第9話 第一統領

西暦1946(昭和21)年/共和暦246年1月2日 サクソニア共和国首都アレシア郊外 アグスティヌス邸


「諸君、先の年末の攻勢における大勝利は我が共和国の強大さを異教徒どもに思い知らせるに至った。私としては非常に喜ばしい限りである」


 アレシア郊外の邸宅にて、アグスティヌス第一統領はワイングラスを片手に、新年パーティに集まった者達へそう呼びかける。転移場所の関係上、雪と縁遠い環境になったとはいえ、それで儀式を絶やす程に自分達は愚かではない。テーブル上には多くの食事が並べられ、パーティに参加する多くの者達は雉や子羊を用いた料理に舌鼓を打っていた。


「さて、現在我が軍はマリーナ、フィリピシアを占領し、版図の拡大に努めている訳であるが、エメーリティアの抵抗は未だに激しい。しかも旧世界と異なり、ここの海は恐ろしい程に広い。よって現在、新しい軍艦の開発と建造計画、そして海洋軍新規部隊の編制を承認している」


 その言葉に、パーティ参加者である造船業の重役と海洋軍参謀本部付きの士官が感嘆の声を漏らし、航空軍参謀本部の将官がどよめく。


 エメーリティア合衆国の海軍が用いる戦力。小型の航空機を多数搭載し、広域に展開・運用する特殊戦術艦。相手の言語にて『飛行機輸送艦』と呼ばれているそれは、サクソニアには存在しないシロモノであった。だがエメーリティア合衆国の領土であるハウィニア(ハワイ)とサクソニア本土との距離は数千マイルもの隔たりがある。既存の航空機では絶対に手が届かない距離に艦隊を展開するなど、余りにも無謀過ぎる事は素人でも分かる事であった。


 よって、敵の兵器と戦術を各方面からの報告で理解したペリクスは、海洋軍航空隊の設立と、航空機搭載・運用を主目的とした特殊戦術艦の開発・建造計画を立案。これには航空軍が反発を見せ、『艦載機は全て航空軍の管轄下とする』と海洋軍が独自に航空隊を持つ事を妨害しようとしたのだが、エメーリティア海軍の機動艦隊の複数方面からの襲撃は航空軍の名誉を大きく傷つけ、地上の飛行場に大きく依存するしかない状況を苦々しく思う者達から痛烈な批判を生じさせるに至っていた。


「少し、よろしいでしょうか、第一統領閣下?」


 すると、参席者の一人が挙手し、アグスティヌスは目を向ける。それは海洋軍の制服を見に纏った士官であった。


「海洋軍技術本部に所属する、カバル少佐と言います。建造技術に関しては、現在海洋軍技術本部が総力を挙げて開発を開始しており、3か月後には完成図を閣下にお見せできるかと存じます」


「ほう…」


 カバルの言葉に、アグスティヌスは唸る。彼は説明を続ける。


「海洋軍としては、四方の海の防衛を十分に担えるだけの数を用意する方針です。これで我らはエメーリティアの大艦隊を十二分に撃退できるでしょう」

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