episode.12:自転車

「今日も僕を運んでくれるかい?」


 言葉はなく、ただただ頷く彼は自転車。

 

 手をつなぐ。

 彼が一歩踏み出すたびに、世界が流れる。

 頬にあたる風が気持ちいい。


「どこまで行こうか」


 彼が答えないことを僕は知っている。

 

「海を見に行こう」


 僕が言うと、彼は再び頷いた。


 空と草原の世界を抜けると、闇が来る。

 半円の筒の中、均一に配置されたオレンジの光が僕らを照らす。

 光が見えてくる。


 また闇。ただし、今度は瞬くものが。

 星だ。


 無重力の中を僕と彼は渡っていく。

 そのうち、青が見えた。


 地球。七割が海の青い星。


「今日もありがとう」


 彼ははにかんだ。

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