155.山菜料理

「山菜採り、楽しかったな!」

「素材採取と違って、魔物に襲われることがないので、安心して採れましたね」

「緊張感がないだけで、こんなに楽しかったなんて驚きだよ」


 山菜採りから帰ってきた私たちはイスに座って一息ついた。リュックを開き、中から山菜を取り出す。すると、テーブルの上は山菜でいっぱいになった。


「みんなで採った山菜を合わせると、かなりの量になったね。これだったら、食べきるのに二日はかかりそうだね」

「どんな味がするのか楽しみだぞー」

「ちょっと苦みがあると思うよ」

「へー、そうなんですか。どうやって食べるんですか?」

「そうだなー……両方とも天ぷらで食べるのが美味しいんだけど、タラの芽は違う料理にするかな。肉巻きなんて良さそう」

「肉巻き!? いいな、それ! 美味しそう!」


 両方とも天ぷらで食べたいけれど、それだと飽きちゃうから片方は肉巻きだ。それをいうとクレハが喜んでくれる。


「じゃあ、早速夕食の準備をしますか?」

「そうだね、先にパンを作ろうか。その後にスープを作って、最後に山菜の調理をしよう」

「パンを捏ねるなら、ウチに任せろ!」


 帰ってくるのにそれなりに時間がかかったから、夕暮れが近い。早めに食事の用意をするのがいいだろう。一日中動き回って疲れたけれど、もうひと踏ん張りだ。


「今日はどんなパンを作るんだ?」

「そうだなぁ……バターロールでも作ろうか」

「バターのいい香りがするあれですね。作りましょう」

「あれは何個でも食べられちゃうんだぞー」

「じゃあ、明日の分も含めて沢山作っておこうか」


 明日は二人とも魔物討伐に行くし、お腹が減ると思う。いつもより大目にパンを作っておいて、二人にお腹いっぱい食べさせたい。


「準備をしましょう。まずは小麦粉に……えーっと」

「バターもだぞ!」


 私が動く前に二人が動き出した。冬の間、料理のお手伝いをしていた二人だったから、どこに何があるのか分かっている。自然と動いてくれるのは助かるなー。


 私もいつまでも休んではいられない。席を立つと、キッチンカウンターでパン作りの準備をする二人に近づいた。


 ◇


 三人の力と時空間魔法のお陰であっという間にバターロールが沢山焼けた。家の中にバターのいい香りが漂って、堪らなくなる。二人があまりにも美味しそうな目でバターロールを見るから、焼きたてを一つ食べることにした。


「うまーい!」

「フワフワですー!」

「うーん、美味しい!」


 三人で食べるつまみ食いは最高に美味しかった。余分に作っていたし、一つぐらい減っても大丈夫。あっという間に一つを平らげてしまった。


「次はスープですね」

「ベーコン、入れようぜ!」

「じゃあ、にんじんとキャベツと……」


 次にスープ作りに取り掛かる。私が食材を選び、イリスが野菜の皮を剥き、クレハが食材を切った。それを鍋の中に入れて、コトコト煮込んで味をととのえれば完成だ。


「うー、この匂い堪らないぞー」

「早く食べたいですね」

「もう少しの辛抱だよ」


 最後は山菜料理だ。山菜に洗浄魔法をかけて綺麗にした後、肉巻き用の肉を薄く切る。手分けをしてタラの芽に肉を巻けば、後は焼くだけだ。


 その後に天ぷら粉を作る。木の器に卵を割って入れて、かき混ぜる。次に水魔法で水を入れて、卵と合わさるように混ぜる。最後に小麦粉を入れてかき混ぜ、冷却の魔法で冷やしておけば天ぷら粉の完成だ。


