170.魔力の管理

「じゃあ、行ってくるぞ」

「行ってきます」

「いってらっしゃい」


 宿屋の前で二人を見送る。二人が森の方へと歩いていくと、私は家に向かって歩き出した。その間に考えることは魔力のこと。創造魔法が一体どれくらいの魔力を使うのか、ということだ。


 さっき創造魔法を使った時、ごっそりと魔力を持っていかれた。あの時の感覚を思い出すと、半分から三分の一くらいの魔力を抜き取られたと思う。これは農業をやっている時に使う魔力量と同じくらいだ。


 仕事の農業で使う魔法は人手を増やす分身魔法、小麦を刈る時に使う風魔法、小麦を乾燥させる時に使う乾燥魔法、小麦の藁を燃やす時に使う火魔法だ。これら全てを使って、全体量の三分の一以上は魔力を使っている気がする。


 仕事で三分の一以上の魔力を使い、一回の創造魔法を使うと三分の一以上の魔力を使う。これから考えられることは、普通の仕事をしていると一日に使える創造魔法は一回だけとなる。


 ……少ない。もっと使って、欲しいものを出したいのにそれができない。そうすると、使う魔力量を減らしたら、最低二回くらいは使えそうかな?


 よし、今日は魔力量に気を付けて魔法を使っていこう。考えている内に家に付いたし、まずは家畜の世話からだ。時間は沢山あるんだし、分身の力を借りずに久しぶりに一人で家畜の世話をやっていこう。


 ◇


 久しぶりに家畜の世話を一人でやった。ちょっと大変だったけど、時間をかければ一人でもできた。まぁ、以前も一人でやっていたしね、問題はなかった。


 これからはいつもの仕事、畑仕事だ。魔力量を抑えたいから、今日は分身の数を少なくしよう。最低限の人数にするためには、何人が理想だろうか?


 まず脱穀機が二台あるから、二人は必要。脱穀した小麦の選別にも人が必要だから、ここにも二人必要。小麦を刈り取って乾燥魔法をかけるのは私一人で十分。刈り取った小麦を運ぶ人は必要だな、ここに一人。


 ということは、全部で五人いればなんとかなりそうだ。いつもよりも人数が少ないけれど、なんとかなるだろう。私は分身魔法を使って自分の分身を作り出した。うん、全部で五人だ。


 それぞれに持つ魔力も少なくした。魔法を使うのは私だけだから、分身が魔法を使うことはないからだ。これで、純粋な労働力として分身を作れたことになる。


「今日は魔力が少ないから、無駄なことはしないようにね」

「うん、分かってる。魔力を節約しないといけないからね」

「今ってどれくらいの魔力が残っているんだろうね」

「半分以下ってところかなぁ?」

「使う魔力とか残った魔力とか可視化できればいいのにねー」

「ほら、無駄話しないの。魔力が足りなくなるよー」


 十分な魔力を備えていない分身たちは少しの会話を交わした後にそれぞれの仕事に移っていった。まずは小麦の種を撒くところからだ。それぞれ、畑に散らばって小麦の種を撒き始める。


 私も積極的に動かないとね。みんなは動くのに魔力を必要としているけれど、私は動くのに魔力を必要としない。魔力を節約するためには私が積極的に動く必要がある。


 よし、今日も畑仕事頑張るぞー!


 ◇


 小麦の種を撒き、植物魔法を使って小麦を成長させた。その後は、魔法で小麦を刈り取って乾燥させると、脱穀機にかけて分離した小麦の実を集めて袋に入れる。


 ギリギリの人数でやっているから、作業の進み具合はいつもと比べて遅い。午前中しっかり働いて、半分を超えたところだ。昼食を食べて、午後の仕事も頑張った。


 いつもよりも遅かったが全ての小麦を収穫し終えることができた。残りの仕事は小麦を納品することだ、これは自分一人でもできる。というわけで、分身を消すことにした。


 魔力を吸収して分身を消すと、自分の体に魔力が溜まった。本当にギリギリの魔力で分身を作ったから、自分に戻った魔力は微々たるものだ。だけど、ないよりはましだ。


 今度はリュックに小麦の入った袋を入れる。マジックバッグができてしばらくして、荷車でわざわざ小麦を運ぶよりはリュックに入れて運んだ方がいいんじゃないか? と気づいて、この方法に変えた。


