脳みそチャレンジ
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脳みそチャレンジ
地元商店街のイベントで、「脳みそチャレンジ」というクイズイベントが開催されることになった。
優勝賞品は、シークレットで優勝してからお披露目だ。
イベントを告知する大型ポスターを前に、2人の学生が居た。
一人の少年は、思春期を迎えながらも、まだ幼子が持つ快活な様子を持っていた。
少年の名を
もう一人は、ゆかしさを持った好ましい少年だ。
名前を、
「行彦。どうしてクイズ大会に出場することにしたの?」
謙吾が訊く。
「モテる為に決まっているだろ。その為の条件は、高学歴、高収入、高身長の3高だからな」
自信満々に言った行彦を、謙吾は呆れた様子で見る。
しかし、その謙吾も、内心ではモテたいと思っていた。彼もまた、行彦と同じように異性に対して無縁な日常を過ごしていたからだ。
「学生だから高収入は無理だ。背を伸ばしたくても急にできないから高身長も無理。そうなったら、頭の良さをアピールするしかねえだろ」
「僕の成績は中の下で、行彦は赤点ギリギリだよね」
謙吾の言葉に、行彦の表情が強張った。
行彦と謙吾の成績は、低レベルでの接戦だった。
「だからだ。成績じゃねえ、俺たちの博識と教養の高さを、このクイズイベントで披露することで、女の子達のハートを掴むんだよ!」
拳を握って力説した行彦を見て、謙吾は思った。
(確かに、行彦の言う通りかもしれない)
謙吾は納得する。
「いいか。クイズは拳銃の早打ちと同じだ。問題を聞いて考えてからじゃ遅れを取るんだ。早押し機のボタンを押した時は、反射的に答えが出なきゃいけねえ。分かったか?」
行彦の言葉に、謙吾は頷く。
「分かった行彦。僕と行彦、どっちが優勝するか勝負だよ」
「望むところだ謙吾」
2人は、空中で手と手を打ち合わせて握りあった。
◆
イベント当日。
会場には、10人の参加者が集まった。
全員筆記試験を通過した猛者たちだ。
行彦と謙吾の手は、すでに早押し機の上に置かれている。
司会を務める男性が、マイクに向かって喋り始めた。
行彦は、挨拶や前置きや優勝賞品の説明などどうでもよく、ただ目の前のボタンに集中していた。
赤く丸い半円をしたボタンを前に、行彦の額から汗がにじみ出る。
謙吾もまた、緊張していた。
二人の息は深く静かになっていた。
だが、心臓は激しく鼓動している。
拍動する度に酸素を抱えた赤血球が全身に駆け巡っていくのが分かった。静止している姿は彫像のようでありながら、肉体はフルスピードランニングをしているかのように筋肉が躍動し、血液が沸騰しそうなほどに熱かった。
二人は、今この瞬間、自分が生きていることを実感していた。
そして、クイズが始まる。
司会者が言った。
「問題。6を英語で言うとシックス、靴下を英語で言うとソックス、じゃあ、「アレ」は?」
行彦の手が、動いた。
謙吾の指も動く。
二つの赤い丸が、同時に押される。
ピンポンという音が鳴り響いた。
行彦の方が早かった。
瞬間、彼の口から激しい銃声のように回答が鳴り響く。
「◯○◯◯!」
会場は一瞬にして静寂に包まれ、すべての視線が行彦に向けられた。
行彦の顔は真っ赤になっていた。
羞恥心ではない。
興奮によるものだ。
質疑に対し頭で考えるのではなく、心に浮かんだ言葉を誰よりも早く言った。
達成感があった。
自分は勝ったのだ。
そう思った時、自然と笑みが浮かんだ。
今の行彦に、誤答したブザー音など聞こえない、彼の中では次のクイズの出題に向けられていたからだ。
やがて誰かが正答を答える。
問題は続く。
「車の中をベッドにし、愛がなければできない出血を伴う行為は?」
「Hになるにつれて固くなっていく棒は何?」
「終わった後に汗だくになってしまう『クス』で終わる運動は?」
次々と出題されるクイズに、行彦の指が動き叫ぶ。謙吾も行彦に負けずと心に思った事を叫んだ。
だが、優勝者が出る前に二人は会場からつまみ出されることになる。
「どうしてですか」
喚き散らす行彦の横で、謙吾が冷静に抗議をしたが、商店街会長と副会長は怒り心頭といった様子で怒鳴った。
曰く、低能レベルの回答ばかりしやがって!
と言って、回答用紙を投げてよこした。
「……なあ謙吾。何て回答したか覚えてるか?」
行彦は、手にしたクイズの回答を見て訊いた。
「……さあ。ほぼトランス状態で回答したから、覚えてないよ。僕らが回答する度に、会場が爆笑の渦になってたのは覚えてるけど。ところで回答は何だったの?」
謙吾は腕組みをしながら、回答を見た。
ザット(that)、献血、鉛筆、エアロビクス……。
二人は頭を捻る。
「……どんな出題だったんだろうな」
「さあ?」
行彦の疑問に、謙吾が首をかしげる。
そんな二人を、会場に来た女性たちは遠巻きに汚物を見るような目つきで見ていた。
結局、優勝賞品はペア旅行券であり、リア充以外には価値がないものだったことを、二人は知ってがっかりしただけであった。
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