214.海水浴(9)

「はー、美味しかった!」


 思う存分ご飯と煮魚を堪能した私はパジャマに着替えてベッドにダイブした。


「今日はとっても美味しそうに食べてましたね」

「な、今日は特別な感じがしたぞ」

「まーね。長らく食べていなかったものを食べられたから。んー、思い出しただけでほっぺが落ちそう」

「ふふっ、嬉しそうで何よりです」

「まー、美味しかったしなー」


 それぞれにベッドで横になり、ゴロゴロとのんびり過ごす。部屋についてある窓は開けっ放しにされていて、その窓の外から月明りが差し込む。その夜空を見上げると、満天の星空が見えた。


 まだ、寝るのにはちょっと早い。二人も同じように思っているのが、お喋りをする態勢になった。


「今日一日どうだった? 海での遊びは楽しかったでしょ?」

「はい、楽しかったです。泳ぐのとか、ボール遊びとか……村ではできなかったことを沢山しました」

「海の中が冷たくて気持ち良かったな!」

「それに、色んな子とも知り合いになれて良かったです。人数が多いと楽しいですね」

「遊ぶには大勢がいいな!」


 海の遊びも海の子たちとの遊びにも二人とも満足げな顔をしている。


「クレハはトールととても仲がいいよね」

「そうですね、初めて会った時からとても親し気でしたね」

「そうだな。トールと会った時はなんかピンと来たんだ。こいつとは気が合いそうだって」

「直感で思ったのなら、相性ピッタリだね」

「二人が似ていて、姉妹じゃないかって思っちゃいました?」

「姉妹ー?」


 姉妹と聞いて難しい顔になるクレハ。しばらく、考え込むと何かを思いついたのか手を叩いた。


「それじゃあ、ウチがお姉ちゃんだな!」

「いやいや、クレハはどうみても妹でしょ」

「ですね。お姉ちゃんっていうにはちょっと」

「な、なんでだよ! ウチのほうが身長が高かったぞ!」

「身長で決めるのはちょっと……ねぇ?」

「見るべきところが違うと思うんですよね」

「えー……」


 トールはしっかりしていたし、どっちかっていうと姉みたいだ。自分が妹と言われて不貞腐れているところが、妹らしいというか。背伸びしたい感じが妹感を高めている。


「まぁ、でも二人を見ると姉妹っていうよりかは兄弟って言った方がしっくりくるかも」

「ですね、二人とも男の子みたいですし。口調も態度も」

「兄弟だとしたら、ウチが兄ちゃんか!」

「いや、弟でしょ」

「そうです、弟です」

「うわー、なぜだ―! 何が足りないっていうんだー!」


 どうしても上になりたかったのか、クレハは悔しそうに頭をかいている。もうちょっと落ち着きがあったら、お兄ちゃんみたいになるんだけど……難しいかな?


「それで、イリスは特別に仲のいい子とかできた?」

「私ですか? 私は……特別な子はいませんね」


 あー、残念。ケイオスは特別な存在ではないんだね。そうだよね、特に親し気に話していたわけじゃないし、特別になるのは難しいかもしれない。これはちょっと、手助けをしてみようかな。


「そうそう、ケイオスはどう? 結構傍にいるよね?」

「ケイオスですか? まぁ、そうですね……気づいたら傍にいる感じです」

「傍にいるってことは向こうも仲良くなりたいんだよ」

「そうでしょうか? 話していても、あんまり楽しそうじゃないので……」


 遠慮がちにそう言った。イリスは良く人を見ていて、他人の様子を伺える心の余裕がある。そういうところを見れているから、人の心に敏感な部分もあるんだよね。


「それに、あんまり男の子と話さないので……何を話したらいいか分かりません」

「そっか、村での仲のいい子は女の子ばっかりだもんね」

「大勢で遊ぶ時は大丈夫なんですが、一対一の時は困ってしまいますね」

「そんなの気にしないで話せばいいんじゃないか? 孤児院の時もそうだったじゃないか。イリスは考えすぎなんだぞ」

「孤児院の時とはちょっと違うんですよね。私の考えすぎ、でしょうか……」


 複雑な表情を見せるイリス。女の子とは仲良くなれるのに、男の子とはどう接していいか分からないみたいだ。そこはちゃんと異性だと意識しているせいもあるのだろう。


「泳ぎ方を教えてもらえるみたいだから、その時に色々と話してみたら?」

「うぅ、大丈夫でしょうか?」

「だから、イリスは考えすぎだぞ。こういう時はガーッっていってバシッとすればいいんだぞ」

「それはクレハだからできることです。私には私のやり方というのがあります。だから、ちょっと頑張ってみますね」


 不安そうにしているイリスを元気づけようとした。まだ、不安は残っているみたいだけど、仲良くなりたいとは思っているみたいだ。この調子で仲良くなって欲しいところではある。


「そういう、ノアは仲良くなれる子はいましたか?」

「私? んー、みんな平均して仲良くなっているかな?」

「ノアもクレハみたいに誰とでもすぐに仲良くなれますよね」

「ノアもガーッていってバシッて決めてるからな」

「いやいや、クレハみたいじゃないよ」


 そういえば、特別仲のいい子なんてまだいないな。仲良くなるっていうか、見守る立ち位置のほうが強いから一人の子に深入りはしていないと思う。


 じゃあ、この夏は特別に仲のいい子ができなくて、二人に比べたら寂しい夏になっちゃうってこと? やっぱり、特別仲のいい子を作って一緒に時間を共有したほうがいいのか?


「仲がいいと言えば、エリックお兄ちゃんとはとても仲良しに見えます。料理のことで話が盛り上がってますよね」

「食べ物の話をする時は二人とも楽しそうなんだぞ」

「あー、言われてみればそうかも」


 村ではあまり料理の話はしない。だから、ここに来て身近に料理の話をできる人がいて知らず知らずの内に盛り上がっていたみたいだ。エリックお兄ちゃんの料理は美味しいから色々話していて楽しい。


 それに転生前は大人だったし、無理なく話せるところもいい。自然体で話せるから、二人には仲良しに見えるのかもしれない。


「クレハにはトール、ノアにはエリックお兄ちゃんですか。私だけ仲良しな人がいなくて寂しいです」

「まだここに来て二日目だし、これからだよ。イリスだったら、すぐに仲良しな子ができるって」

「イリスは考えすぎなところがあるから、何も考えないで普通に接すればいいんだぞ」

「えー、そんなに考えている訳じゃないのですが……」


 枕を抱えてベッドの上でゴロゴロしたイリス。そんなに悩んでいるなら、なんとか力になってあげたいな。クレハと顔を見合わせると、二人で強く頷いた。


「よし! イリスに仲良しな子ができるようにウチらがやり方を教えてやるんだぞ!」

「でも、クレハの言う教え方って……ガーッていってバシッじゃないですか。全然ためになりません」

「いやいや、勢いも大切だってことだよ。クレハの助言も聞いたほうがいいんじゃない?」

「えー、ノアまでそんなことをいうんですか?」

「ウチを見習え、ウチを!」


 あーでもない、こーでもない、と話は白熱していく。明るい月明りが差し込む夜の部屋、私たちの賑やかな声はどこまでも続いていった。

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