兄 《竜之介》

ずっと兄には敵わないと思っていた。


兄は大学生の頃から有栖の全てを守るために、身を粉にして働いていた。


有栖だけじゃない。

僕の面倒も見てくれた。大学に入れたのも兄の働いたお金のおかげ。

兄は父のお金を一円たりとも使おうとしなかった。父のすべてを拒絶した。


高校生の頃は、僕もアルバイトくらいすると言ったらしかられた。

お前は有栖のそばにいてやってほしい。そしてしっかり勉強しろ。

もし俺が倒れたり、学業を疎かにしすぎて、ちゃんと稼げなかったときのためにも、おまえはちゃんと勉強して、したい仕事について、有栖を支えてやってほしい。


いつもそんなふうに言われた。

だから僕はこうして有栖のそばにいる。


兄はそう言ったけど、昨年の春、ちゃんと一流企業に入社した。

そしてせっせと有栖と未来の有栖のために稼いでくる。


有栖が兄に惹かれて、有栖が兄のものになってもそれは仕方ないと思っている。それくらい兄は完璧だ。

他の奴らは許せなくても。


兄がずっと前から有栖を愛していて、誰よりも大切に思っていることくらい、僕だってとうの昔から知っている。


有栖が幸せになれるなら、それでいいって思う自分がいる一方で、有栖を自分のものにしたくてしょうがない自分もいる。

相反する感情がぶつかり合う中、僕はもうすぐ18歳になる。



有栖は長い入院生活で僕と一緒に卒業することはできなかったけれど、身体のことも考えて、通信制の高校に再入学した。ほぼオンラインで授業が受けられるから、兄も僕も安心している。

ただ、一般の高校と違い友達ができにくいから、有栖が寂しい思いをしていないか、それだけが心配だ。


僕は有栖の弟であり、世話役であり、友人。それ以上の役は回ってきそうにない。

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