第33話 間違いの始まり?

 俺は一応C級冒険者だ。

 だから俺と一緒にいれば、E級で街の外に出る依頼を受けられないジョンでも、街門から外へ出ることが出来る。


「それじゃジョン、悪いがちょっと魔法収納アイテムボックス内に入っていてくれ。中は時間停止だからすぐにダグアル村だ」


「何かぞっとしないが仕方ないな」


 ジョンを収納し、そして俺は高速移動魔法を起動する。

 何度も走った道だ。だからもう何処に何があるか大体覚えている。

 なので今回は15分を切る位で、目的の川岸に到着。


 此処は前回、4回目に回った釣り場だ。

 魔魚カンディルーがいるか透視魔法や魔力探知で調べてみた結果、前回ほどではないが、そこそこにはいるのを確認した。


 まずはここで釣りをしよう。

 という事でジョンを魔法収納アイテムボックスから出す。


 ジョンは周囲を見回して俺の方をみた。


「ひょっとして、もう移動したのか」


「ああ。どんな感じだった」


「門の外で魔法収納アイテムボックスに入ってくれと言われて、その次の瞬間にはここにいた。俺としてはそんな感覚だ」


 時間停止だから、間の記憶は一切ない訳か。

 自分で入って調べられないので、今の感想は貴重だ。


 さて、それはそれとして釣りをするとしよう。


「まずこれから討伐する魔魚カンディルーについて説明する。この魚は中指くらいと小さい魚だけれど、動物や人間に噛みついて餌にしてしまうという獰猛な魔物だ」


「まだ授業で習っていない魔物、いや魔獣だな。そんな物騒なのがこの川にいるのか」


 カンディルーは分類上、魔獣になる。

 元になる生物があって、それが魔素マナにより変化した結果、発生したものは魔獣という分類となるから。

 一度その種が発生すると、あとは魔素マナだけでも発生するようになるけれど。


 なお魔物は最初の一匹まで辿っても元になる生物がない、魔素マナだけで発生するもの、という定義だ。


「ああ。ただし基本的には水の中からは出てこない。船に乗っていたりすると、船底を食い破って襲ってきたりするけれどさ。だからこちらから水に入ったり、触れたりしない限りは安全だ」


「そんなのどうやって捕まえるんだ。水中だと襲ってくるけれど、水上には出てこないんだろう」


「ああ。それで捕まえるにはこの道具を使う」


 魔法収納アイテムボックス内からカンディルー用サビキ釣りセットを取り出す。

 延べ竿に疑似餌付き枝針が5本ついた、前回も使った仕掛けだ。


「棒の先に糸があって、その糸に曲がっていて何かついている針と金属の塊がついている、そんな認識でいいのか。それとも何か魔法的な仕掛けがあるのか?」


 知らないのは当然だろう。キヌル村には釣りという概念が無かった。

 ドーソンでも釣りをしている人を見かけた事は無い。


「魔法的な仕掛けはない。これは釣りという魚を捕るための道具の一種だ」


 そう言いながら魔法収納アイテムボックス内で鉄製のバケツとひしゃくを作る。

 中に屠殺場で入手した内臓や血、砕いた骨などが混じったコマセ餌を入れて、足元に出す。


「何だそれ、血とか肉片に見えるんだが」


「その通りだ。屠殺場で出た内臓や血、骨等だ。魔魚カンディルーは肉食だからこういったものに敏感だ。だから」


 目の前の川の、そこそこ深い部分めがけ、ひしゃくでコマセをすくって投げてやる。

 あっさりと魚が集まってきた。

 前よりは数が少ないが、まだまだいるようだ。


「これで餌が水中にばらまかれた状態になる。そこにこの仕掛けを入れる。そうすると」


 魔魚カンディルーが撒き餌を狂ったように捕食している中へ仕掛けを投入。

 あっさり竿先が動いた。

 ゆっくり竿を上げる。

 5本ある枝針の2本に小さい魚がついている。


「こうやって討伐するわけだ。ただこの状態でも魔魚に直接触るのは危険だ。だから引き上げたら俺に渡してくれ。魔法で冷却して殺して、魔法収納アイテムボックスに仕舞うから」


 カンディルーがひっついた仕掛けと竿を魔法収納アイテムボックスに入れ、カンディルー以外を再び出す。

 この辺は前にやったのと同じだ。


 ただ今回はジョンがいる。

 だから竿2本を使ってもっと効率よく出来るだろう。


「ではこの竿を頼む。餌をまいたところに針が入るように垂らしてくれればいい。釣れないようならさっきのように撒き餌を投入する。かかったら竿ごと俺に渡してくれ」


「わかった。やってみる」


 ジョンに竿を渡し、俺はもう1本別の竿を出す。

 こちらも仕掛けは全く同じだ。

 竿だけやや短いが、今回のポイントは岸から3m程度なので問題にはならない。


 俺が仕掛けを投入したところで、ジョンの竿の竿先がくいくいと下へ動いた。


「これでかかった訳か」


「ああ。それじゃ交代だ」


 ジョンに俺の竿を持って貰って、ジョンが持っていた方の竿を俺が持って。

 互いの仕掛けが絡まないように注意して仕掛けをあげ、魔法で冷却して収納。

 次の竿を出す前にまたジョンの持っている竿がピクピク動く。


「もうかかった」


「それじゃこっちの竿を頼む」


 カンディルーを外した竿を魔法収納アイテムボックスから出してジョンに渡し、そして俺は……


 ◇◇◇


 この前より魔魚そのものは少なかった。

 その上時間も短かった。


 ただし今回は人数が2人。

 魔魚を収納する作業は俺1人だけど、ジョンが竿を持ったり餌を撒いたりしてくれる分、効率がいい。

 

 時間が短いから3カ所しか回れなかったが、それでも昼からと考えれば悪くないだけ釣れた。

 という事で帰りもジョンを収納してドーソンに戻り、南門からは一緒に歩く。


「悪いな。行き帰りも道具も、魔石取りまで全部おんぶに抱っこ状態で」


「手伝って貰えるだけで結構助かる。忙しい討伐だからさ」


 カンディルー、いればほぼ確実に釣れる。

 だから1人でやると手が回りきらないのだ。

 2人いれば俺はほぼ魚の回収をするだけ。

 他はジョンが一通りやってくれるから手回しよく数を稼げる。


「確かに忙しい討伐だったよな。今ひとつ魔獣討伐って感じじゃなかったけれど」


「確かに討伐っぽくは無かったけれどな。でも報酬は出るぞ、1匹500円以上」


「あんなちっこいのが1匹500円もするのか」


「20匹ごとに単価が上がるからさ。実際はもっと上だ」


 話しながら冒険者ギルドに到着。

 夕方だから依頼終了報告で受付はそこそこ賑わっている。

 空いている受付は一箇所だけ。


 そちらへ向かいかけて、そして気づく。

 これはまずいかもしれないと。

 俺はそう思ったのだが、それを告げる前にジョンがその受付に声をかけてしまう。


「すみません。常時依頼の討伐受け付け、お願いしていいでしょうか」


「ええ、どうぞ。2人パーティでしょうか」


 茶色の短髪、20歳位に見える受付嬢がジョンと俺の方を向く。

 そう、クリスタさんだ。

 エルフ状態でなく、受付嬢偽装モードの。

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