15章 邂逅  08

 さて、いよいよ最終日である。最下層の20階までは本当に一気に進んでしまった。


 オークの上位種『オークジェネラル』、ミスリルの角を二本持つ巨大馬の『ミスリルバイコーン』、そして黒い炎をまとった人影のような霊体系モンスター『シャドウフレア』。これらがザコとして現れたが、厄介なのは物理攻撃が効かない『シャドウフレア』だけだ。


 それも俺が『水属性+3』のアクセサリーを身につけていることで問題にはならなかった。


「ソウシさまはついに魔法攻撃も身につけられたのですね」


 とフレイニルが不安そうな顔をしたのは、自分が用なしになってしまうのではと危惧したからだろう。


「フレイの魔法の方がはるかに強力だから今までと変わらないよ」


 一応フォローはしておいたが、彼女には能力関係なく必要とされているということを一度伝えておいた方がいいかもしれない。


 ボス部屋の扉はBクラスダンジョンの最下層にふさわしく高さ10メートルはありそうな巨大なものだった。


 開いて中に入ると、やはりサッカー場ほどもある広大な空間が広がっている。天井も高いがそれもそのはず、ここのボスは神話でも有名な『ヒュドラ』である。


 大量の靄の中から現れたのはやはり9つの首をもつ大蛇だった。全長は30メートルを軽く超えるだろう。言うまでもなく超強力な『再生』スキルと猛毒を持ちの難敵である。


 初手の『神の後光』はやはり効果が薄いようだ。


『ヒュドラ』は小細工なしでこちらに高速でにじり寄ってくる。スフェーニアとシズナが放った50本ほどの『フレイムボルト』が命中し首が二本灼け落ちる。


「なんと、もう再生が始まっておるぞえ!」


 シズナが叫ぶのも道理で、炭になった頭部が破裂して中から新しい首がぼこぼこと盛り上がるように生えてくる。


 俺は二体の『精霊』とともに前に出て、『ヒュドラ』の噛みつき攻撃を正面から受け止める。口を開けて迫る巨大な蛇の頭は俺のメイスによって次々と爆散する。しかし同じスピードで再生されるので埒が明かない。ラーニとマリアネも左右から首を落としに行くが、やはり斬ったそばから再生される。


「ねえソウシっ、これをずっと続けるしかないのっ?」


「どうもそれしかないらしい。『再生』が遅くなるまではこのままだ」


 ガイドによると、『ヒュドラ』にはこれといった攻略法はなく、ただひたすら首を落として再生力が弱まるのを待つしかないらしい。と言っても噛みつかれることがなければ俺たちにとってはそこまで脅威となる攻撃はない。そもそも俺のメイスで簡単に爆散するしな。


 シズナの『精霊』も2体で一つの頭を相手に善戦している。マリアネの何本目かの鏢が突き刺さると明らかにヒュドラの動きが緩慢になった。再生力も一気に落ちた気がする。


「『毒』が効いてきたようです。一気に止めを」


 マリアネの言葉を聞いて俺たちは猛攻をかける。ヒュドラの再生力がさらに弱まっていき、最後は完全に再生がされなくなり、すべての頭部を失った大蛇の巨体が床に崩れ落ちた。


「ふぅ、ボスでこれだけ長期戦になるのは初めてじゃのう」


 シズナが座り込みながら呼吸を整える。魔法の連続使用で体力を消耗したようだ。


 一方で見た目に体力のなさそうなフレイニルに疲れた表情はない。ひたすら魔法を連射していたと思うのだが頼もしくなったものだ。


「でもその分スキルが強くなった気がします。魔法もいっぱい使いましたし」


「これだけスキルや魔法を使える相手はそうそういないからな。ある意味いいボスかもしれない」


 ちょっとだけゲーム脳的なことを言っていると、スキル獲得の感触。


 俺は体幹強化スキル『鋼幹』の上位スキル『金剛幹』を得た。攻守ともに地力を上げる効果がありそうだ。


 フレイニルは『二重魔法』の5レベルアップだった。耐性スキルほどではないが魔法系のスキルもレベルが上がりづらい。上位スキル取得を目指すならレベルを上限にしないといけないので地味にありがたい。


 ラーニは『飛刃』。これはカルマなども使っている斬撃を飛ばすスキルだ。ラーニはかなり喜んでいたが、思ったより体力の消耗が多く連続では放てないらしい。体力アップが急務になるだろう。


 スフェーニアはかなり欲しがっていた『二重魔法』を得られたようだ。『先制』『充填』と合わせると強力な魔法を先制攻撃で放てるようになるが、その分体力の消耗も跳ね上がり、待ち時間もかなり伸びるとのこと。


 マリアネは『空間蹴り』で、これはラーニが持っているものと同じだ。これで二段ジャンプが可能になり、ますます忍者感が増した。


 シズナは『範囲拡大』で、これもフレイニルが持っているものである。試しに『フレイムボルト』を放ってもらったが、普通なら10本の炎槍が飛ぶところを、15本の炎の矢が広がって飛ぶ感じになった。今回何度か出てきた大群系のモンスターに有効だろう。


 ともかくこれで初のBクラスダンジョン踏破である。やはり『ソールの導き』は個々の能力も高く、いい連携ができるようになっているので、まったく危なげがなかった。正直俺自身はかなり手加減していたので、気を抜かなければダンジョンでどうこうなることはない気がする。


 さて、これでオーズでやることもなくなった。いよいよエルフの奥里に向けて出発しよう。

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