17章 帝都への長い道  07

 翌日は俺たちが先行して地下11階へと進んでいった。


 出てきたザコは物理オンリーの10階までとは真逆ですべて霊体系だった。精神異常を引き起こす人魂型の『イヴィルスピリット』、範囲魔法を使ってくる貴族風幽霊の『カウントファントム』、そしてDクラスボスだった巨人型の『エレメンタルガーディアン』だ。


『イヴィルスピリット』に関しては精神異常系の耐性スキルを持っている者が多い上にイヴィルスピリット自体は強くないため、スフェーニアたちの魔法とラーニの属性付与の剣撃で次々と倒していくことができた。


『カウントファントム』に関してはアンデッドなので、フレイニルの開幕『昇天』でほぼ全滅、辛うじて耐えた個体も魔法の追い打ちで消滅する。


『エレメンタルガーディアン』は火属性、水属性のものがまじってでてきたが、彼らは物理攻撃が多少効くタイプなので、常時オーバーキルな俺のメイスには耐えられない。


「今回はボスに来るまでが随分と早かったのう」


 ボス部屋前で鬼人族の巫女シズナが首をかしげると、ギルド職員のマリアネが返す。


「『カウントファントム』がフレイのおかげでほぼ戦っていませんからね。あれだけ強力な対アンデッド能力は、アーシュラム教会の歴代の聖女の中でも稀でしょう」


「なるほどのう。普通に戦えば厄介な相手のように見えたが、ほぼ一発で全滅じゃからの。モンスターも浮かばれまい……いや、成仏したのだからむしろ浮かばれるのかのう」


「神の御許みもとに昇ったのであれば救いはあったと思います」


 フレイニルが元聖女らしく答えるが、モンスターに成仏という概念があるかどうかは一考の余地がありそうだ。


「ともかくボスだな。『エレメンタルフェニックス』だったか? 飛行型で物理に強いとなると後衛が頼りだ。頼むぞ」


「はいソウシさま」


「お任せください」


「魔法を撃ちまくろうぞ」


「魔法戦なら我が力を見せることができよう」


 フレイニルにスフェーニア、シズナとゲシューラ、後衛4人は頼もしい限りだ。


 扉を開くとサッカーコート2面分はありそうな広大な空間だった。天井までは30メートルくらいありそうだ。飛行型ボスならではのロケーションである。


 現れた『エレメンタルフェニックス』は3体。『フェニックス』の名の通り全身に火をまとった巨大な鳥……というより炎が鳥の形を取っていると言った方が正確か。それが3体空中に現れたのだが、奥の1体だけ炎が7色に輝いている。


「奥の1体はレアボスですね。情報にはありませんが、見た限り複数属性を持つものでしょうか」


「そんな感じだな。皆、とりあえず手前の2体を倒す。氷系の魔法で対応してくれ。俺は前に出て攻撃をひきつける」


 俺だけ突出して前に出て『誘引』を発動する。


 2体のエレメンタルフェニックスと1体のレインボーフェニックス(仮)が反応して、翼を大きく羽ばたかせる。


 翼から無数の炎の矢が現れ俺に向かって飛んでくる。多少拡散しているので逃げ場はない。もちろん『不動不倒の城壁』ですべて受けきる。周囲の地面にも炎の矢が降り注ぎ、その熱量だけでも相当なものだが、それは『全属性魔法耐性』『炎耐性』のおかげでダメージにはならない。


 同時にこちらから放たれた合計で100本を超える氷の槍が、エレメンタルフェニックス一体にまとめて突き刺さる。一応回避はしようとしたようだが、スフェーニアの『狙撃』『必中』スキルの効いた魔法が先制して命中すると動きがとまり、そこにすべての魔法が命中した形である。


 キィエエェェェ……


 甲高い悲鳴とともに一体は消滅した。一息で1体が倒され、残り2体は驚いたように広がって距離を取った。エレメンタルフェニックスが再度羽ばたくと、俺を中心に炎の渦が巻きおこる。同時にレインボーフェニックスから七色の光線が断続的に放たれる。俺は盾を構えて前に出ることで、どちらも防御、回避をする。


 その間にエレメンタルフェニックスの背に2条の光線、フレイの『聖光』が直撃、動きが止まったところにラーニとカルマの『飛刃』スキルによる飛ぶ斬撃が命中する。特にラーニの方が『属性付与』もあってダメージが大きいようだ。


 ぐらりと巨体を落としてきたそいつに向かって俺は『衝撃波』を放つ。『水属性+3』アクセサリの効果もあってそれがとどめとなり、残るはレインボーフェニックス一体となった。


 シャアァァァ……ッ!


