第37話王太子side
今年はやけに華やかだと感じた。
気のせいかと最初は思ったが、招待客は妙にそわそわしているのが分かった。
何かあるのか?
答えは直ぐに解った。
それというのも会場に一組の夫婦が来場したからだ。
ギレム公爵夫妻――
ティエリー・ギレム公爵にエスコートされる
美しい!
婚約が無くなって以降、彼女を見る事はなかった。
八年間のギレム公爵夫妻の結婚式。ギレム公爵領で行われたもので、王家は誰一人として出席しなかった。王太子である私の結婚式に参加しなかった公爵夫妻だ。一応、公爵家ということで招待状を送ってやったというのに、何故か「不参加」で返ってきた不届き者達だ。
そうして十年間、私は元婚約者と顔を合わせることなく過ごしてきた。
十年という月日は少女を大人の女性に変え、近寄りがたい空気を持つ艶やかな貴婦人へと成長させていた。
アリエノールは眩しい程の輝きを放ち、私の目の前に現れたのだ。
艶のある銀の髪、神秘的なアメジストの瞳。女性らしい豊満な胸元と細く縊れた胴。均整の取れた美しい姿態から香る甘い香り。どれを取っても完璧だ。何より幸せそうに微笑む彼女の表情に引き付けられた。それは私だけではなかった。会場中の者達が公爵夫妻に魅せられていた。
「ア、アリエノール……」
つい、零れ出た名前。私の声が届いたのだろうか。一瞬だけ視線が交差した気がした。アリエノールは私に向かって艶然と微笑んだのだ。
一瞬で魅了される微笑み――
ホォ――……。
会場中が感嘆の溜息に満たされ、アリエノールは微笑み一つで招待客達さえも魅了してしまったのだ。
国王陛下への祝いの言葉が終わると、音楽が流れだした。
中央で優雅に踊るギレム公爵夫妻。
その優美な姿に会場中の視線は釘付けになった。私も踊る
ああ、何故、彼女を手放したのか。
この時、私は婚約を白紙にしたことを後悔した。
婚約を白紙にしなければ彼女と共に踊っていたのは私だった筈だ。
美しい彼女。
まさかあの子供がこんな美女に変貌を遂げるとは思いもしなかった。
私は躍り続けるアリエノールから視線を逸らすことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます