第5話トゥールーズ前公爵side
≪≫死者の声
*******************
≪――――気色悪い。あの男全然変わってない!!メチャクチャ気持ち悪いんだけど!!!≫
「……」
≪あの男!寝室に秘密の隠し部屋を造ってやがる!≫
「……」
≪秘密の隠れ家!カッコイイ!とか思った私の気持ちを返せ!壁一面、私の肖像画とか、マジで止めて欲しいんだけど!しかも、私が捨てた筈の物まで大切に保管してるし!気に入ってた髪飾りまであった!どこで失くしたのかと探し回った記憶があるから間違いない!あいつが取ったんだ!!ふざけんな!!≫
「…………」
≪肖像画に向かって一日何回も「愛してる」って言うの!怖ッ!!気持ち悪ッ!!なんなの!?あの男!!≫
「…………」
≪聞いてます?お兄様!!!≫
「…………聞こえている」
≪あぁ~~~、良かった!お兄様てばさっきからずっとダンマリなんだもの≫
私の周囲をグルグル走り回る半透明の妹。
そう妹だ。
何十年も前に死んだ妹。
成仏しないまま公爵家に居ついてしまった。
いや、まぁこの家はこの子の家でもあるから居つくというのはちょっと違うのかもしれない。
はぁ……。
まさか自分の妹が
というか、人は死んだらそれで終わり。そう思っていたが……。
私の周りを飛び回る悪霊……もとい、私の妹、ローゼリア。
「また、王宮に行っていたのか?」
≪だって~~心配なんだもん≫
「何がだ」
≪私の孫息子が≫
「お前の孫ではなく、私の孫だ」
≪も~~~。いいじゃないそんな細かい事は。お兄様の孫は私の孫も同然よ!≫
「適当な事を」
≪お兄様だって心配でしょう?≫
「……あの子は歳の割にしっかりしている」
≪無理しちゃって!でもまぁ、何とか上手くやれてるっぽいわ≫
「そうだろうとも」
≪あの男は「義父上」って呼ばれて緩みまくった顔がキモかったけど……≫
「そう言ってやるな。お前の婚約者だったんだ」
妹は辛辣だ。
可愛らしい雰囲気の愛らしい美貌に反して中身は野生のゴリラ。
そんな妹がまさか十代の若さで亡くなるなど誰が予想できた?
少なくともトゥールーズ公爵家は予想してなかった筈だ。
例えトゥールーズ公爵領の領民全てが感染症で亡くなったとしても、ローゼリアだけは生き残っていると屋敷中の者達に思われていた。その妹が呆気なく亡くなった時は屋敷中が騒然とした。
妹の死にショックを覚える以上に「あのローゼリアが!?」という思いの方が強かった。
何かの間違いではないのかと何度も思ったし、死因を徹底的調べた。殿下の婚約者ということで命を狙われるケースも考えられたからだ。まあ、実際はアホな理由だったが……。
そして、死んだ妹の幽霊は兄の私以外は視えない。
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