兄からのプレゼント《竜之介》


「おー、竜之介、おまえ来週の金曜日、誕生日だろ?なんか欲しいものとかあるか?」

兄がネクタイを締めながら聞いてくる。

朝のリビングで。


社会人も2年目になってスーツ姿が板についてきた。……というか、悔しいが結局兄は何をやってもサマになる。なんでだよ…。


有栖は午前中はオンラインでテストがあるそうで、朝食をとったらすぐに部屋に篭っている。


「欲しいもの?買ってくれんの?新しいモデルのスニーカー。新作のスマホもいいな」

僕が朝食の皿を片付けながら言うと、兄は呆れたように笑った。


「お前なあ、有栖には何もいらないとか言っといて、兄ちゃんにはしっかり強請るのかよ…有栖が寂しがってたぞ、竜之介が甘えてくれないって…」

(有栖、さっそく兄にチクったのか…)


兄は、慣れた仕草でスーツの上着を羽織ると

「来週の金曜は俺は出張だ…それが俺からの誕生日プレゼントだ。有栖と2人で祝いな」

「なっ……」

僕は急な兄のセリフに持っていたコーヒーカップを落としそうになる。


「ただし」

兄は続けた。

「ただし、有栖を傷つけたら許さん…もれなくころす。……じゃあな、行ってくる…竜之介も遅刻するなよ」

兄はさっと手をあげて出勤してしまった。


冗談には聞こえなかったな。

「もれなく」のくだりが真顔だった。

僕は試されている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る