第11話 セレベス海海戦①
西暦1946(昭和21)年2月11日 フィリピン南部 セレベス海
アメリカ海軍第3艦隊司令長官のウィリアム・ハルゼー大将は、艦隊旗艦の任を与えられた最新鋭航空母艦「ミッドウェイ」の艦橋にて、自信満々に席にふんぞり返っていた。
「トルーマンの腰抜けも、随分と大盤振る舞いをしてくれたものだ。この俺にここまでの兵力を預けてきたのだからな」
ハルゼーの言葉に、隣に立つ艦長も頷く。サクソニア共和国の航空戦力は物量で十分に圧倒できる事を理解したアメリカは、対日戦争にて生産されていた全てを投じる事で、フィリピンとマリアナを占領した敵を完膚なきまでに叩き潰す事が出来ると目測を立てていた。
だが、制海権を巡る一連の争いは、米海軍に多少の出血を強いていた。先ず潜水艦は敵海軍の優秀過ぎる対潜部隊によって悉く返り討ちにされ、水上機動艦隊も敵の潜水艦と水上打撃艦隊との戦闘で損害を負っている。対地支援攻撃のために投入された戦艦部隊と軽空母部隊も同様だった。
故に、海軍は全力でサクソニア海軍に泣いて詫びるだけの痛手を与える必要があった。先ず戦艦は全て16インチ砲を装備し、速力も27ノット以上は出る8隻の戦艦を投入。別海域でも動員可能な戦艦全てを用いて攻撃に参加させている。
次に空母としては、ハルゼー率いる第3艦隊には「ミッドウェイ」含む最新鋭の空母6隻、防空任務を担う軽空母5隻の11隻。それ以外となると、戦艦とともに敵艦隊へ切り込み役を担う重巡洋艦8隻、軽巡洋艦10隻、駆逐艦60隻が指揮下に加わり、合計97隻の戦闘艦艇で決戦に挑む事となる。
艦載機もとりわけ優秀である。F8F〈ベアキャット〉艦上戦闘機とTBM-3〈アベンジャー〉艦上攻撃機をメインで搭載し、その数は800機以上に及ぶ。如何に音速のジェット戦闘機を有するサクソニアと言えども、洋上より迫りくる艦載機の大軍相手には手も余る事だろう。
「哨戒中の潜水艦より報告!スリガオ海峡西部にて大規模な艦隊行動を確認、ミンダナオ島北西部にて撤退準備を進めている友軍を襲撃するつもりの様です!」
報告が届き、ハルゼーは葉巻をくゆらせながら指示を出す。
「偵察機を出して正確な位置を把握し、後に攻撃隊を差し向けろ!」
「了解!」
1時間後、報告が届き、直ちに6隻の空母より攻撃隊が発艦し始める。敵艦隊の対空戦闘能力は相応に高い事が知れている。であれば波状攻撃で逐次的投入にするのではなく、飽和的な攻撃で打撃を与えるのが最善であろう。
対するサクソニア共和国も、敵の攻撃に対して無策ではなかった。高高度には重爆撃機をベースとした早期警戒機が展開し、空母機動部隊の動向をすでに察知していた。
『航空軍各位、迎撃行動を開始せよ。海洋軍艦隊は襲撃に対して十分な警戒をされたし』
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