第23話 依頼の紹介

「さて、それでは今日お呼びした本題です。今回は依頼の紹介となります。長年解決しなかった依頼で、エイダンさんなら何とかしていただけそうな依頼があるのです。こちらになります」


 やはり本題は依頼の話だったようだ。

 どんな依頼だろう。クリスタさんが出した依頼カードを読んでみる。


『常時討伐業務。内容:ミシュルミー川ダグアル付近に生息する魔魚カンディルーの討伐。

 報酬:大きさを問わず1匹あたり500円。20匹を超える毎に1匹当たりの報酬を25円追加(例として21匹目~40匹目が1匹あたり525円。41匹目~60匹目が1匹あたり550円)

 依頼元:ヘルミナ国東部治安事務所』


 魔魚か。正直はじめて聞く種類だが、どんなものだろう。

 大きさを問わず、というのが微妙にひっかかるなと思いつつ、先を読み進める。


『内容:

 ダグアル付近のミシュルミー川にはカンディルーと呼ばれる魔魚が生息する。この魔魚は全長最大20cm程度だが河川内に入った人や動物を襲う習性を持っている。

 このカンディルーが増えた事により、ダグアル付近での漁業が壊滅的な被害を受けたばかりか、ミシュルミー川の河川交通が成り立たなくなった。

 故にこの魔魚カンディルーを一定以上減らし、漁業や運送業が行える様にする為に、討伐報酬を定めるとともに一定数以上の討伐には追加報酬を出す事とした』


 最大20cm程度か。つまり小さい魚のようだ。

 しかし魔魚で討伐の必要性があるという事は、それなりに危険な魔物なのだろう。


 そう言えば鍛冶組合で関係しそうな事を言っていたなと思い出す。

 魔物が出て河川で鉄を運べなくなったと。


 魔魚であろうと、魚が相手なら望むところだ。

 しかし討伐報酬が1匹あたり500円というのは……


「この魔魚カンディルー討伐、1匹あたりの金額が安くないですか?」


 クリスタさんは頷く。


「ええ。でも間違いではありません。カンディルーはある程度の群れで行動する小型の魚ですから。数匹程度でしたら肉塊を紐で縛って、水中に放り投げた後引き上げるという方法で難なく捕獲可能なのです。ですので単価をあまり上げる事は出来ません」


 確かにそれで単価を上げたら報酬を出す国が破産しそうだ。しかしその程度の依頼であるならばだ。


「なら俺がわざわざ行く意味は無い気がします」


「私がエイダンさんに期待しているのは20匹、30匹といった程度の捕獲ではありません。最低でも100匹単位での捕獲を期待しているのです」


 確かに群れで生息しているならそれくらいは捕獲しないと話にならないだろう。

 どれくらいの群れなのか、生息数は全体でどれくらいか。

 そしてそもそも魔魚カンディルーの生態はどんな感じなのか。

 今の俺はよく知らないけれど。


「何故俺なら解決出来ると判断されたのでしょうか」


「先日確認した結果、エイダンさんは水中の魔物に対して有効な魔法や能力を数多く持っているようです。たとえば電撃魔法を最大出力で放てば付近の水中生物は壊滅状態になるでしょう。勿論実際には別の方法を採るだろうと私は思いますけれども」


 確かに釣りを想定したチート魔法をこれでもかと付与されている。

 これらの魔法は当然水中の魔物にも有効だろう。

 ならば次の質問だ。


「常時依頼という事は、誰が何時やっても問題無いという事でいいのでしょう。つまり今ここで依頼を受理すると決める必要がない。そう考えていいでしょうか」


「その通りです。依頼を受ける事は必要ありません。証拠となる魔石を提出していただければ、その場で依頼受理と達成を同時に認める事になっています。つまり討伐に向かうのは、エイダンさんが採算にあう数の討伐が可能と判断してからで結構です」


 つまりやるかどうかは俺の判断でいいという事か。大量に取れそうな方法が思いついてからでいいと。

 なるほど、だから『依頼の紹介』と言った訳か。


「ただしダグアルの冒険者ギルド出張所は事務員一名しかいない小さな事務所です。ですので数多く討伐した場合は此処ドーソンの冒険者ギルドか上流のミルケスにある冒険者ギルドで提出する事をおすすめします」


 一人しかいないギルドで百匹単位の魔石なんて出されたら......

 確かに事務に支障が生じるだろう。


「つまり捕る気になったら直接現場に行って、捕れたらこのギルドに持って帰ってくればいいという事ですね」


「その通りです。魔石を取り出すのが面倒ならそのままお持ちいただいても構いません。ですがエイダンさんなら魔法的な方法で解体して魔石を採る位は簡単でしょう」 

 

 ひととおり了解した。


「わかりました。魔魚カンディルーについて調べた後、考えてみます」


「お願いします。魔魚については貸与した魔物学の教科書に載っている筈ですから」


 ならまずは教科書を読んで生態その他を知る事だな。


 ◇◇◇


 買い物しながら家に帰った後。

 ギルドから借りている魔物学の教本を魔法収納アイテムボックスから取り出す。


 俺はカンディルーという魔魚については全く知らない。

 前世では魔物相手の業務はしていなかったし、今世ではそもそも知識そのものが足りないから。


 どうせ教科書を読むのだ。だから魔魚カンディルーだけでなく、魔物一般についての知識もここで頭の中に入れておこう。

 幸い神殿技術者時代に駆使したちょうどいい魔法がある。

 その名も速読魔法。


 これも前世では割と使った魔法だ。

 いきなり訳わからないシステムの前に連れて行かれ、『動かないんだけれど今日中に頼む』なんて言われたりする時などに。


 これを本気で使えば殴り書き風引継ぎメモ1,000ページくらいなんてどうしようもないものでも1時間かからずに頭に入る。


 もっとも殴り書きでも引き継ぎメモがあればまだましだ。

 引き継ぎメモもマニュアルも仕様書もなく、大昔から口伝と勘で使われてきたなんてシステムもかなり多い。


 結果、一万行を超える魔術式システムのソースを読んで理解しなければならないなんて事すら、往々にしてあったりする。

 それも

  〇 元の設計がいい加減で

  〇 中途半端に出来る奴が勝手に処理を付け加えたり

  〇 一時しのぎのエラー回避ルーチンなんてついていたりする

ごちゃ混ぜスパゲティすらかくやという程の処理魔術式を。


 そこまでやると思考力がオーバーヒート寸前になる。

 しかもその魔術式処理系が有効な正規ライセンスのものではなく、既にサポート期限切れだったりお試し品サンプルだったり違法複製品コピーだったり……


 いや違う。俺はもう別の世界にいるのだ。

 あの頃の悪夢は関係ない。

 これから読むのもきちんとかかれた教本だ。

 もうあんな悪夢のような謎解きはしないでいい筈。


 あの世界でない事を感謝して、俺は教本を手に取る。 

 それでは速読、スタートだ!

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