12章 王都にて 10
翌朝朝食をとった俺たちは、可能な限り身なりを整えると、宿の外で待つ王家の使いの馬車に乗った。
馬車に揺られること15分ほどで王城を守る第二の城壁の門をくぐり、さらにそこから5分ほどで王城前の庭園へと出る。
窓の外に見えるのは見事なまでに手が入った西洋風の庭園である。城塞都市内にあってもその広さは端が見えないほどで、それだけで君主制国家の国王という存在がどれほどのものかを見せつけられる。
しかしそれ以上に圧巻なのは馬車を下りて見上げる王城であった。表面が磨き上げられた石造りの巨大建造物は、科学技術の進歩だけではとうてい再現できない工芸の極致を誇っていた。
俺たちが溜息をもらしていると、来賓用の玄関前ですでに待ち構えていた老年の紳士がすっと近寄ってくる。
「『ソールの導き』の皆様ですね。お待ちしておりました、こちらへおいでください」
所作に隙のない執事的な老紳士の後について王城内に入る。
天井も壁も白一色の通路に、真紅のカーペットが敷かれている。その柔らかい感触を踏みしめながら歩いていくと、高級な調度品が並べられた控えの間に通された。
老紳士に促されソファに座ると、すでに待機していたメイド嬢がお茶を並べてくれる。雰囲気的には超高級ホテルに来たような感じであろうか。
「遠路はるばるようこそおいでくださいました。わたくしは皆様のお世話役をさせていただきますレイロットと申します。まずは一息お入れいただいて、それから今後の予定、謁見の際の礼法をお伝えさせていただきます」
そう言うとレイロット氏はフレイニルのことをちらりと見たあと、メイドに一言声をかけて一旦部屋の外に出て行った。
「フレイ、知っている方なのか?」
「はい、こちらに来た時はよくお世話をしていただいた方です。まだ筆頭執事でいらっしゃるはずです」
「それは結構な待遇だな」
王城における執事というのがどこまでを仕切るのかは分からないが、少なくとも筆頭執事というからには全体を仕切っている人なのだろう。そんな人物がにわか英雄など相手にするとも思えないし、これもフレイニルがいるゆえなのかもしれない。
その後程なくしても戻って来たレイロット氏から予定を聞き、謁見時の礼法を教わった。
ありがたいことにこちらはほとんど話す必要はなく、挨拶のみを行えばあとは勝手に儀式が進んでいくようだ。冒険者のように出自がバラバラな人間でも形になるように簡略化されているのだろう。
時間が来て、レイロット氏の案内で謁見の間まで行く。ラーニがそわそわしている以外は、フレイニルはもとよりスフェーニアもマリアネも非常に落ち着いている。俺もなるべく平気な顔をして歩いているのだが、さすがに喉が渇いてくる程度に緊張はしている。
白塗りに金の装飾が施された重厚そうな扉の前でいったん止められる。見上げると高さが7~8メートルはありそうで、いかにも謁見の間前という趣だ。
「では謁見の間へお入りいただきます。先ほどの礼法の通りにお願いいたします」
レイロット氏が合図をすると、扉の左右にいた係官が扉をゆっくりと開く。
「冒険者『ソールの導き』、ソウシ以下5名、陛下の御前へ」
係官の呼び出しとともに俺たちは謁見の間へと入っていく。
そこはコンサートホール並に広い部屋であった。まず目に入ってくるのは50メートル程向こうにある空の玉座だ。部屋の左右に並ぶ装飾が施された柱や、床に敷かれた真紅のカーペット、そして壁や床をなす大理石の並びまでが玉座を中心に配置されている。壁に施された装飾の精緻さは名工の手によるものと思われ、この国の建築技術の粋がここに集められているのだろうということは想像に難くなかった。
しかしそれは言ってみれば想定内である。俺として問題になるのは、謁見の間の左右に護衛の兵とは別に100人を超える人々が並んでいることであった。彼らは全員が重厚な礼服を身にまとっており、いずれも国家の要職にある人々、高位の貴族と思われた。無論マルガロット姫の姿もその中にある。
情けない話だが、俺はこの瞬間まで褒賞が
しかしこの状況はどう見てもそんな軽いものではない。俺たち『ソールの導き』のお披露目を兼ねた場であるのは明らかだった。
「前へ進まれよ」
一瞬立ち止まってしまった俺に、レイロット氏が耳打ちする。
俺は気を取り直して、ゆっくりと玉座の前まで進みでる。
10メートル程前で立ち止まり、そこで膝を折る。あとは頭を垂れて王のご出座を待つだけだ。
程なくして「国王陛下御出座」の声がかかり、脇の扉より4人分の気配が現れ、ゆっくりと玉座へと向かっていく。一人は国王、一人は介添え、二人は護衛といったところか。
一人の気配が玉座に着く。
「『ソールの導き』一同、面を上げよ」の声で俺たちは頭を上げる。ただし国王陛下の顔は直接に見てはいけないらしい。
「『ソールの導き』ソウシ以下5名、勅により御前に
俺が事前に覚えた口上を述べると、国王陛下は微かに頷いたようだ。
「遠路はるばるご苦労であった。さてソウシよ、そなたは先日バートランにて『黄昏の眷族』一人を討伐したと聞く。このことに相違はないか?」
「は、相違ございません」
「うむ。その時に得た魔石はこちらで相違ないか?」
介添えの男性が手にしたトレーの上に心臓の形をした魔石が載っている。
「は、相違ございません」
「よろしい。余、ゼイクリッド・ヴァーミリアンの名において、汝ら『ソールの導き』の成し得た『黄昏の眷族』討伐の功を認めよう。しかして、その功績に対して褒賞を
「御前の御心に感謝いたします」
というわけで、その後は事前に知らされた通り1億ロムと勲章が下賜される旨が発表された。
褒賞の内容自体は当然事前に打ち合わせられていたはずで、周囲の廷臣諸氏にも特段の反応はなかった。ただ退場する時に「あれは公爵家の……」「ハイエルフではないか……?」という声が聞こえてきたので、やはり注目は避けられないようであった。
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