ボクには彼女がいるらしい

束白心吏

第1話

「ゴラク、お前に彼女いるってマジ?」


 早朝、SHRの始まる数分前。自分の席についたボクに隣の席を陣取っていた友人が突然そんなことを聞いて来た。


「……いるような人間に思う?」

「ほー?」


 若干自虐的に言うと、話しかけてきた友人、言也げんやは口角を吊り上げ気持ち悪い笑みを浮かべる。

 え、何その反応……予想外過ぎてキモイしか感想浮かばない。


「おいその顔やめぇ」

「キモかったからね仕方ないね」

「攻撃力高すぎんだよ! じゃなくてな」

「ちっ」

「その舌打ちは聞かなかったことにするからまあ正直に話せ」


 そう言って言也はチャットアプリのスクショだか履歴だかをボクに見せながら言う。

 ……なお肝心の内容は画面が近すぎて見えなかった。


「ここに証拠はあんだ。さあ、認めようぜ」


 自信満々に、あるいは確信を以て、パズルの最後のピースを当てはめるように、鼻息を荒くした言也は言った。


「……詳細、プリーズ」


 そう返せただけ自分、頑張ったなと思う。

 いやだって彼女って……言われてもナンデスカソレと答える以外にない代物を認めろだのと狂言吐かれても困るだけだし。というかいないし。


「昨晩な、突然クラスチャットに誤爆があってな?」

「……ふむ」


 クラスチャットとやらなら、ボクも入ってた筈。そう思ってスマホを取り出し、チャットアプリから言也の言うチャットルームに入る。

 ふむふむ。


「……数ヶ月放置しただけなのに通知カンストしてる件」

「既読が全員分つかないなーと思ってたけどお前だったのか」

「基本オフにしてるからね」


 一度真夜中になっても通知が鳴ることあって以降、常にオフにしてた。関係ないクラスメートが見てる場所でするなって会話してたのもあったのでクラス変わったら速攻抜けてやる所存。この決意、新年の抱負よりも強い意思で達成できる気がする。

 まあそれはさておき、一気に既読をつけて最新へ。


「どこらへん?」

「いやもう消されてるぞ」


 あ、そう……自分のスマホを仕舞って言也のスマホの方に目を向ければ、確かにそう思わせられる文言は写っていた。近すぎて文字が滲んでて、肝心な部分は見えてないけど、それが件の会話なのだろう。


「で、それがどうしたの?」

「いやだから付き合ってるんだよな? って確認」

「確認してどうするのさ」

「え、血祭りにあげる?」


 と目を泳がせて宣った。なお複数名同意を示すのか頷いている男女数名を確認。

 ……へえ?


「こんな噂に踊らされる奴いないでしょ」

「いるぜっ、ここに一人な!」

「ここまで情けなくその台詞を言われたことに免じてこう返そう。ヒューッ、みろよあの噂好きを……まるでマゾ犬みてぇだ」

「最低を更新してくの辞めようぜ」

「メスガキに負けてそう」

「それただの悪口! 風評被害じゃねーか!」


 「あと俺はボンキュッボンなお姉さんのが好きだっつーの!」と返すくらいなのでまあ余裕はありそうね。いやまあ言也が色恋話で発狂するような奴とは考えれられないから血祭りの主催者は別だろうとは思ったけど。噂に関しては周囲で聞き耳立ててた奴らが聞くように言ったのだろう。言也は元来、噂の真偽は気にしないで小さなコミュニティで共有して楽しむような奴だし。

 ……というか聞き耳立ててる奴の大半、他クラスの人じゃない? 見かけない顔ぶれな気がする。あとなんか教室内の人口密度がいつもより高い。噂の相手そんな大物なの?


「コ〇ラネタはどーでもいいとして、言也的にはどう思ってるの?」

「振ったのお前じゃんつーか他にも色々混ざってたじゃん……いやまあ付き合ってるんじゃねぇの? 相談の仕方も仕方だし」

「じゃーそーゆーことで」


 タイミングよくチャイムが鳴った。他クラスっぽい人達もそれぞれのクラスに駆け足で戻っていく。


「……なんかすまんな」

「いいよ別に」

「で、実際はどうなん?」

「ある訳ないでしょ。ボクだよ?」

「だよな」


 そう簡単に納得されるのはそれでムカつくけど……まあいい。

 取り敢えずボクには彼女がいるらしい。名前も知らないような余所様からも注目を集めるような人の。

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