第3話

攻略対象の二人があれだと、残りの人も期待できないかもしれないわね。

となると私が目指すのは悪役令嬢ルート一択。

それもただの悪役令嬢ルートじゃない。レイチェル様とサラ様には、友情ではなく愛情を深めてもらいたい。


そう、その名も……真の悪役令嬢ルート!



そのためにはまず、この世界の人たちが同性愛に対して偏見を持たないように、考えを変えていかないといけないわね。

とりあえず身近なところから広げていった方がいいかしら……


「お呼びですか? お嬢様」


私のお付き侍女のリーナ。試しに彼女から始めてみようかな……。


「ちょっとこれ読んでみて?」


「小説……ですか」


と私は書き上げた原稿をリーナに手渡す。

さっきまで書いていた百合小説の原稿が、やっと書きあがった。

これでも前世では趣味で同人活動もしていたのよ。

この世界には同人誌はまだないし、小説はあんまり書いたことなかったけど上手くかけたかしら。


「これは……」


「どうかしら……」


「お嬢様……ちょっと私には……」


リーナは引き気味に言った。

うーん……引かれてしまったか。まあ仕方ない。


「エマ。入るわよ~」


「オリビアお姉様!?」


突然扉が開かれて、オリビアお姉様が入ってきた。

オリビアお姉様はミュラー伯爵家の長女で、エマの姉。

乙女ゲームでは当然だが出てこなかった人物。


「あら、それは? 小説の原稿?」


「えっと……」


私は自分が今書いている小説の内容を説明する。


「ふぅん。なかなか面白そうな設定ね。ねえ、それ私にも読ませてくれない?」


「えっ!?  ダメです!」


「いいじゃん別に減るもんじゃなし。それに、こういうのって普通は姉妹とか家族に見せるものだと思うけど?」


「いや、でも……」


「ほら早く見せなさいよ。大丈夫だから。私そういうの全然気にしないから」


「はぁ……わかりました」


オリビアお姉様は結構押しが強いところがある。

こうなったお姉様を止めるのは、実は両親でも難しいらしい。


私は諦めてオリビアに原稿を渡す。

そして小説を読み始めるオリビアお姉様。


「へぇ……結構面白いじゃない。エマが書いたんだよね?」


「ほんとですか!? ルーナはあんまりみたいだったんですけど……」


「申し訳ありません。私にはよく……」


「ふ~ん……」


とお姉様はおもむろにルーナに近づいていく。

ルーナはじりじりと後ろに後退していくも、やがて部屋の壁際まで追いつめられる。


「オ、オリビア様……?」


お姉様はルーナを壁ドンして顔を近づけていく。


「ちょっ、お姉様!? なにしてるんですか!!」


私は慌てて止めに入る。

するとお姉様はニヤリと笑った。


「何って、エマの小説の通りにしてるだけよ」


「いや、お姉様にはそんな趣味はないはずじゃ……?」


「そうだけど、なんかエマが書いてる小説見てたらやってみたくなってさ。ルーナも本当は興味あるんじゃないの?」


「いえ、私は……」


「正直になりなさい」


そう言うとお姉様は、ルーナにキスをした!


「むぐっ、んっ、ちゅっ、んんっ……。ぷはっ!! はあっ、はあ……」


ルーナは突然の出来事に呆然としている。


「どう? 気持ちよかったでしょ?」


「は、はい……」


真っ赤になって俯くルーナ。

お姉様……ルーナをあっさり落としちゃった。

っていうかルーナがチョロすぎ?

ルーナが素直すぎるのかしら。


「エマ。なかなか面白いものを書くのね」


「ありがとうございます。その、ルーナの反応をみて問題なさそうなら出版も考えてたんですけど」


「最初は受け入れられないかもね」


「うっ……やっぱり……」


「でも大丈夫。私がなんとかするわ!」


「えっ、本当ですか!? 助かります! さすがです、お姉様!」


「任せときなさい!!」


頼りになる。お姉様がいればきっと上手くいくはずだ。





流石はお姉様といったところか。それともこの世界がそういう風にできているのか。

百合やBLといった同性愛を題材にした小説が、庶民貴族を問わず国中に広く浸透していた。


「別に特別なことは何もしていないわ。ちょっとお茶会の時に、お友達に薦めただけ。いろいろと使って……ね♪」


お姉様の言う「いろいろ」は聞かない方がいいよね……。

最近社交界でお姉様を慕う令嬢の方が増えた気がするけど、偶然ね、うん……。

お姉様を敵に回すのだけは絶対に止めよう。心に堅く誓った私だった。


ちなみにルーナはいつの間にかお姉様の侍女になっていた。


「オリビア様~。あの、縄で私の体を縛って虐めてください!」


「もう、しょうがないわね……」




……私は何も聞いてない……うん…………聞いてない。

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