第112話 クソ共

学長の距離が近い。


「見下している訳では無い、感情すら感じられない視点。

あぁ気になりますね、その視点を理解できれば新たな研究のヒントになるかもしれません。どうです?私にその視点を解説してくれませんか?」


解説も何も、学長の言っている視点とやらが私にはわからない。

そういえば似たような事を王女も言っていたな。


「えぇわかっていますよ、お礼ですよね?」

「えっ?」

「ディカマン君は授業は免除されてますし、私にできる事は……」


話を聞かないな……

勝手に盛り上がり始めた学長を放置して、ミナが戻ってくるのを待つ。


この後は私の振り分けられた教室の把握と選択科目選びだ。

基本的に選択科目は必須科目を更に詳しく教えてくれる、惹かれる科目が無ければ魔法薬学でも選択しよう。


「「「ザワザワ」」」


「面倒な……」


あまり目立つ場所では無いのだが、学長と代表生徒が一緒に居るのが知られ、周囲に人が集まり始めた。

だが私達2人に話し掛ける勇気はないのか、離れたところで見ているだけだ。


「おい!」


……いや、1人だけ勇気がある奴が居た。


「おや、あの髪色は……」


いつかは絡まれる事はわかっていた厄介な奴、主人公が私へと怒りの感情を向けていた。


「カリル・ディカマンだな?ノラを解放しろ。」

「はぁ……まず名を名乗れ、話はそれからだろう。」


終わってるとはいえイーウェル家に住んでいて最低限の礼儀すら知らないのだろうか、私は一方的に知っているが初対面で急に喧嘩腰で話しかけるのはイカれてる。


いや、普通に考えて貴族平民関係無く自己紹介はするな。

ただの常識のないヤバイ奴だ。


「レオンだ。」

「そうか。ではレオン、君の言った『ノラを解放しろ』という言葉、詳しく説明してくれる。」

「お前ならわかるはずだろ。」


私とレオンの会話に周囲に居る者達は興味津々で耳を傾けている。

学長もレオンを見て何か考え事をしており、この場を収めてくれるのは期待できない。


「確かにあくまで予想ではあるが想像はできる。」

「なら──」

「だがな、その件については貴族家同士の契約であり、君のような身分がはっきりしない者に易々と話す事はできないのだよ。

まぁ君の身分を保証してくれる貴族が居るのなら別だがね。」


ほんの僅かだがマトモな頭があるようで、怒りの表情を浮かべつつも怒鳴り散らしたり手を出しては来ない。

1発殴ってくれば防衛として腕の1本もらうんだがな。


「レオン何して──何故貴方が此処に?」


何故貴方が此処に、って何を言えなくなってるレオンに随分と都合の良いタイミングで現れたなクソ女。


「こっちの台詞だ。

私が学長と話していたらそこの男に絡まれてな、イーウェル嬢を解放しろとか意味のわからない事を言っている。」

「そう、私は解放されたいけどね。」


コイツは馬鹿なのか?

それとも父親から何も聞いていないのだろうか、諦める気がなさそうだったが娘が今日まで変わらぬ態度だったら流石に婚約は無くなったと言うだろうに。


「レオンはイーウェル公爵家が身元を保証してる、ほらこれで良い?」


だが周囲に居る私とクソ女の関係を知っている者の視線が私を責めるような物になっている。


年齢的に恋愛関係について興味津々なんだろう。

それに現状だけ見れば、望まぬ婚約を結ばされた悲劇の令嬢と真実の愛の相手(馬鹿2人)が私という悪と対峙している。

もう明日の話題は決まっただろう。


「なるほどなるほど、それでイーウェル嬢を解放しろとのことですが、具体的にどうすれば解放したことになるのか教えていただいても?」

「婚約を無かったことにすればいいんだ。」


なんというか、気が抜けるな。


最近は国王や宰相の優秀な方々と話していたせいで、バカのあしらい方が下手になっている気がする。

どうしても裏を考えてしまうのだ。


「はぁ……」


目の前の馬鹿共のせいで印象が悪くなるのは避けなくてはならない、だが、


「……なによ。」


この破滅が確定している女が、勝ちを確信しているかのような表情をしているのが気に入らない。


「本人の意思を無視して婚約して、挙げ句の果てには公爵領の人々を見捨てた。」

「……」

「何か言ったらどうだ?」


貴族家同士の契約、そして現在の関係、状況、それ等全てなんの事情を知らないクソ野郎共が……

普通相手を追い込むつもりなら事前に状況を把握して完膚無きまでに潰す、そして把握できていれば目の前の奴等も勝ち目はないのがわかったはずだ。


そもそもの話、公爵家とそこの女がディカマン家に舐めた態度を取らなければ支援は続けていたし、婚約に関しても知識を手に入れていなければわからないが今の私なら円満に解消もしただろう。


「……どうやら公爵から聞いていないようだから1つ教えてあげよう。

もう元婚約者になっているが?」


今はまだ殺意は抑えてやるが、国王弱体化の原因が判明したら真っ先に消してやる。


「わからなかったか?

君は私とイーウェル嬢の婚約を解消してイーウェル嬢を解放しろと言うが、婚約していたのは昨日までだ。」

「は?」「え?」


目の前のクソ共は目が点になり、周囲に居た野次馬達は首を傾げている。


「まだわからないのか……

そうか、君達には言葉が少し難しかったのかもしれないな。

簡単に言えば私とイーウェル嬢の関係は今日の朝の時点で既に元婚約者に変わって、私個人としての関わりは無くなった。

まぁ、まだ少し家同士の契約はあるがね。」


2人はそんなこと知らなかったと言わんばかりの間抜け顔だった。


「さて、これで良いか?

貴族として責任から逃げる君とは違って私は忙しいのだ、失礼するよ。」


これで軽い事情は周知はできたし、後はしばらく経った後に評判を確かめ──


「待てよ。」

「……まだ、なにか?」


あぁ、あまりイラつかせる事は辞めてくれ。

これ以上は殺意が抑えられないからな。


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