次は真の姿で逢いましょう

八月一日茜香

第1話

ただ願っただけ。どうしようもなく、あんなことを平気で言った、XXを止めたくて。ただ祈っただけ。私達からXXを奪わないでと。ただ希った。自分達にもっと力があればと。これが叶うなら、私達は何でもする。だから――

「XXX!」

あぁ、まただ。視界が真っ暗に染まる。残された時間はもうない。きっと次が、最期だ。


ジリリィ

とスマホのアラームが、煩く鳴る。うちは、うーんと唸りながら、腕を伸ばして、アラームを止める。頭から布団を被り、二度寝を決め込もうとした時

「あんた、いつまで寝とんの?もう、遅刻すんで」

と、大きめの声と共に布団を、勢いよく剥がされた。うちは

「あとごふん〜」

「もー!あと五分やないよ!今日は入学式やから、六時に起こしてって、言ったんはあんたやろ?もう、七時やで!」

うちはママの言葉を無視して、寝ようとしたが、最後の言葉でばっと、飛び起きた。そして、時計を見ると、確かに七時やった

「わぁぁぁ!ママ!なんで起こしてくれへんかったん?!」

「知らんやん。言っとくけど、何回も起こしに来てるからな?」

と冷静に言われた。うちは、うっと言葉がつまる。ママは呆れた口調で

「もう、高校生やねんから、しっかりしてや」

そう言って、部屋から出ていった。うちは、大声で

「分かってるがな!」

バタバタと足音を立てて、洗面所にいき、顔を洗う。「(失敗した〜!今日は何がなんでも早く起きよって思ってたのにぃ!)」内心、悔しさで溢れながらも、急いで用意をしていく。うちが今日から通う高校は、家から十五分の距離。ほんでもって、入学式が、八時十五分スタート。入学式早すぎやろ。そんなことを思いながら、早歩きしていたからか、ドアに足を思いっきりぶつけた

「いったぁ」

叫ぶのをグッと堪えて、そう呟き、部屋にそそくさと入る。うちは、パジャマを脱いで、その辺に置き、おろしたての制服に身を包んだ。そして、鎖骨まである髪を、適当に櫛に通して、アイロンをする。姿見を見て、変なところがないかを確認して、ほぼ空のリュックサックを掴んで、リビングに行く。テーブルには、パンがお皿に一枚、焼きたての状態であり、コップに注がれたオレンジジュースがあった。きっと、ママが私が起きた時にわざわざ焼いてくれたんだろう。もう自分は食べ終わっているはずなのに。ありがたいなと思いつつ

「いただきます」

手を合わせてそう言った。一口食べると、きつね色に焼けたパンにバターが絡み合って、すごく美味しい。味わいつつも、急いで食べていると

ピンポーン

とチャイムが鳴った。ママが

「はーい」

と出ると

「神崎です。時華ちゃんはいますか?」

「いるわよ〜。すぐに出るから、ちょっと待っててくれてもいいかしら?」

モニターから、高くも耳に響かない、心地の良い声が届く。ママは、こっちを向いて

「聖那ちゃんが来たわよ」

「はふぁってる!」

ごくとパンを飲み込み、オレンジジュースを流し込み、リュックを肩にかけて

「行ってきます!」

「はーい、行ってらっしゃい。ママもすぐに行くわ」

「りょーかい」

うちはそう言って、真新しい運動靴を履いて、ドアを開けた。聖那は、ドアに当たらない位置の正面に立っていた。彼女は、優しく微笑み

「おはよう。時華ちゃん」

「おはよ!聖那」

うちはドアを閉めながらそう言った。そして、学校へと歩き出した

「今日もほんまごめん!」

うちがそう言うと

「気にしてないよ。それに、この方が時華ちゃんと、話す時間が増えるから好きだよ?」

と、天使みたいな返事をしてくれた。彼女とは、中学からの友達で、家が近く高校も一緒だったので、こうして一緒に行ってる

「クラス分け楽しみやね」

「そう?私は不安かな」

こてんと首を傾げて言った後、続けて

「中学は、時華ちゃんとクラスが、一緒だったから」

またまた可愛いことを言ってくれた彼女。うちは、彼女に抱きついて

「うち、どのクラスになっても、聖那がおるクラスに転入するわ!」

と言った。彼女はちょっと困った顔をして

「嬉しいけど、でも先生が困っちゃうから、休み時間、一緒に喋ろうね」

花がほころぶような笑顔でそう言う彼女。こんなことを話しているうちに、学校に着いた。うちらは、正門を潜って、入学式が行われる体育館へと向かう。途中で先輩方から、部活動勧誘のチラシをもらった。校舎をぐるりと半周して、体育館に着く寸前、ふと、屋上が目に入った。なんの変哲もないただの屋上に、何やら人影が二つ見えた。うちは聖那に

