第43話 発売イベントの朝、欠員一名

日曜の昼、天気は快晴。

 

JRの駅に隣接しているショッピングモールには、数え切れないほどの人が集まっていた。

 

円柱状の吹き抜けのアウトレットモールで、一階からお洒落なカフェや洋服屋、雑貨屋が入っている。その一階の中心の広場に、『ハル☆ボシに願いを! ブルーレイ発売イベント&握手会!』という大きな垂れ幕の付いた特設ステージが設置されている。

 

ステージの前には簡易フェンスで区切られた場所に、綺麗に人が整列されている。

 

三千人限定の握手会と言う事で、徹夜して夜中から並ぶファンで殺到した。


整理券は朝九時から配布とされていたのだが、前日からステージ前で場所を取る人が多く、近隣住民の迷惑になると言う事で、始発の時間には整理券を配布し終わるという混乱を招いた。

 

スタッフも意図していなかったほど、イベントは始まる前から盛り上がりを見せている。


 フェンスで区切られた場所に並んでいるのは見事握手会をゲットできたファン、その周りにいるのは、ひと目三人を見ようと集まった人たちだ。

 

普通の買い物客ももちろんおり、二、三階からステージを見下ろして「ハルちゃん見れるの?」と楽しそうにしている子供連れの家族もいる。


優に半日以上も棒立ちで待つはめになっても、ファン達は雑誌を読んだり携帯をいじったりしながら、じっと三人の登場の時間を待っている。


しかし、開始三十分前になってもMCの一人であるキレ芸リアクション野郎が、到着していない。


「っとに、どこで何してんだよあの馬鹿は……!」

 

恰幅の良い国友ディレクターは、あからさまな怒りを露わにいている。


「最悪、来なかったら星川君と桐島君の二人でこなしてください。司会のアナウンサーには僕から伝えておきます」


ピンマイクを付けられ、髪を直されている星川とハル。その横には、スペシャルゲストとして呼ばれる、相方のミカの姿もある。

 

星川がちらり、と袖から顔を出す。最前列には沢山の記者が陣取っており、その後ろには何千人ものファンが、今か今かと待ちわびているのだ。


「あの件、大丈夫ですか」

 

舞台袖で台本を見ている中津に、不安そうな星川がそっと近づいて囁く。


「おそらく。君は心配しなくていい。手は打ってある」


逆光で眼鏡の奥の瞳は見えない。中津は半ば自分の半身と化している携帯を取り出し、電話をかけた。

 

そんな中津の様子を横目で見ながら、ハルはじっと眼を伏せていた。

何か、覚悟を決めたような顔をしている。

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