「じゃあ、イリスとクレハは肉巻きをお願い。私は天ぷらを揚げるね」


 二人に指示を出して、竈に向かう。竈には鍋が置いてあり、すでに熱しられた油があった。その油の中に一滴、天ぷら粉を入れて温度の具合を見る。うん、良さそうだ。


 天ぷら粉が入った木の器にフキノトウを入れて、天ぷら粉を絡める。そのフキノトウを箸で掴んで、油の中に投入していく。パチパチと音を立てて、フキノトウが揚がっていく。


 両面しっかりと揚げたら、油から取り出す。カラッと揚がったフキノトウの天ぷらの完成だ。残りのフキノトウも揚げていく。と、隣から肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。


「もう少しで焼けますよ。最後に味を付けてっと」

「ウチは食事の用意をしておくな!」

「うん、お願い」


 三人がそれぞれやるべきことをやっていく。そうこうしている間に隣の肉巻きが焼き上がり、フキノトウも揚げ終わった。皿の上には沢山のフキノトウの天ぷらが乗っている。


「そっちは上手に焼けたみたいだね」

「ノアのほうも上手に揚がったみたいですね。んー、春の匂いがします」


 ダイニングテーブルに移動をすると、すでにテーブルの上は準備万端だった。


「いつでも食べられるぞ!」

「用意してくれてありがとう」


 持ってきた皿をテーブルの上に置き、コップに水魔法で水を出し、氷魔法で氷を出した。準備が終わり席に着くと、手を合わせて挨拶をする。


「「「いただきます!」」」


 早速、出来上がったものを食べ始める。まずはフキノトウの天ぷらからだ。箸を使って天ぷらを一つ皿に乗せ、上から塩をかける。それからフォークで持ち上げると、揚がったフキノトウの匂いを強く感じた、春の匂いだ。


 そのまま、フキノトウを齧る。サクサクとした食感に、フキノトウのちょっとした苦みを感じる味が広がった。


「んー、このちょっとした苦みが美味しい!」

「あっ、私のは苦みがなかったです」

「ウチはちょっと苦かったぞ。でも、美味しいぞ!」


 春を感じながら食べる天ぷらはとっても美味しい。苦みがあるから二人とも食べれるか心配だったけど、大丈夫で良かった。サクサクといい音が食卓に響く。


「こっちの肉巻きのほうはどうかな?」


 イリスとクレハが作ってくれたタラの芽の肉巻きをフォークで刺し、一口で頬張る。まず肉のうま味を感じた、口の中で肉汁が溢れる。よく咀嚼をするとタラの芽の独特な食感が口に広がった。


「こっちも美味しいね」

「なんだか、もちっとしてますね」

「今まで食べたことのない野菜っぽいな」


 初めての感触に二人とも確かめるように食べていった。ほのかに感じる苦みとコクのある味が段々と分かってくる。


「これがタラの芽ですか、いけますね」

「いつも食べている野菜とは違うけど、美味しいぞ!」

「これが春の味なんだよー」

「ちょっとした苦みが春の味ですか? 嫌な苦みじゃないので、大丈夫です」

「春って味がするんだな、ビックリだぞ」


 サクサクのフキノトウの天ぷら、ジューシーな肉に巻かれたタラの芽、どちらも美味しく食べている。塩で食べるとどんどん食べ進められるから不思議だ。


 でも、天ぷらを食べるとあれを思い出す。醤油で作られた天つゆだ。あれに天ぷらをくぐらせて食べるのも美味しいんだけど、あいにく醤油はない。


 というか、醤油があれば料理のレパートリーはもっと増える。あれも作りたいし、それも作りたい。懐かしい前世の味に妄想が止まらなくなっちゃう。


「んー、醤油が手に入れば……」

「醤油ってなんですか?」

「調味料のことだよ。しょっぱい味がついた調味料でね、これがあるともっと色んな料理を作れるんだけどね」

「また料理の種類が増えるのか? だったら、醤油を買うか作るかして欲しいぞ!」

「それができないんだよねー。うーん、どうにかして作れないかなー」


 今まで気にしてなかったのに、気になりだすと堪らなくなる。どうにかして、作れないかな?うんうんと唸りながら夕食を食べ進めると、二人から笑われてしまった。


「なんだかノアが可笑しくなっちゃったぞ」

「簡単には解決できなさそうですね」


 うーん、どうするべきか。

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