「なぁ、あそこに人おらへん?」

と言うと

「そうだね、一人………かな。でも、誰かと言い争いしてる感じみたい」

うちはびっくりした。うちには、二人に見えるのに、彼女には、一人に見えている

「もしかして、何か視えたの?」

「そうっぽい」

「どうするの?」

うちは悩んだ。正直に言って、関わりたくない。だって、霊系はろくな事がないから。けれど、何故か放っては置けない。あれこれ考えていると

「時華ちゃん!あれ……!」

小声で叫ぶという器用なことをした、聖那が屋上を指さす。うちは遠目ながら、なんやら不規則に光っているのを見た。あのまんまにしとけば、怖いことは起こらんと思う。けど、うちの中の何かが

「行かなきゃ」

自然と口から出ていた。聖那は

「だね」

と静かに言って、屋上に目掛けて、走り始めた。入学式どーしよとも思ったけど、別にええかとも思った。だってXXX回目の入学式やし。そう思った瞬間、頭の奥が痛んだが、走り続ける。うちは、足を止めずに疑問を感じる「(あれ、なんでうちら、初めて高校の校舎に入るのに、こんなにスラスラ行けるん?)」ただ、それはすぐに解消された。うちの前を走る、聖那を見て「(まぁ、聖那が事前に調べて、覚えたんやろ)」と日頃の彼女の記憶力の良さで、納得した。四階までかけ登って、屋上に着くと、床から数十センチ浮いている霊と、それを追いかけている人が争っていた。霊が、何かを言っているみたいだった。うちは聖那に、あれが何を言っているかを、通訳してもらった

「ちょ、まって!」

「逃がすか!」

「お願い、や、から。話を、聞い、て!」

「知るか!」

うちは、どう止めるか悩んだけど、答えは出ない。「(もう、しゃーない。なるようになれ!)」と思って、息を大きく吸い

「あのっ!!!ちょっとストップしてくれませんか!!お二人さん!」

と叫んだ。聖那は横で耳を押えて

「びっくりした〜」

そう言って、苦笑していた。先程まで争っていた二人も、肩を跳ねさせてこちらを向く。そして

「えっ?あんさん、これが視えてんの」

と、追いかけていた方の人に詰め寄られる。うちは

「えっ、えぇ。まぁ?」

曖昧な返事をしてしまった

「ほーう。そちらさんは?」

その人は聖那の方を向き、同じ質問をする

「えーっと」

彼女は言葉を濁し、曖昧に笑った。そりゃそうだ。見ず知らずの人に、こんな力、言えっこない。奇妙な間ができたが、あの人は

「まぁ、別にええわ。それより、なんで止めはったんです?」

目に怒りを滲ませて言った。うちは

「明確な理由なんて、ありません。ただ、うちの目にはその霊は、悪い霊に視えへんかったから」

そう答えると、あの霊は

「そーだよ!いきなり『この悪霊め、退治してやる!』なんて言われて、びっくりしたんだからね!」

腰に手を当てて、いかにも怒ってます感を出していた。聖那は、あの人のことを警戒していて、霊の言葉を聞き逃したらしく、うちも流石に、早口すぎてわからんかったから、首を傾げると、霊はポンと手を叩き、何やら呟いた。そうしたら

「これで聴こえる?」

頭ん中に直接、声が響いた。そのことにうちらは、三者三様の反応をする

「えっ、えっ?どーなってんの!」

「分かる…」

「す、すごい!」

うちらの反応に、霊は満足気な笑みを浮かべて

「よかった〜!」

と言った。すると追いかけていた人が

「なんでこんなことを」

そう聞くと、霊は少し哀しそう微笑んだ。しかし次の瞬間には

「うーん?それはね、私のお願いを聴いて欲しい、から?」

と、眉を下げて困ったように笑った。この言葉に、追いかけていた人は

「はん!どうせ、そんなことやろうなって思ったわ。お願い?そんなん聴くわけないやんか。霊の頼み事なんて、碌なことあらへん」

そう言って、印を組むあの人。うちは慌てて

「ちょ、まぁまぁ。そー言わずにさ」

二人の間に入り、宥める。その隙に聖那が

「お願いって、なんですか?」

「なっ!…もう知らへん」

霊は彼女の言葉を聞いて、嬉しそうに笑ってから、真剣な目つきになる。そして

「お願い。私の本体をXX Xして」

突然、吹いた強い風に邪魔されて、聴き取れなかった。が、霊の目がやけに凪いでいたのが、印象に残った。

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