第39話 夕食の筈が……
今日のメニューは予定通り、カルパッチョとバター焼き、アクアパッツアで、主食はパンだ。
「料理まで出来る様になったというのは驚きだな。魔法だけじゃなくてさ」
「ああ。でもジョンだって実は最初から文字の読み書きが出来たんじゃないか? 計算とかも」
この機会にさらっと聞いておく。
「バレたか。うちの親父は元冒険者だからさ。文字の読み書きも算術もやらされていたんだ。此処で何をやるかわかっていたから」
「狩人の前は冒険者をやっていたのか」
「ああ。やっとこさC級って言っていたけれどさ」
なるほど、冒険者C級なら文字の読み書きや算術くらいは当然出来る。
村では他にあわせて、文字の読み書きが出来ない振りをしていたのだろう。
「それで装備とかは大丈夫かニャ? 槍と弓を使うと聞いたのニャけれど」
「冒険者ギルドから借りています。9月終わりまで借りてていいと聞きました」
ミーニャさん、ちょっと考えつつ、スズキのカルパッチョを5切れ口に放り込んだ後。
「なら食べ終わったら少し待つのニャ。私の装備の予備を持ってくるのニャ。槍も弓も革鎧もあるのニャ。冒険者ギルドのものよりは大分ましニャから、エイダンと相談で、どれか使えるのがあるか見て欲しいのニャ」
「いいんですか」
「明日の依頼はともかくとして、その次の依頼はガチガチの戦闘系討伐なのニャ。いくらアレがいるとは言っても、少しでもいい装備で、少しでも慣れた状態で行った方がいいのニャ。ニャんなら今取ってくるのニャ。だから料理はこのままにしておいてなのニャ」
ミーニャさんはそう言うと部屋から出て行く。
「何なら運ぶのを手伝いましょうか」
「誰かを入れられる状態じゃないのニャ。だから気にせず待っているのニャ」
門から出て行くのでは無く、塀を跳び越えるルートで行ったようだ。
「何か申し訳無いな。エイダンやミーニャさんにおんぶにだっこ状態で」
「俺の方は問題無い。ミーニャさんはまあ、ああいう人だからさ。俺も近くの店を案内してもらったり、冒険者ギルドの事を教えて貰ったりしているし」
その辺りを考えれば、夕食を食べられまくっていること位、多めに見てもいいかもしれない。
そう考えても、食べに来る頻度と食べる量が多すぎる気はするけれど。
しかし俺の趣味とミーニャさんの趣向が噛み合ってしまった結果、仕方ないのだ。
ミーニャさんの嗅覚を逃れることは不可能なようだし。
俺がパン一切れにバター焼きのバターをつけ、バター焼きのスズキを載せて食べ終わった頃。
どさっ、そんな着地音がする。
ミーニャさんが戻ってきたようだ。
すぐに扉からミーニャさんが入ってきた。
あれもこれも背負った、夜逃げスタイルという感じだ。
「取り敢えず使えそうなのを並べたのニャ。適当に見繕って欲しいのニャ。どうせエイダンがいるニャら持ち運びはしてくれるから、遠慮せず選ぶのニャ」
槍が長短2本、弓も長短2張、片手剣1振、そして鎧も革鎧と鎖帷子と2種類ある。
「これだけ持ってきて、ミーニャさん自身の装備は大丈夫なんですか?」
「私の基本装備はここには持ってきてないのニャ。格闘戦メインなので最低限、籠手だけあれば充分なのニャ。この辺はいつか使う機会があるかニャと思って揃えて、ほとんど使わないまま放置していたのニャ。ただ弓を使うなら、矢は20本しか無いから明日以降買っておく必要があるニャ」
そこまで説明した後、ミーニャさんは爆食モードに突入する。
どれどれ、それでは武器を見せて貰おう。ジョンは短い方の弓から確認するようだ。
「この弓、ちょっと重いですけれど使いやすそうですね」
「鉄弓なのニャ。小さいけれど強力なのニャ。慣れると速射も出来るのニャ。ただ獣人用だから、多少重いのは仕方ないのニャ」
一方俺は鎧をまず確認する。まずは革鎧からだ。
「これは魔物の革と鉄ですか」
「ランドバッファローの革を重ねて鉄金具で留めたものニャ。補強部分は鋼ニャ。サイズは革ベルトであわせられるニャ」
確かに冒険者ギルドで借りたものより頑丈かつ軽量だ。そしてフリーサイズと。
でも補強部分の鋼がちょっと重い。ここには、むしろ……
「ミーニャさん。この革鎧、少しだけいじっていいですか」
「好きにしていいのニャ。私の戦闘スタイルには合わニャいから、使わないのニャ」
だったら売ればそこそこいい金額になる気がする。
装備類は買うと結構高いのだ。
これよりずっと劣る、冒険者ギルド貸与の革鎧でも20万円はするのだから。
しかし今はそんな事より改造だ。
補強具のところの形状を確認して、
ただし変形には弱いので留め具部分は鉄のままの方がいいだろう。
あとは革鎧を
革鎧を取り出して持ってみる。うん、大分軽くなった。
よしよしと思ったところでふと気づく。
ミーニャさんが食べる手を止めて俺の方を見ている。
ジョンもだ。
「その鎧、ちょっと見せて貰っていいかニャ」
「ええ、どうぞ」
ミーニャさんは俺から鎧を受け取ると、 持ち上げたり
何というか、今の状態だけを見るとミーニャさん、冒険者みたいだ。
C級冒険者なのだから、本職の冒険者には違いない。
ただそういう面を今まで見ていなかっただけに、違和感を覚える。
「エイダン、今、この部分を魔法で作ったのかニャ?」
「そうです。俺の魔法は本来こういった物を作ったり加工したりする方が得意なんです」
「ならちょっと待ってほしいのニャ」
ミーニャさんはそう言うと、食べかけの皿を残したまま姿を消す。
隣の自宅へ戻ったようだ。
そしてジョンがかわりに今の革鎧を手に取る。
「軽いな、この革鎧。学校のとえらい違いだ。そして今、エイダンが作ったのはこの部分か」
「ああ」
「知らない素材だな。金属に似ているけれどずっと軽そうだ。それでいてしっかり硬い。強さは大丈夫なのか」
「ああ。頑丈さは鋼以上の筈だ」
それにこの世界に無い素材という訳でもない。
神具や魔術機器等にはこの素材を使っている筈だ。
実際、能力測定の装置には特殊
しかしその辺がバレてしまうと、また技術者としてこき使われる日々が始まってしまう可能性がある。
だからあえてこれ以上は言わない。
「ならこの弓も同じ材料で作れないか。使い勝手は良さそうなんだが俺には重い。連射すると少しずつ下に下がってしまいそうだ。これが軽くなるとかなり使い勝手が良くなる」
弓か、そうなると少し難しい。
形が同じで頑丈なだけでは役に立たないから。
展延性が違う幾つかの
「この鉄弓を借りていいか」
「ああ。俺のじゃなくてミーニャさんのだしさ」
記憶だと覚えているのが難しい。
だから
「どうやら出来そうだ。少し時間はかかるけれど」
そう言ったところでミーニャさんが部屋内に駆け込んできた。
床に鎧っぽいものと膝当て、肘当て、籠手を並べる。
「その素材でこの辺の防具を、強度そのままに軽量化出来ないかニャ。お金は払えるだけ払うニャ」
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