181.春の素材採取(6)

「見つけてきました! これは素材ですか?」

「はい、それも素材です。良く見つけてくれましたね」

「エルモさん、こっちのはどうかな?」

「あぁ、こっちも素材ですね。ありがとうございます」


 森の中をあちこちと歩き回り、素材採取に勤しむ私たち。アルラウネからの戦い以降、強敵は出現せずに順調に素材採取を続けることができた。


 そんな私たちが素材採取をしている一方、クレハが近くにいる魔物を討伐してくれている。そのお陰で私たちが素材採取をしても、襲ってくる魔物はいない。


「近くにいた魔物を討伐してきたぞ。そっちは変わりないか?」

「うん、変わりないよ。クレハが魔物を討伐してくれるおかげで、素材採取が順調だよ」

「ならよかった! ウチが警戒しておくから、素材採取頑張れよ」


 そう言ってクレハはまた離れていった。クレハが頼りになるから私たちは素材採取に夢中になれる、いい役割分担ができたと思う。


「素材、素材……」

「うーん、これじゃない」

「鑑定! ……これは違うね」


 辺りをくまなく探して素材採取は続いていった。


 ◇


 素材採取が終わり、夕暮れに私たちはエルモさんのお店まで戻ってきた。


「三人のお陰で沢山の素材を取ることができました。本当にありがとうございます」


 用意していた籠に素材を入れたら、一つじゃ収まりきらなくていくつもの籠を使って素材を入れた。沢山の籠がいっぱいになるくらいに素材を採取することができた。


 その籠を見て、エルモさんはとても嬉しそうに笑っていた。


「素材採取ができて楽しかったです。今度、私も素材採取してみますね。なので、素材のことを教えてください」

「えぇ、もちろんいいですよ。素材採取をしてくれる人が増えると私が助かりますし、いつでも言ってください」

「イリスは素材採取が好きになったみたいだな」


 今回の素材採取でイリスは楽しさを知ったらしい。終始楽しそうに素材採取をしていた姿がとても印象的だった。


「ウチは素材採取よりも魔物討伐のほうがいいな。だから、素材採取はイリスに任せるよ」

「そうですね。今回見たいにクレハが魔物討伐を引き受けてくれれば、私は素材採取できますし。そうやって、活動していくのもいいかもしれませんね」


 クレハが魔物討伐、そしてイリスが素材採取か。魔物討伐の頻度は下がるけれど、その分素材採取に時間をかける感じになるね。魔物討伐ばかりだったから、他のやることが見つかって良かったな。


「素材採取って楽しいお仕事だったんですね。素材を見つけた時の嬉しさは病みつきになります」

「それはパンを食べている時と同じ?」

「うーん、似てますが違う病みつきですね」

「病みつきに違うがあるのか? なんだか難しい話だなぁ」


 イリスって夢中になると、とことん夢中になるよね。一つの事に集中できるからいいけれど、周りのことはしっかり見えているか心配だなぁ。


「ねぇ、クレハ。イリスが素材採取に夢中になって魔物に襲われることがないように警戒を最大限に」

「そうだな。イリスが夢中になると話聞かないから、ウチがなんとかするぞ」

「えっ、そんなに私って夢中になったら周りが見えませんか?」

「ちょっとそういうところあるよね」

「あるある」

「そ、そんなー」


 イリスは恥ずかしそうに顔を手で覆った。すると、エルモさんの笑い声が聞こえてくる。


「ふふっ、本当に仲良しなんですね。仲のいい友達がいるのって素晴らしいことです。大切にしてくださいね」

「もちろんだよ」

「当たり前だ」

「は、はい」


 二人のことは本当に大切にしている。一緒に協力して生きていこうって決めたから、それが私の力にもなっている。二人がいるから頑張れる。


 私たちを優しそうな笑顔で見てくれるエルモさん。エルモさんとも仲良くなれて本当に良かった。まだまだ子供だから、頼れる大人が近くにいるって安心感が違う。


 そういえば、エルモさんの態度が普通になっている。もしかして、知らず知らずの内に二人と打ち解けられたのかな?


