第19話

「あーん」


 汐梨さんと一緒にマガツキを倒すようになってから早いことでもう一か月。

 毎日のようにマガツキを倒して回っているので、もうすでにマガツキの体を取り込むことに慣れてきてしまっていた。


「ご馳走様」


 さっき倒したマガツキの指を体内に入れた僕は手と手を合わせて口を開く。


「……ずっと、思っていたんですか、それってば本当に大丈夫なんですの?」


 そんな僕の隣で斧についたマガツキの血を振り払っていた汐梨さんが僕に対して疑問の声をぶつけてくる。


「え? まぁ、今のところ問題はないですよ。それに、自分は陽の力はありますが、陰の力はありませんので……こうする他ないのです。僕は取り込んだマガツキの陰の力を吸収できるという体質を生かすことでようやく陰陽術が使えるんです」


 沙月さんからは僕の中に『何か』が入ってしまったことは言わないように言われている。

 そのため、僕がマガツキを食べているその理由はこうしたふわっとしたものとなっていた。


「……うぅーんですの。でも、確かに貴方の呪力を奪う力なんかを考えると、確かにそういうものかもしれないんですの。にしても、マガツキの呪力って私たち陰陽師の陰の力と大して変わらないんですのね。それが一番の驚きですの」


「確かにそうですね。マガツキは全然違う力を使っていると思っていましたから」


「そうですわよね……マガツキの気配。なかなかに手ごわそうな感じですので、おひとりでお願いします」


「……それ、そのまま倒せますよね」


 僕が自分たちの方に近づいていたマガツキの気配に気づいてそちらの方に視線を向けている間に視線も向けずに陰陽術を発動させていた汐梨さんの手によってそのマガツキは完全に拘束されてしまっている。

 水牢の中だ。マガツキは巨大な水球の中で完全に身動きが出来なくなってしまっている。


「私が貴方と戦っているのは後続を育てるためってのもあるんですのよ?私が倒してしまったら意味がないですの」


 既にマガツキを完全に無力化している汐梨さんはそれでも倒し切ることはせずに僕の方へと捕まった


「……それは、そうですけどね?ですが、後続と言われても僕の年齢は汐梨さんと十歳くらいしか離れていないですけどね」


「女性に年齢の話はNGですの……ぶち殺しますわよ?」


 汐梨さんが物騒なことを告げると共に水牢からマガツキが解放される。


「……すみません」


 目の前で解放されたマガツキが身じろぎする中で僕は迂闊なことを口にしてしまったことを謝罪する……アラサーに年齢の話は禁句だったね。


『gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


 そして、僕はきーんと耳に響くような叫び声を上げるマガツキに対して眉を顰めながらも護符を使って武器を巨大化するのだった。

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