 危機を感じたのか、レインボーフェニックスは翼を大きく広げて威嚇するようなポーズを取った。多くの戦いの経験からか瞬間的に嫌な予感を感じ、俺はメイスを構えた。


 レインボーフェニックスの全身が輝き、全方位に七色の光線が放たれた。まさかの無差別全方位攻撃とは。


「らあッ!」


 対抗するように俺も『衝撃波』を連続放射する。光線をメンバーの方に届かせるわけにはいかない。多少でも余裕があればフレイが『結界』で対処するだろう。


 光線自体がどんな属性の攻撃なのかは不明ではあったが、『衝撃波』の干渉は受けるようで、俺の方に飛んでくるものは軌道をそらされて壁や天井に着弾している。


 その全方位攻撃は30秒ほど続いたが、俺の『衝撃波』でどうやら凌ぎきったようだ。後ろを見るとメンバーにもダメージはない。


「我が落とす」


 大技の後の隙を逃さず、ゲシューラが雷魔法を放つ。今までよりも強力な稲妻が、レインボーフェニックスを打つ。さらにスフェーニアとシズナの氷の槍が多数突き刺さると、ギエェ……と叫んで地面に落ちてきた。


「とどめは待ってくれ!」


 その時ピンときて、俺は落ちたレインボーフェニックスに接近、『強奪』スキルでお宝を奪う。そのままメイスを叩きつけると、レインボーフェニックスは粉々になって消え去っていった。


 戦いが終わると、メンバーが俺のもとにやってきた。


「ソウシの『強奪』は久しぶりじゃない? なにが取れたのっ」


 ラーニが興味津々という顔で俺の手元をのぞきこんでくる。


 そこにあるのは七色に輝く水晶が柄頭についた、ミスリル製の短杖だった。ひと目で強い力を内包していることがわかる武具である。


 マリアネが鋭い目で『鑑定』をする。


「……『ビフロスト』という、名前付きの武具ですね。『全属性魔法耐性+3』『全属性魔法力+3』『消費軽減+3』のスキルがついています。こちらも国宝級のものになります」


「見るからに力を秘めていそうな杖じゃのう。しかもあのボスから奪ったということになれば、ソウシ殿でなければ手に入らぬ逸品じゃな」


 シズナの言うとおりなのだが、そうするとこの世界にはまだまだ知られていたない武具が多くあるということか。


 ちなみに『名前付き』の武具は一点物なのだが、存在するものが壊れるか紛失するかすると新しくダンジョンで入手できることがあるらしい。この世界の不思議なことわりの一つのようだ。


「とにかくこれはスフェーニア用だな。ようやくランクにふさわしい武器が手に入ってよかった」


 俺が『ビフロスト』を手渡すと、スフェーニアは魅入られたようにその短杖を見つめ、そして多少浮かれたような表情で俺に視線を向けた。


「ありがとうございますソウシさん。この杖はとても強く、清浄な魔法の力を感じます。ハイエルフ秘蔵の杖にも匹敵……いえ、上回るものかもしれません。大切にすると同時に、これからもソウシさんのお役に、パーティのお役に立てるように精進します」


「期待してる。スフェーニアは遠距離戦の要だからな。今後も頼りにさせてもらう」


「はい、お任せください。すべてはソウシさんのために」


 うん? どうも昨日の真珠の指輪の一件からスフェーニアの様子が少し変な気もするな。


 さすがに彼女の言動をずっと見てきて、俺に特別な感情を持っているのかもしれない……と思わないでもないところではあるが、こういう言い方をされると戸惑ってしまう。


 どちらにしてもまずは自分の行く先を見極めてからだ。そのためにもこの未踏破のAクラスダンジョンを攻略しなければな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る