十四 探し物

「本当にもう入って大丈夫なの」

『あぁ、問題ない。アレはもう消したからの』

 庭の一角にある小屋へと足を踏み入れた。母家とは全く違う、広くてゆったりとした階段を上る。壁に沿ったL字のそれには天然木の手すりがつけられていた。すべすべの手触りに、ついつい何度も触れてしまう。

 全体的に埃をかぶっているものの、その内装は密かに憧れていた『大人の秘密基地』のイメージにぴたりとはまる。昨日までアレが居たのかと思うと気味は悪いが、それでも建物自体の造りには惹かれた。

『あった』

 五十鈴の目的のものは手に入ったようだ。じゃあ早く戻ろうと背を向けると呼び止められた。

『颯、腕を出せ』

「えっ」

 五十鈴は今しがた見つけたばかりの探し物を僕の腕に押し当てた。ふわっと一瞬風が起こり、きゅっと肌に吸い付いたかと思うとそのまま肌に溶け込むように消える。あまりの非現実的な光景に言葉を失った。五十鈴が得意げな顔をして口を開く。

『お前は脆弱じゃからの。お守りじゃ』

 じっと自分の腕を見つめてももう何も見えない。けれど、じわりと嬉しさが込み上げる。五十鈴が僕に、お守りをくれた。

「ありがとう」

『礼なら甘味で良いぞ』

 五十鈴らしい言葉に頬が弛む。名残惜しい気もするが、あまり長居はしたくなくてそそくさと母屋へ戻った。

 その途中、ハリネズミの迷子がまた姿を見せた。この間よりほっそりしている気がする。試しに餌になりそうなものを置いてみると、パクパクと躊躇なく頬張った。

「ちょっとは警戒しろよ」

 苦笑いしつつ頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。

 ところで。

「なんでまた、そんなにびしょ濡れなの?」

 小さな迷子には謎が多い。妖たちがちょっかいを掛けはじめると、再びどこかへ行ってしまった。

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