第3話 マリアナ攻防戦②
西暦1945(昭和20)年9月15日 北マリアナ諸島東部海域
空戦が終わり、夕闇が訪れようとした頃。第5艦隊の戦艦部隊は重巡洋艦部隊や駆逐艦部隊とともにテニアン島に接近し、夜襲を試みていた。
参加する戦艦は全て、対日戦争前に就役していたいわゆる『標準型戦艦』であり、速力は20ノット程度と低い一方、火力と防御力においては十分に敵艦隊を圧倒出来ると踏んでいた。共に行動する重巡洋艦は20.3センチ三連装砲を標準搭載し、近距離では12.7センチ連装両用砲と40ミリ機関砲で手数を増やす事が出来る。万が一敵駆逐艦が襲撃を仕掛けてきたとしても、クリーブランド級軽巡洋艦を旗艦とする水雷戦隊が対処してくれるであろう。
「提督、CICより報告。前方より敵艦隊の接近をレーダーで確認。戦艦を先頭に立て、駆逐艦が両側を挟む複縦陣の陣形で接近中との事です」
戦艦部隊旗艦の「ウェストバージニア」艦橋にて、リー中将は報告を受ける。敵戦艦の主砲は先の戦闘の被害状況からして30センチ砲口径のものらしく、標準型の装甲であれば十分に対応できると結論付けられていた。それ故に敵駆逐艦の動向が気がかりであったが、相手の陣形を見るに、距離を詰めた後に分離し、駆逐艦部隊が牽制を仕掛ける間に砲撃を仕掛けるつもりだろう。
「水雷戦隊に指令。敵駆逐艦部隊に対して強襲し、本戦隊への攻撃を阻止せよ。重巡部隊は敵艦隊側面に回り込み、二方向からの挟撃に持ち込める様に展開せよ」
「了解!」
命令を受け、艦隊は三つに分かれる。対する黒龍艦隊もまた、巡洋艦12隻、駆逐艦21隻の数を活かして、敵艦隊に対応する様に分散。互いにレーダー波を照射し、砲撃戦が開始される。
「撃て!」
「ウェストバージニア」と「メリーランド」の40.6センチ連装砲が火を噴き、遅れて「ネバダ」と「ニューメキシコ」の35.6センチ三連装砲が轟く。対する「ドレノ」と同型3隻は、33ノットの快速で砲撃を回避し、30.5センチ砲を放つ。
12門の主砲から放たれた砲弾は、レーダー照準によってある程度狙いを付けていたのもあって、「ウェストバージニア」の周囲に着弾。その着弾時に生じる水柱の位置から、光学式照準装置で誤差を把握。アナログ式コンピュータで射角を調整する。
「撃て」
ローダス提督は冷静に指示を出し、4門ある主砲身のうち2門の仰角を上げ、斉射。遅れてもう2門の仰角が上がり、着弾を待たずに発砲する。交互撃ち方によって誤差を直しつつ効力射を手繰り寄せていく。
そしてついに、砲弾が直撃する。コロラド級戦艦の主砲は40.6センチであるが、船体は標準型のそれであるため、35.6センチ砲弾までしか十分に耐える事が出来ない。そして60口径30.5センチ砲より放たれた高速の砲撃は、装甲を容易に貫通した。
「命中!損傷を確認!」
「よし…一斉射に切り替え!次からは榴弾に変更、艦上を燃やせ」
ローダスは新たな指示を出しつつ、敵艦隊を睨む。他方で後方、巡洋艦同士の戦闘はより苛烈なものとなっていた。20.3センチ三連装砲の連射が巡洋艦1隻を粉々に破壊すると、今度はサクソニア艦隊の巡洋艦が、ボルチモア級の側面に17.9センチ砲弾を突き刺していく。そして軽巡洋艦は15.2センチ砲を連射しながらクリーブランド級軽巡洋艦に接近し、距離1万を切ったところで魚雷を発射。それから数分は経ったその時、水柱が聳え立った。
そうして久方ぶりの水上艦同士の夜間砲撃戦は、朝日が昇る前に幕を閉じた。米艦隊側の損害が軽巡洋艦2隻、駆逐艦4隻の撃沈、巡洋艦5隻と駆逐艦3隻の損傷に至ったのに対し、黒龍艦隊は巡洋艦2隻と駆逐艦3隻沈没、巡洋艦3隻と駆逐艦4隻損傷と、艦隊全体での損害では黒龍艦隊の方が多かった。しかし、戦闘後に潜水艦隊が米艦隊を奇襲し、巡洋艦2隻と駆逐艦5隻を一方的に撃沈。空母3隻にも損傷を与え、ハワイへ退けたのである。
この『第三次マリアナ沖海戦』を機に、アメリカ海軍は暫しハワイと日本列島を防衛線とする方針に転換し、日本政府もこれを機にサクソニア共和国へ『通牒』の拒否を通達。サクソニア側も敵艦隊の物量と見た事の無い新兵器や戦術を警戒してか、侵攻方向を南へ向けて直接対決を回避し始めたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます