第35話 ジョンへの依頼その1

「両方の依頼の内容を、教えて頂けないでしょうか」


 やはりジョン、落ち着いている。

 D級への昇格なんて出されても、安直に飛びつこうとしない。


「まず先に実施する、3名で行う方の依頼について説明します。なおもう1名参加する戦士の方については、事前了承済みです」


 そこでクリスタさんは一呼吸おいて、それから続ける。


「内容は、今日の午後やっていただいた、魔魚カンディルー討伐となります」


 これは俺にとって予想外だった。

 戦士と3名と言ったから、てっきりもっと普通の、魔物討伐系統の依頼だと思ったのだ。


「今月6日のエイダンさん単独での討伐、そして今日の午後にやっていただいた討伐で、魔魚カンディルーの数は大幅に減っています」


 それはその通りだろう。だから俺は頷く。


「この機会にミシェルミー川に生息する、魔魚カンディルーを一掃したい。国及び冒険者ギルドではそう考えています。魔獣は生息密度が一定数を下回れば、ほとんど発生しなくなります。今、魔魚が減少した中で、更に数を減らすべく討伐すれば、新規発生が出来なくなる数まで減るだろう。そういう考えです」


 なるほど、理屈としては頷ける。

 横目で見るとジョンも真剣に聞いているようだ。


「ヘルミナ国東部治安事務所では、4月6日にエイダンさんが行った討伐を受け、魔魚カンディルーの生息数調査を行いました。その結果、魔魚の生息数がおよそ2,000匹と判明しました。そして今日行った討伐で、更に1割半程度減少したのではないかと思料されます」


 なるほど、魔魚の数はそんなものだったのか。

 前回と今回で1,400匹弱だから、その1.5倍程度だ。

 もちろんそんな計算が成り立つように捕れる、なんて訳にはいかないだろうけれど。


「この数をおよそ700匹程度まで減らす事が出来れば、魔魚カンディルーは数を増やすことが出来ずに減少、そして絶滅の方向へ進んでいく事が期待できる。ヘルミナ国東部治安事務所ではそう考えています。そしてエイダンさん達の討伐で数が減った今こそが、そのチャンスだと私どもは見ているのです」


 理屈としてはわかる。

 しかし今日、実質2時間半で釣れたのは300匹ちょっとだった。

 そして数が少なくなると、より釣りにくくなるだろう。その中でそこまで釣って減らすというのは……


「今の方法でそこまで減らすのは、正直なところ難しい気がします。数が減るとその分討伐しにくくなるでしょうから」


 俺の意見にクリスタさんは頷いた。


「ええ、ですが魔魚討伐の試みは、これだけではありません。8日のエイダンさんの討伐結果を受け、東部治安事務所や内水面事務所等で幾つか討伐計画が出ております。その一環として、討伐を実施していただければいいのです」


 俺達だけで数をそこまで減らさなくてもいいのか。

 それならば大分気が楽だ。


「さらにこちらからの指名依頼扱い、遠方の依頼なので移動にかかる経費を含め、1名につき5時間以上の討伐従事で2万円お支払いします。更に魔魚カンディルーの討伐報酬を明日から1匹750円に上げる予定です。もちろんこちらの報酬は2万円とは別に支払われます」


 なるほど、それなら問題はないだろう。


「またこの依頼の最中、同行する戦士によって、ジョンさんをD級冒険者に上げて大丈夫かの確認を行う様に致します。ここでD級に昇格すれば、次の廃坑探査に正式にパーティ員の一員として参加して貰う予定です」


 魔魚カンディルーで実績をつけ、更に現役冒険者にそれ以上やっていけるか確認させるという案か。

 悪くはないと思う。魔魚カンディルー相手で俺が一緒なら、そこそこ実績を上げられるのは間違いないし。


「同行する戦士については、明日にでも顔合わせをするとともに、討伐について打ち合わせをしていただこうと思っています。さて、まずはこの依頼ですが、受けていただけますでしょうか」


 俺としては問題はないように思える。ジョンなら初心者講習なしの独学でも何とかなりそうに思えるし。


「魔魚討伐ならエイダンが主役です。だからまず、エイダンの判断を聞きたいと思います」


 こういった辺りもジョンが信頼出来る部分なんだよな。そう思いつつ俺は返答を考えて、口を開く。


「悪い話じゃないと思う。初心者講習が受けられなくなるから、魔法や剣技などの練習をどうするか考える必要はあるけれど」


「講習については一般冒険者用のものが利用可能です。9月末日までは初心者期間という事で、どの講習も無料で受講できるよう取り計らいます。またこの依頼を受けていただく場合に限り、能力測定装置で現在の能力や適性を個別に調べて、どのような方面を伸ばすべきかについて個別判断も致しましょう」


 大盤振る舞いだなと俺は思う。ただどう考えても悪い話では無い。


「また居住場所についても、9月末日までは冒険者ギルドの2階を使って頂いて結構です。部屋は初心者講習生用から一般用の個室に移って頂きますが、週に1回以上依頼か講習を受けて頂けば宿代はいただきません。食事も講習生と同じものなら無償提供します。もちろん生活が軌道に乗ったら転居していただいても結構です」


 これでもかという感じで特典が出てくる。


「わかりました。それではこの依頼は受けさせていただきます」


「ありがとうございます。次の、廃坑調査の依頼については、D級に昇級した後、改めて説明して依頼受領の判断をしていただく形にしたいと思います。それで宜しいでしょうか」


 つまり一件ずつ独立案件とした訳か。


「わかりました」


「それではジョンさんは現在の能力や適性を能力測定装置で調べる前に、明日の顔合わせについて決めておきましょう。ジョンさんは明日、ドーソン清掃組合の仕事が入っていますよね」


「はい」

 

 ジョンは頷く。


「なら明日の夕方5時までは今まで通りの日程としましょう。明日夕方5時半、ここの受付集合でお願いします。来ればわかるようにしておきますから」


「わかりました」


「それではエイダンさんはここまでで結構です。お疲れ様でした」


 今日の話だけではジョンにとって悪い話ではなかったと思う。

 となると問題は次の、廃坑探査の方だろうか。

 ただ今はそれをジョンと話す時間はない。


「それでは失礼します」


 そう挨拶して、俺は面談室から出る。

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