第4話 龍人の少女

 リュウエルは龍人であり、見た目が普通の人間の十八歳くらいなのに対して、実年齢は実に二千歳を超えている。


 白髪で眠たげな印象のある見た目をしており、額には角が生えている。


 俺との付き合いは二千年にも上り、軍神であった頃の俺を知っている数少ない生き残りの一人だ。


 そんなリュウエルではあるが、今はただの冒険者である一人の少女として町で暮らしている。かつて、軍神と共に数多くの戦場を巡り、死地を乗り越えてきた彼女ではあるが、冒険者としては、これと言って目立った活躍をしていなかった。その代わり、町や冒険者の事情には人一倍詳しかった。


 だから、今回の事件についてもリュウエルならば何かを知っているのではないかと考えたのだ。


 リュウエルは、いつものように人通りが激しい大通りにあるベンチに一人腰掛けていた。彼女は、情報収集のために大抵いつもここで様々な人や出来事を眺めているのだ。


「久しぶりだな、リュウウェル。」


「なんだ、キョルか。何か僕に用事でもあるのかい?」


「何度も言ってるがそキョルという呼び方は止めろ。もうとっくの昔にキョルケスの名は捨てたんだ。会うたびに記憶がリセットされる奴だな、お前は。」


「そうだったね。でも、ほら僕にとって一番長い時間を君と共に過ごしたのは、君がキョルケスだったときなんだ。一番長い時を過ごして、最も記憶に残る経験をしたのはね。」


 リュウウェルはそう言うと、寂しそうに笑った。リュウウェルにとって、俺はいつまで経ってもキョルケスなのだ。リュウウェルは、あの時代のことを未だに忘れられないでいる。多くの仲間ができ、多くの伝説を作り、そして多くの仲間を失ったあの時代を。


「それで、…京介だっけ、名前?」


「ああ、間違っても誰かの前で、キョルケスの名前を出してくれるなよ。」


「はいはい。で、もう一度聞くけど、僕に何か用事でもあるんじゃないかな?…まあ、京介が旧友との会話をしに来ただけというなら、それでも構わないのだが。」


「残念ながら、ただ会話をするためにお前を訪ねたわけじゃない。少し知りたいことがあってな。…最近、この町で原因不明の病が流行っているという噂を知っているか?」


 単刀直入に質問をした。質問の前に、昔話に華を咲かせるのも悪くはなかったのだが、事態は急を要する。死人が出る前に、問題を解決しなければならない。


「もちろん、知っているとも。それで、何が知りたいんだい?発生時期かい、それとも被害者の共通点かな?」


「話が早くて助かる。知りたいのは、被害者の共通点だ。皆町から外に出て、戻ってきた後発症しているということは確認できている。」


 流石は、二千年来の友人である。こちらが聞きたいことを、伝えるでもなく察してくれた。


「確かにその通りだ。発症している者は、皆町の外に出ている。具体的には、町の外に存在する蛇王の墓所の近くを通りかかかっている。」


 蛇王の墓所、また懐かしい名前がでてきたものだ。かつて、人に仇なす存在であった蛇王を俺がこの手で屠り、建てた墓の名前だ。しかし、なぜ今さらその蛇王が関係してくるのだろう。あの時、確かに殺したはずだ。となると、可能性は一つしか残っていないが。


「…蛇王の呪いか。」


「まず、間違いなくそう考えても良いだろう。あの時の状況と酷似している。」

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