第21話 最高な夕食の筈……しかし!
これだけ捕ったのだ。全部を魚の餌にする必要はないだろう。
という事で夕食の前に美味しく食べる準備。
前世の情報によると、アナジャコは素揚げこそ至高らしい。
マテ貝はバター焼きに、そして二枚貝は網焼きにしよう。
だから俺は夕食を楽しむための調理用具作りに取りかかる。
とりあえずは網焼き用のコンロから。これは粘土を使った素焼きの陶器と鉄を組み合わせて作成。
テーブルの上に置いても問題無いよう、鉄で足を作って間を空け、更に厚みのある陶板で熱を遮断するようにした。
これの中に炭を入れ、魔法で火をつけ、上に二枚貝を置いて焼く。
貝の蓋が開いたら身の部分が下になるようにして、穀醤と酒を混ぜたものを2滴ほど垂らし、それら汁が沸騰したら完成。
あとは作ってから
さて、メインディッシュを調理する前に、主食と野菜と汁を準備だ。
まず主食だが、このメニューに関してはパンよりライスが正しい気がする。
それもパエリアとかではなく、短粒種の白米の御飯が。
幸いドーソンの市場では米も扱っていた。
ドーソンでは作っていないが少し上流の、川に塩分が混じらない辺りでは水田があって稲作をやっているそうだ。
ミルケス辺りでは小麦より米の消費量が多い、と地理の教本に書いてあったし。
魚、特に生魚を食べる際は、パンより御飯の方が美味しい。
かつて読んだ本にはそう書いてあった。
あと調味料は穀醤に、少しホースラディッシュを加えたものがいいと。
当然これらも市場で購入済みだ。
釣った魚を美味しく食べるのも釣り人の特権だろうから。
今回は魚ではないけれど。
野菜は昨日の余りで汁にしなかった分が残っている。
これを軽く炒めて卵をからめておこう。
そして汁はやっぱりシジミ汁だろう。これもただの塩ハーブ味ではなく、かつて本に載っていた豆醤で味付けしたい。
貝の砂抜きを高速で行う方法は前世に本で読んで知っている。
50℃のお湯に浸ければ10分間程度で大丈夫らしい。
なのでシジミとアサリっぽい貝は洗った後、平たいバットに入れ、海水を入れ、魔法で海水の温度を50℃ちょうどに。
さて、先に御飯を炊いておこう。
これは時間がかかるので、木炭コンロを作ってと。
鍋も蓋が重い専用のものを作って、そして……
◇◇◇
御飯はちょいお焦げ付きで、いい具合に炊き上がった。
これを自作木製容器へ移し替え、
マテ貝のバター焼きは出来たてで
素揚げのアナジャコはちょうどいい感じに揚がったところで皿に移した。
網焼きの貝は貝の蓋が開いて穀醤を垂らした状態。
御飯皿と深めに作ったスープ皿、そして取り皿2つを準備。
御飯皿に御飯をしっかりと盛り付け、スープ皿にシジミ汁を入れれば準備は完了だ。
テーブル上を見回して思う。
うむ、完璧だと。
それではいただきます。マテ貝にフォークをのばそうとした瞬間。
トントントン、トントントン。
音の方向からして門扉に着いたノッカーの音だ。
透視魔法で確認。間違い無くうちへの客だし顔見知り、具体的に言うとミーニャさんだ。
何故こんな時間に、うちの家に。
わからないけれど門のところへ行って閂を外し、開く。
「こんばんは。どうしたんですか、今日は」
「冒険者ギルドからの連絡なのニャ。でも……いい匂いがするニャ!」
ミーニャさんは俺をすり抜け家の中へ。
おい待て! そこには準備したばかりの夕食セットが……
「美味しそうなのニャ。味見していいかニャ」
遅かった。まさかミーニャさんが来てしまうとは。
全部
仕方ない。ここまで見て味見だけというのは厳しいだろう。
ミーニャさんの分も用意するとしよう。俺の分が半分減るけれど。
でもその前に一応確認。
「貝とアナジャコがメインですけれど、アレルギーは大丈夫ですよね」
獣人は普通人と違うアレルギー症状が出やすい。そう前の世界で聞いた覚えがある。
「問題無いニャ。大好物ニャ」
なら仕方ない。
「良かったら食べていきますか。準備しますけれど」
「ありがとニャ。それではここで待つニャ」
スペアの食器を出して、御飯とシジミ汁を入れる。
取り皿を出して、調理済みのマテ貝バター焼き、素揚げのアナジャコ1匹を皿に置く。
2人分にわけると少しおかずが足りなくなった。
だからいい感じに焼けている網焼き器上の貝を皿に移動。
空いた網の上にはミーニャさんから貰った舌平目の一夜干しを新たに置く。
これでいいだろう。
「どうぞ」
「ありがとニャ。どれも美味しそうなのニャ」
ミーニャさん、そう言いつつ二枚貝の汁を御飯の上にかけ、取り出した貝の身とともに頬張る。
なるほどこの猫、わかっている。邪道だけれど確かに美味しい食べ方だ。
さて、それはそうとしてだ。
「冒険者ギルドからの連絡とは何ですか」
「食べ終わったら説明するニャ。うむ、この細長いの、見た目はともかく美味しいニャ」
食べ終わってからでも問題無いようだ。
気になるけれどミーニャさんが言わない以上始まらない。
食べ終わったら聞くとしよう。
◇◇◇
貝やシャコは釣り餌用に捕ったつもり。そう思っていた時が俺にもあった。
しかし結果としてはほぼ全滅。残ったのは中身がない貝殻だけだ。
俺一人ならきっと食べずに耐えられたと思う。
しかしミーニャさんの攻撃には耐えられなかった。
「すっごく美味しかったニャ。これ、ひょっとしてもうちょっとお代わり……ないかニャ」
こんな攻撃に。
「ごちそう様ニャ。昨日のおっきいおさかニャに続いて美味しかったのニャ。いっそもう結婚するニャ?」
おい気は確かか!
そりゃ年上とは言え綺麗でエロい身体のお姉さんにそう言われると、ついお願いしたくなるのは確かだ。
俺だってエロい欲望はある。あんな事こんな事……
なんて妄想しない訳ではないのだ。しかし……
「昨日の今日では早過ぎるでしょう。もう少しお互い知ってからで遅くないです」
「ならお試し同棲するかニャ。家賃も半分にニャるしお勧めニャ」
まずい。精神力がゴリゴリと削られている。
別に婚前〇〇が悪いなんて思っていない。女神シャルムティナもそこまでは禁止していなかった。
昨夜見えてしまったものが思い浮かぶ。あれが毎日……
いや俺、気をしっかり持て!
どう考えてもまだ早い!
「まだ早いですよ。だいたい俺はまだ初心者講習期間みたいなものですし。
それより冒険者ギルドからの連絡って何ですか?」
これ以上攻められたらまずい。
そう悟った俺は強引に話を変える作戦に出た。
「あ、そう言えば忘れていたニャ。
受付嬢に扮した怖いお姉さんからの伝言にゃ。エイダンに依頼したい案件があるそうニャ。明日朝、8時半までに冒険者ギルドに来て欲しいそうだニャ」
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