 全ての小麦をリュックに詰め込むと、作物所へ歩いていった。歩き慣れた道を進んでいくと、作物所が見えてくる。いつものように、コルクさんを呼び、小麦を売った。


 ちょっと話をした後に作物所を出て、家に戻る。分身を潤沢に使っていた頃と比べたら、時間がかかっている。もうそろそろ、夕飯の支度もしなくてはいけない時間だ。


 夕飯を作る時も魔法を使わないといけない。パンを作る時の時間短縮に時空間魔法、作った料理を美味しく保つための時空間魔法。ここでも魔法が大活躍だが、そのせいで創造魔法を使う余分な魔力が残らないかもしれない。


 それでも挑戦する価値はある。家に戻ると、早速夕飯作りだ。パンを捏ねると、醗酵時間短縮のために時空間魔法で時間を加速して醗酵を終わらせる。それを二回もやる。


 醗酵が終わるとパンを石窯の中で焼く。ここでも時空間魔法を使えるが、今日は魔力節約のために使わないでおく。パンができあがると、美味しさを保つために時空間魔法で時間停止をかけておいた。


 主食のパンを作った後は、おかずとスープを作る。それを作り終えると、できたての状態を保つために時空間魔法の時間停止をかけた。これで今日使う魔法はおしまいだ。


「よし、挑戦してみるかな」


 今日一日魔力を節約した。その節約した魔力でもう一回創造魔法を使えるか試してみる。イスに座り、手をテーブルの上に乗せた。思い浮かべるのは、朝出したチョコレートだ。


 深呼吸をして心を落ち着かせると、チョコレートをイメージする。茶色くて、甘くて、美味しいお菓子。しっかりとイメージした後に、創造魔法を発動させる。


「創造魔法」


 すると、魔力が手に集中した。そして、その魔力はどんどん形になり、朝見たチョコレートが手の内にできあがった。


「やった! でき……」


 グラリと体が大きく揺れて、テーブルの上に倒れた。あれ、私は……どうし……。


 ◇


「――ノアッ」

「――きてくださいっ!」


 誰かの声が聞こえて、意識が浮上した。体を激しく揺らされている感覚がするが、まだ意識ははっきりとしない。私は一体どうしたんだろう? そう思っていると、声がより鮮明に聞こえてくる。


「おい、ノア! 起きろ!」

「一体どうしたんですか、ノア!」


 この声は……クレハとイリスだ。重い瞼を開けて、重い体をゆっくりと起こす。


「二人とも……」

「おぉ、良かった! ノアが起きたぞ!」

「一体どうしたんですか!?」

「うーん……」


 まだはっきりしない頭、ぼんやりとする。私は一体どうしたんだろう? 確か……そう思っていると、手に感触がした。見てみると、チョコレートが三粒乗っかっていた。そうだ、私はチョコレートを創造魔法で出したんだ。


 でも、その後の記憶がない。じゃあ、私は創造魔法を使った後に意識を失ったっていうこと? なんで気を失ったんだろう……


「創造魔法を使ったら、いきなり意識が飛んで……気づいたら、二人に起こされていたの」

「そうだったのか。ノアがテーブルの上でうつ伏せになっていたから、本当に驚いたんだぞ」

「魔法を使って意識が飛んだんですか? それって、もしかして魔力切れじゃないですか?」


 魔力切れ? そうか、私は創造魔法を使ったせいで魔力切れになって意識が飛んだんだ。でも、チョコレートが出ているということは魔法は成功している。成功した上で、魔力切れになって気を失っていた?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


いつもお読みくださりありがとうございます。

皆様の応援のお陰でコミカライズ化が決定しました!

本当にありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る