「今日会ったばかりの二人がいるのに、エルモさんが普通に対応していてびっくりしたよ。二人とはもう慣れた?」

「……あ、そういえばそうですね。お二人がとても優しいから、私の緊張がいつの間にか解けてしまっていたようです」

「そういえば、可笑しなエルモはいなくなったな」

「はい、今は普通に会話できてます」

「わぁ、普通に話せるっていいですね。話せる人が増えて、とても嬉しいです!」


 エルモさんはとても嬉しそうに声を上げた。すると、クレハとイリスがエルモさんに近づき、手を握った。


「これで私たちは友達ですね」

「友達?」

「そうだぞ、友達だぞ」

「友達……ふふっ、私にも話せる友達が増えました」


 三人で手を繋ぐと、楽しそうに繋いだ手をブラブラと揺らした。あ、私は中に入りそびれちゃった。ちょっと寂しい気分だ。


「はじめはどうなることかと思いましたが、結果的にいいこと尽くしで今日の素材採取は大成功でしたね」

「私も素材採取の楽しさを知れて本当に良かったです」

「ウチは変わらないなー。でも、いつもと違うことができて、それなりに楽しかったぞ」

「私は久しぶりに素材採取ができて、色んな発見ができて良かったよ」


 今回の素材採取は大成功。エルモさんともっと仲良くなれた気がするし、二人がエルモさんと仲良くなったのが一番良かった。私は魔法が万能ではないことを知れたので、今後いざという時のために鍛えておこうと思った。


「また一緒に素材採取に行きましょうね」

「ですね。素材のことも教えてください」

「魔物討伐はウチに任せろ! 素材採取の邪魔をさせないようにするからな」

「クレハは頼もしいね。これだったら安心して素材採取ができそう」

「それじゃあ、今日はここまでですね」


 エルモさんのお店に素材を届けたし、今日はこれでおしまいだ。


「そうだ! エルモさんも一緒に宿屋で食事を取りませんか?」

「そうだぞ! 一緒に食べたほうが美味しいぞ!」


 すると、二人が宿屋の食堂に誘った。その言葉にはじめは嬉しそうにしていたエルモさんだったけど、その表情がみるみるうちに青ざめていく。


「宿屋って……冒険者がいる場所ですよね?」

「はい、いっぱいいますよ」

「冒険者だらけだぞ!」

「ひぃぃっ、私には無理ですー! 冒険者がいっぱいいるところに入るなんて、怖くて無理ですー!」


 身を縮こませて体を震わせた。


「そっか、冒険者がいる場所だからエルモさんには大変な場所になるね」

「は、はいっ! その、ノアちゃんたちは平気なんですが、冒険者さんたちは怖くて無理なんですー」

「怖くないのにな」

「はい、怖いところなんてありませんよ」

「私にとっては怖いんですー! すいませんが、宿屋にはいけませんー!」

「仕方がない、私たちで行こうか」


 こんなに怖がっているのに無理やり連れていくのは可哀そうだ。私たちで行こうというと二人は頷いた。


「じゃあ、エルモさん。またね」

「じゃーなー」

「さようなら」

「は、はい。今日はありがとうございましたー」


 お別れを言いお店を出てきた私たち。思い出すのは、挙動不審に戻ったエルモさんのことだ。


「最後は最初のエルモに戻ったような気がした」

「そうですね。ちょっと可哀そうなことをしました」

「まぁ、仕方ないよ。さ、私たちは食堂で夕食を食べよう」

「そうだな! 今日は大盛を頼むんだぞ!」

「今日の料理はなんでしょうね、楽しみです」


 エルモさんを一人にさせるのは気が引けるけれども仕方がない。私たちはペコペコのお腹を抱えて、宿屋に向かっていく。辺りは夕暮れに染まり、景色が綺麗だった。

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