第11話 ジュエルドラゴン
三階層の道中もモンスターは代わり映えせず、瞬殺で進んでいった。俺の配信を見ている人たちも楽しんでくれているようでよかった。あの透けていた神様に感謝だ。
三階層をしばらく進むと、急に空気が重くなる。この気配、ボスか……? ダンジョン初心者の俺には、殺気が俺に向けられていることしかわからない。
しばらく歩くと、鉄でできた扉が見えてくる。今までは木でできた扉だったから、物々しさ的にここがラストフロアか。
俺は息を大きく吸って、吐く。いよいよラスボスとのご対面か。三階層と短かったが、今の俺にはこれくらいがちょうどいい。スマホの画面を見ると夕方四時を過ぎたところ。高橋に見つかる前に終わらせなければ。
俺は鉄の扉の前に立つ。その奥には、体が宝石でできたジュエルドラゴンが俺柄を睨んでいた。凄まじい殺気だ。力に目覚めていない俺だったら失禁して逃げ出そうとしていたに違いない。今でも漏れそうだけど。
「ここがお前のすみかか」
『何をしに来た』
「それは当然、倒すためだよね」
俺はスマホを壁に置いて、モーニングスターを作り出し鎖で重い鉄球を回し始める。
ジュエルドラゴンは目を細くすると、咆哮をあげた。広々としたフロアだったからよかったものの、至近距離だったら鼓膜が破けている。
俺は念のために耳栓を作って耳にはめると、踊るように襲いかかった。ジュエルドラゴンは翼でそれを防いだ。並の硬さではない。俺は何度かモーニングスターを打ち込んだが、破片がぱらぱらと落ちるだけで砕けるには至らない。
ジュエルドラゴンがうざったそうに翼を広げると、俺は風圧で吹き飛ばされた。とっさに受け身を取り、両足を支えにして地面を滑る。
このドラゴン、硬すぎる。宝石というからもっともろいものかと思ったが、そこはドラゴン。そう簡単に崩れ去ってはくれない。
いつだか、会社の窓際でヒローワークを見ていたときに同僚が雑談していたのを聞いたことがある。硬いモンスターは魔法に弱いものと強いものに分かれると。ジュエルドラゴンはどう考えても後者だ。
だからなんとかして叩き潰さなければならないが、
俺はモーニングスターに
「この一撃ならどうだ!?」
再びドラゴンの翼膜に殴りかかる。がきんと鋭い音がして武器と翼膜がぶつかり合う。みしみしとモーニングスターの棘が食い込んでいく。感触ありだ。
俺はヒビが入った翼膜を足で蹴った。それが最後の一撃になったのだろう。モーニングスターが貫通して翼膜に穴を開ける。
宝石でできているから血が通っていないと思っていたが微量に通っていたらしく、ジュエルドラゴンは咆哮をあげて暴れだす。俺はさっと飛びのいて咆哮を直に食らわなくて済んだ。耳栓があってもあれは鼓膜破れる案件だぞ。
それまで座っていたジュエルドラゴンが立ち上がり、翼を広げる。直径は平均身長の男性六人分ほど。かなり大きい。
『許さんぞ、人間。この私の翼に傷をつけるなど』
「悪いけど、こっちは制限時間が迫ってるんだ。手短にやらせてもらうよ」
『星々よ。ジュエルドラゴンの名において、星の力を借りようぞ。我が敵を打ち払え。
詠唱つきの魔法だ。相手も本気だということである。俺の周りを光の粒が多い、俺に向かって降ってくる。
土煙があがる。ジュエルドラゴンはしてやったりと目を細めていたが、魔法が使えるのは何もお前だけではない。
『な……! 人間、なぜ生きている!?』
「同じ魔法を使う存在ならわかるだろ? 攻撃魔法には、必ず穴があるか守る方法があるってことを」
俺は無傷で立ち上がった。俺を覆うように虹色のシャボン玉のような防護壁ができている。
俺は
宝石が砕けたことでモーニングスターの棘がジュエルドラゴンの顔に突き刺さり、砕けた宝石も一緒に突き刺さっておびただしい血が地面にまき散らされる。
痛みにあえぐだろうと思っていた俺の顔を、ジュエルドラゴンの左目がぎょろりと見る。俺は本能的な危機感を覚えて飛びのいた。
ジュエルドラゴンの口からは炎が溢れ、殴打された左側の頬の宝石が修復されていく。こんな生命力、想定内にない。一体何が起こったんだ?
『私の美しい顔面を殴り飛ばしたな……。許さん。許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん!!』
そう言ってジュエルドラゴンはひときわ大きな咆哮をあげた。そのころには翼膜に開いた傷も完全に治っており、最終層ボスというのがどれほどの化け物なのかを思い知らされた。
だが、それに臆して死ぬわけにはまだいかない。俺は身体能力向上魔法を何重にも重ねがけして、俺の脚や腕が少し太くなったのを感じた。
「悪いが、こっちも死ねないんだ。俺の生活費のために、死んでくれ!」
それを合図にジュエルドラゴンは咆哮をあげる。そして大きな火球を何個も放ってくる。
俺はちょいちょいかすりつつもジュエルドラゴンの間合いに入った。そして頭を殴打しようとしたとき、ジュエルドラゴンが呟く。
『
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