第34話ソニア側妃の評判
世間では大人気の王太子殿下とソニア側妃ですが、その評判が王宮内でも良いとは限りません。当然ですわね。王宮勤めの大半が貴族です。仕事をしない、出来ないソニア側妃の評判は芳しくありません。それには私の存在も少なからず影響しています。二つの公爵家から見放されては不安も尽きないのでしょう。
後宮で隔離されているとはいえ、侍女や侍従だけがソニア側妃に仕えている訳ではありません。下女や下男は彼女と同じ平民出身だっているのです。
ソニア側妃の後宮内での評判は最初は悪くありませんでした。
特に恋愛に憧れる若い侍女や下働きの平民には人気がありました。
若い女性達は『王太子と平民の少女の身分を超えた愛』という恋愛物語に夢見ていたのです。
もっともその夢も現実のソニア側妃を見て一瞬で夢から覚める者が続出しました。
王太子殿下に愛される平民の少女。
公爵令嬢を差し置いて選ばれた平民の少女。
公爵令嬢以上の美貌と気品と頭脳を持つ少女を想像していたのでしょう。それが残念過ぎる頭の持ち主だったのですから。夢から覚めるのは皆さん早かったようですわ。一時期後宮は大変な騒ぎになっていたようです。
『アレが新しい王太子殿下の婚約者……?』
『確かに綺麗だけど……ラヌルフ公爵令嬢に比べるとちょっとねぇ』
『非の打ち所がない可憐な公爵令嬢の後釜にしては……』
『頭もよくないみたいだし……え?殿下は彼女の何処が良かったの?』
『仕事は何一つしないんじゃないの?』
『あんな子が妃になれるなら私達だってなれるでしょ!』
一人の侍女の言葉は後宮にいる侍女達全員が思っていた事だったようで、その日から王太子殿下は侍女達にアプローチをされるようになったみたいです。まぁ、他人事なので、そんなの別に構いませんけど。あからさまなアプローチに眉を顰めるものの王太子殿下は彼女達自身は放置していました。ですが、それが良くなかったのでしょうね。数人の侍女が王太子殿下に媚薬を盛るという事件にまで発展したのですから。未遂で終わったとはいえ、侍女とはいえ未婚の娘が、しかも未婚の男性に薬を盛るなんて公になれば大問題です。関わった侍女達は即刻解雇になったそうです。
後宮の侍女は下位貴族が殆どです。
子爵家以下の令嬢達。彼女達は知らなかったのでしょう。平民の少女の実態を。
それに加えて、王太子殿下が選んだ女性というのがありもしない空想上の女性を作り上げてしまったのでしょう。
貴族令嬢にとって平民はある意味で遠い存在です。
彼女達がよく知る平民とは中流階級の者達です。そうでなければ商人、文官、騎士、といったところでしょうか?貴族令嬢が下町に出かける事はありません。ソニア側妃は中流階級出身ではありますが、育ちは下町といっても差し支えないでしょう。そんな彼女に教養や気品など期待できる訳がないのですから。
侍女達が自分にもチャンスはあるとでも思ったのでしょう。それはある意味で間違っていません。美貌以外は全て彼女達の方が上です。もっとも、「魔が差した」で終われる問題でもないですが……。
ソニア側妃を公の場に出さない決定をしたのはそういった背景も関係しているのでしょうね。
下働きに従事している平民たちの方が落胆は大きかったようです。
自分達と同じ階級。
同じ人種。
同じ者が『妃』になられたのですから。
当然、期待します。
貴族令嬢よりもずっと素晴らしい女性だと。
自分達と同じ存在が『お妃様』になったのです。『平民出身のお妃様』が自分達の暮らしを良くしてくれる。自分達の生活の質が上がると喜んだのでしょう。また、自分達も同じように価値が上がったと考えた者もいた筈です。地位が向上したのだと勘違いした平民だっていたでしょう。彼らも知らなかったのです。ソニア側妃の実態を。それを見て夢が覚めたどころか逆に失望してしまうなんて……皮肉なものですわね。失望から憎悪に変わらなかっただけマシかもしれません。後宮に従事する平民たちはソニア側妃を反面教師にしている様子ですから侍女達よりも現実を見る目を持っていると思いますわ。
夢から覚めた後宮の平民達は現実に生きています。
ただし、外の世界の平民達は未だに夢の中ですけれどね。
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