができる。


そして、今もその最中だ。


1026回。今回で1026回だ。いちいち数を覚えてるのはマメかと思うがいい加減、これを数えるのも面倒くさくなってきた。


僕が今日、5月1日を繰り返している回数だ。今なら前の黒板を見なくても、全て写すことが出来る。もう全部覚えてしまった。


勉強が出来ない僕でさえ、1026回5月1日を繰り返していれば覚えるのは必然と言うだろう。


多分、このままいけばテストは100点を取れるだろうな。まぁ、時間が進むことはないんだが。

いい加減、李徴が別の生物にでもなって僕の100点を阻止して欲しいぐらいだ。


まあ、そんな事はさておき今日は何をするか考えよう。

僕だって人間だ。毎日毎日同じような作業を繰り返していたら、今頃僕は壊れているだろう。

だから僕はループする度に、する事を変えている。


ジュースを買うのを変えてみたり、昨日は理科室を爆破したり他にも色々だ。


こんな些細なことだが、やらないよりはマシだ。精神状態がはるかにマシになる。


なので今日は、授業中にもつ鍋を作っていこうと思う。

まずはカバンに入っている、キャベツ、玉ねぎを切って持ってきた鍋にぶち込む。そしてもやし、もつ、ニラを上に乗せ出来上がるまでしばらく待つ。


恐らくだが、先生以外はバレている。匂いがヤバい。


だがしかし……、いやぁ〜、楽しみだな〜!


「…………君、……この鍋って、後どれくらいかかりそう……?」


「あと二、三分すればでき……」


いきなりの背後からの声。反射的に答えてしまったが、初めて聞いた声だ。僕はこの声を知らない。

このクラスの人達とは何度も話をした。


だが、その声はそのどの声にも当てはまらない。


振り返ると、長い白髪の時代錯誤なセーラー服を着た、女の子が立っていた。


「……誰?」


「君の先輩だよ。この世界ではね!」



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