夢に現れるそれらの話

針間有年

episode.1:死神

「こんばんは」

 

 艶のある声だ。

 真っ暗な空間なのに彼女の姿はとても鮮明に見える。

 まっすぐな長い髪に、上品な黒のドレス。肌は異常なほど白い。

 

「私は貴方に死を届けに来たわ」

「ありがとう」


 僕は答えた。


「ほら、おいで。最終電車が来る前に」


 彼女の後方、映画のスクリーン。客席を割る真っ赤な通路に僕は立つ。

 

 カンカン、と音を鳴らす踏切。

 赤い光が左、右、左、右。

 黄色と黒が通せんぼ。


 彼女はスクリーンに沈み、遮断機をくぐって僕を手招いた。

 足が動く。一歩、また、一歩。


 わずかな振動。

 規則的な騒音。

 電車が来る。


「早く」


 妖しい笑みに惹かれ、ふらふらふらふら。

 彼女に酔わされた僕は、足元おぼつかず、転がるように客席に着いた。


 電車が通過する。


 肉体が踏みつぶされる音の後、映されたのは、踏みにじられた黒の薔薇だった。

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