第5話 共和国国防方針
西暦1945(昭和20)年/共和暦245年11月11日 サクソニア共和国首都アレシア
サクソニア共和国の国土は、総面積300万平方キロメートルにも及ぶ、大小2000の島々で構成されている。そのうち最大の島であるサクソニア本島の南東部に位置する都市アレシアは、かつての宗主国からの独立戦争が始まった地であり、救世主ファリストの聖母アレシアより取ったものである。
重厚な石造りの建物が並ぶ大通りには何十台もの自動車が行き交い、市民は赤道付近という環境も相まって、涼しい夏服で市内を行き交っていた。その一方で日本の永田町に相当する官庁街の一角、共和国元老院議事堂には十数人の閣僚が詰めかけ、背広を纏って議論を進めていた。
「先のフィリピシア侵攻とマリーナ占領を機に、我が国は全世界の邪教どもに対して聖戦の開始を告げた訳ではあるが、落としどころを考えずに戦争を続ける事は愚行の極みである」
議場の場でそう語るのは、共和国政府にて内閣に相当する組織である共和国評議会の軍務委員長、ペリクス地上軍大将である。軍にて銃を手にする事20年、共和国軍統合参謀本部にて筆を手にする事12年の歳月を経て、政治面での軍の頂点に立った男は、世論とは別に現実を冷静に見据えていた。
「確かに、我が国は順調に周辺の地域を制圧し、創世神の威光をあまねく広める事に成功している。だが、同時に代償も大きい。アメリカは数十隻以上の艦隊を複数海域に展開する事で我が国を包囲し、同時に特殊艦で大規模な爆撃を仕掛ける事で我が国を敗北させようとしている」
この国がかつてあった世界では、大陸間の距離が近く、そして平地も相当数に多かったため、わざわざ艦に航空機を載せて偵察やら攻撃を行う事が滅多になかった。サクソニア共和国も航空軍工兵部隊によって戦線飛行場を拵え、海軍に対して支援を行うという形式で問題なく戦争を進める事が出来ていたのだが、アメリカの空母機動部隊との戦闘は既存の戦術の陳腐化を招く事となった。
「また、気候が大きく変動した影響で、農業に甚大な被害が出ている。創世神に仕えるよき人として生きるためには、安定した食料の供給が不可欠である。故に我らは矛を収め、糧を得る時を得なければならない。聖戦を再開させるのはそれからでも遅くはない」
反対する者はいない。教会出身の元老院議員も、信徒の間で食料問題を中心に聖戦の継続は困難であると切実に訴える者が増えているため、方針の変更に異論をはさむつもりはなかった。その上でペリクスは、国のトップである第一統領と視線を交わしつつ、言葉を続ける。
「そこで我ら国軍は、『明確な勝利』を以て終結を迎えようと考える。目的地は
斯くして、サクソニア共和国は明確な勝利と新たな防衛線を得るべく、小笠原諸島への大規模侵攻を決意したのである。
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