169.最後の魔法は?
翌朝、朝の用意を済ませた私たちは家を出た。
「食堂に行くまでがお腹が減って辛いんだぞー」
「だったら、今度から家で朝食食べる?」
「それはノアが大変だと思います。朝食ぐらいは宿屋でとってもいいと思うんですよね。という訳で、クレハは我慢してくださいね」
「分かってるぞー。朝食を作らないのはノアを少しでも楽にするためなのは」
一日三食きっちり作るのは大変だ。それを二人は知ってくれていて、朝食を宿屋で取ることにしている。お陰で少し楽ができるので、本当に助かっている。
「今日はどんなメニューだろうね、楽しみ」
「そうですね。あっ、そういえば! 新しい魔法を覚えましたか?」
「そうだ、それを聞きたかったんだ!」
「お弁当づくりで忙しくてまだ見てないんだよね。ちょっと見てみるね」
そういえば、まだ見ていなかった。私はステータスを開いた。
【ノア】
年齢:十一歳
種族:人間
性別:女
職業:酪農者
称号:賢者
攻撃力:29
防御力:29
素早さ:37
体力:50
知力:72
魔力:90
魔法:生活魔法、火魔法レベル十、水魔法レベル十、風魔法レベル十、地魔法レベル十、氷魔法レベル十、雷魔法レベル十、植物魔法レベル十、魔動力、時空間魔法、分身魔法、創造魔法
スキル:鑑定
「あ、私の称号も卵が取れて、賢者になったよ」
「そうなんですね、おめでとうございます!」
「これでノアもウチらと同じ一人前だな」
私の称号もこれで最後のレベルアップらしい。まぁ、そうじゃないと困るんだけどね。
さて、問題は新しい魔法だ。新しい魔法は創造魔法っていうけれど、これってもしかして。
創造魔法:想像したものを物質化する魔法。素材があれば通常よりも簡単に物質化できる。
凄い、想像したものを出せる魔法だなんて。そんな凄い魔法が使えていいの!?
「なーなー、新しい魔法はどんな魔法だ?」
「創造魔法だったよ」
「それはどんな魔法ですか?」
「頭の中で思い浮かべたものを出現させる魔法みたい」
「なんだそれ! 思い浮かべるだけで、物が手に入るのか?」
「凄い魔法ですね! 」
「試しに何か出してみようか。何出してみる?」
話を聞いた二人は驚いた後に真剣な顔つきになった。
「こ、こんな時何を出せばいいんだ? えーっと、えーっと……肉!」
「クレハ、それだといつもと変わりないです! ここは、あまり手に入らないものをいうんですよ」
「あまり手に入らないものってなんだ? うーんと、うーんと……すごい肉!」
「クレハは肉ばっかりです! そういうのじゃなくて、もっと違う……えーっと」
「なんだー!? こういう時って何を言えばいいんだー!?」
何でも出せると聞いた二人は頭を抱えて大いに悩んだ。百面相をする姿がなんだか面白くて、お腹を抱えて笑ってしまう。
「あははっ! 今回きりだけの魔法じゃないんだから、なんでもいいんだよ」
「じゃあ、そういうノアは何を出せばいいのか分かるのか?」
「あまり手に入らないものですよ、そういうものってあるんですか?」
「そうだなー……じゃあ、これはどうかな?」
思い浮かべるのは、この世界で手に入らないかもしれないもの。茶色くて、甘くて、口に入れると溶けるお菓子。しっかりとイメージをすると、創造魔法を発動させた。
すると、手にコロンと三つの丸いチョコレートが出現した。が、同時にドンッと体が重くなり、地面に片膝を付く。
「えっ、ノア!?」
「どうしたんだ、ノア!」
体の力が一気に抜けた気がした。いや、これは大量に魔力を消費したから、体から力が抜けたんだ。私は深く呼吸をして気持ちを整えると、ゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫、すごく魔力を使う魔法だったみたい」
「そうだったのか、なんともなくて安心したぞ」
「とても凄い魔法だから、使う魔力量も多いんですね」
「うん、そうみたい。だけど、ほら見て。創造したものが出てきたよ」
二人の前にチョコレートを差し出すと、二人は不思議そうな顔をした。
