第56話 暇人?

「ん?大丈夫ですか?」

「え、えぇ問題ありません。」


問題しかない、宰相は国の要人、こんな人の多い宿に来て良い存在ではない。

そんな存在がただの伯爵である私を訪ねるのは人に見られれば厄介だ、どんな噂話を流され、変な策略に巻き込まれかねない。


「そうですか?

っとこちらが陛下の手紙です。」

「届けてくださり、ありがとうございます。」


とりあえず宰相を部屋の中に入るよう促して手紙を受け取る。


「眠れなかったのですか?」

「いえ、朝から普通ならあり得ないお方が訪ねてこられたので驚いているだけです。」

「まぁ、確かにそうですね。」


わかってるなら心臓に悪いから辞めてほしい。


「ですがカリルが心配しているような事は起きないから安心してください。」


人払いでもしているのだろうか?

それなら会話内容を聴かれる心配はなくなるが、どちらにせよ宰相が人払いをしてまでしたい会話とは?!と話題になってしまう。


「私の魔法で外との時間をずらしているのでバレる心配もありません。」


サラッと信じられないほど強力な魔法を使用していると伝えられる。


宰相で大罪の怠惰であるミゲアル・ヴァレーゼンの戦闘スタイルは自分で改変した魔法を使用する魔法使い。

怠惰の能力は簡単に言えば、魔力を消費しない魔法を自分で作り出すことができる能力だ。


「完全に、止まっている。」


窓から外を見ればわかる、外で動いているはずの人や動物が完全に停止していた。


「正確には私達が高速で動いているだけですね。

怠惰の能力を使用しても、流石に世界への干渉は不可能ですよ。」


知識の中でミゲアル・ヴァレーゼンの持つ怠惰の能力が公式から発表された時には、なぜ主人公達が倒せたのかと疑問に思う者達が多く、考察も盛んに行われていた。


確か、ミゲアル・ヴァレーゼンとはストーリーの最終局面、革命が成功するまであと少しのところで戦闘する事になる。

その時点で大罪の能力を無効化できるのは主人公と、私を殺し嫉妬の証を持つ味方の2人だけ。


だが怠惰の能力が無効化されている様子は無く、知識の中でミゲアル・ヴァレーゼンは最上級の魔法を連発していた。

その攻撃は先程あげた2人以外はとても耐える事は出来ない、仮に戦闘に参加させても守りに徹し回復薬やヒーラーで全力回復しなければならず、とても戦力にはならない。


ストーリーだけ通るならラスボス級の戦いを実質2人で攻略しないといけないのだ。


だがミゲアル・ヴァレーゼンはそれでも負けた。


何か別の理由があるのか、それとも世界の都合なのかはわからないが、正直私では負けた理由は見当もつかない。


「素晴らしい魔法です。」

「ありがとうございます。」


世界への干渉は不可能、という部分が重要な気もするが想定の域を出ないし直接弱点を聞くというのは不快にさせ敵だと判断される可能性もあるため論外。


「っと、私はカリルと話していたいのですが陛下から手紙の返事を受け取って来いと言われておりまして、急かすようで悪いのですが手紙を読んでいただけませんか?」

「かしこまりました。」


渡されていた手紙の封を開ける。


『カリル昨日はすまなかった。』


謝罪から始まった?!


『あの場にいた王が私なら、直ぐに王女ごと牢に入れたのだが臨機応変に対応できない影武者のせいで、ほぼ無実になってしまった。

使えない奴は首にしておいたから安心してほしい。』


首にするとは物理的にだろうな。


『ここからが本題だ。

ゴミの子孫を擁護しそうな勢力について私とミゲアルで探る事にした、怪しいのは複数ある敵対国と教会、この2つを私達は探る。』


私のように知識を得たおかげで原作という流れに沿っているのではないかと考えられる訳ではない、2人が調べるのは英雄として都合の良い流れを作ろうとする勢力としては妥当だ。


それに仮に勢力が流れを作ろうとしていたとして、問題は主人公本人と繋がっているわけではないということ。


本人と繋がろうとすれば流石に公爵は避けようとする、そもそも会わせようともしないだろう。


『調査には私の傲慢を使う予定ではあるが、他国であることと教会の規模が世界中に広がってることを考えるとかなりの長期間になるだろう。

だが敵対したとして邪魔な教会を潰す口述を作れる可能性がある良い機会だ。

そこでカリルにも協力してほしい。』


協力か……

原作のカリル・ディカマンのように無限に生き物を出せれば人海戦術ならぬ魚海戦術で重要人物を監視するぐらいはできるだろうが……


待て、居るな近くに監視できる存在が、


『学院の入学後ゴミの子孫を見張ってほしい。』


そう主人公だ。


『背後が何者であろうとも、王国だけで無く様々な組織の視線が集まる学院へは入学させてくるだろう。もしかすれば裏にいる存在と繋がるかもしれない。

報酬はミゲアルと行くオークションでもう1つ自由に買ってもらえる権利だ。


返事を待つ。』


この願いに拒否権があったとしても私は断ることはない、主人公を自由にしておけばこの国に混乱をもたらす。

それに教会も帝国も碌なのでは無い。


筆と紙を取り出し返事を書く。

内容はもちろん、


「私も協力させて頂きます、共に潰しましょう。」

「とても心強いですよ、カリル。」



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