「これはなんだ? 肉か?」
「肉の匂いはしませんよ」
「これはチョコレートっていうお菓子だよ」
「「チョコレート?」」
名前を聞いた二人は首を傾げた。初めて聞くお菓子の名前に少しだけ戸惑っているみたいだ。
「甘くて溶けるお菓子だよ、食べてみて」
「ほ、本当に大丈夫か?」
「でも、甘い匂いはしますね」
「きっと、美味しいっていうよ」
「それは本当か? 本当に美味しいのか?」
「た、食べてみましょう」
二人は恐る恐るチョコレートを摘まむと、十分に観察した後に口の中に放り込んだ。そして、不思議そうな表情をしながらチョコレートを噛むと、ハッとした表情になった。
「これ、甘いぞ!」
「それに溶けます!」
「初めての甘さだ、こんなの体験したことないぞ!」
「口の中で転がすとどんどん溶けていきます」
初めてチョコレートを食べた二人はずっと驚いていて、テンション高めにチョコレートを味わっていた。夢中で口の中のチョコレートを味わうと、しばらくボーッとする。
「なんだこれ、なくなったぞ」
「溶けて消えちゃいました」
「そういうお菓子なんだよ、どう? 美味しかった?」
「めちゃくちゃ美味しかったんだぞ!」
「はい、とても美味しかったです!」
どうやら二人はチョコレートを気に入ってくれたみたいだ。明らかにテンションが高いし、チョコレートの味を思い出して幸せそうな顔をしている。
創造魔法、本当に想像したものが出てきた。これは凄い魔法だ、想像するだけで物が出てくるんだから。でも、そのためにはかなりの魔力を消費しないといけないらしい。
あまり使いすぎると、毎日の仕事に支障が出てくるだろう。だから、これは計画的に使わないといけない魔法だ。そうじゃないと、魔力切れになって魔法が使えなくなってしまう。
ちょっと待てよ、魔力を回復するものを創造魔法で作ればいいのでは? でも、身近に魔力を回復するものがなくて想像できない。なんでも作れると言っても自分の知らないものは作れないみたいだ。
魔力の回復ポーションはエルモさんのところに行けば調達できるかな? いざという時のために、何本かストックしておいた方が良さそうだ。そしたら魔力切れで困った時にすぐ飲める。
一人で考え事に耽っていると、クレハが袖を引っ張ってきた。
「なぁなぁ、またチョコレートっていうお菓子だせるか?」
「また出せると思うけど、魔力と相談しないといけないみたい。使う魔力が多いから、日に何回も出せるわけじゃないみたいだから」
「凄い魔法ですからね、使う魔力が多いんですね」
「仕事で使う魔力を残さなくっちゃいけないから、今は創造魔法を使えないかな。一日の最後に残った魔力で何かを創造することはできると思うけど、魔力が足りるかなー?」
毎日の小麦作りをした後にどれだけ魔力が残っているか……もしかしたら、創造魔法を使えなくなっているかもしれない。創造魔法で消費する魔力と自分に残った魔力が可視化すればいいんだけど……。
腕組をして悩んでいると、二人の表情は暗くなった。
「じゃあ、チョコレートは食べられないのか?」
「そんな……」
「いや、大丈夫! 食べられるんだけど……ちょっと試行錯誤しないといけないみたい」
「そうか、今回覚えた魔法は難しい魔法なんだな」
「なんてったって、最後の魔法ですから」
色んな魔法を使えるようになって便利になった。だけど、使える魔法が増えると、今度は魔力管理が難しくなる。便利だから毎日のように魔法を使うから、どんどん管理が難しくなっているような気がする。
ここにきて、とても便利な魔法を覚えたのはいい。だけど、魔力の消費が高すぎて、使いどころに悩む魔法になってしまった。使わなかったら宝の持ち腐れになってしまうし、それは避けたい。
「とにかく、創造魔法が活用できるように考えてみるよ」
そういうと、二人は納得したように頷いてくれる。さて、今日は忙しくなりそうだ。
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