153.山菜取り(4)
ディルとティアナと一緒になって山菜採りを楽しんだ。森の中には沢山の山菜があって、大勢で来たのにそれでもまだ山菜の余裕があるように見えた。でも、採るのは食べれる分だけでいいよね。
ティアナは魔動力で体を浮かせるのが気に入ったみたいで、タラの芽が見つかると体を宙に浮かせて自分で採りたがった。もちろん私は拒む理由がないので、そのたびにティアナの体を宙に浮かせる。
このやり取りのお陰でティアナと距離が縮まった。今までは目線を逸らされていたのに、目を合わせてくれるし、笑顔も向けてくれるようになる。自分より小さな子に懐かれるのは、やっぱりいいね。
その内、ディルは他の子と一緒に山菜採りをするようになる。その間に私はティアナと一緒に山菜採りを楽しんで、もっと距離を縮めた。
「あ、タラの芽を見つけたよ。魔法をかけて!」
「うん、行くよ。それ!」
「浮いた!」
タラの芽の前でティアナを宙に浮かせると、ティアナは嬉しそうにタラの芽を積んだ。そして、そのタラの芽を私に渡してくる。
「はい、今度はお姉ちゃんのね」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、次のタラの芽を探そう」
ティアナは宙に浮かびたくて堪らないらしい。フキノトウを無視して、タラの芽ばかりを探し始めた。フキノトウは沢山採れたから、タラの芽が欲しかったから丁度いい。
そんな調子でタラの芽を探していた時だった。
「そろそろ、お昼にするぞー」
農家の人が声を上げた。そうか、もうそんな時間なんだね。
「ティアナ、お昼だって」
「じゃあ、続きは後で?」
「うん、そうなるね」
「残念だけど仕方ないよね。じゃあ、また後で」
そういったティアナは近くにいた両親の下に戻っていった。さて、私もあの二人の合流するかな。辺りを歩いていると、まずイリスが見つかった。
「ノア、ここにいたんですね」
「うん。山菜は採れた?」
「はい、沢山採れましたよ。あとはクレハはどこに……」
二人で辺りを見渡すと、男の子と走っているクレハを見つけた。男の子よりもクレハが速かったみたいで、男の子たちは残念そうに声を上げている。その前でクレハは胸を張って威張っているように見えた。
「クレハー、お昼ですよー」
イリスが声をかけるとそれに気づいたクレハが手を振った。それから男の子たちと会話をすると、こちらに戻ってくる。
「いやー、お腹ペコペコだー」
「クレハは遊んでばかりいて山菜を採らなかったんじゃないですか?」
「そ、そんなことないぞ。えーっと、ほら!」
クレハはリュックの中から、両手いっぱいのフキノトウを出してきた。
「へへへ、これだけ採れたんだぞ」
「まぁ、これくらいならいいでしょう」
「なんだかイリスが偉そうなんだぞ」
「そんなことありません」
「ふふっ、お腹減ったでしょ。この辺りに布を敷いて食べようか」
リュックから大きな布を取り出すと、枯葉が積もっている場所に広げて敷いた。その上に靴を脱いで乗ると、布の上に座る。それから、リュックからお弁当箱と布に包まれたパンを取り出した。
「今日のお弁当は何かなー……唐揚げだ!」
「ポテトサラダにプチトマト、色どりが綺麗です」
「気に入ってもらえて良かったよ、さぁ食べよう」
「いただきます」と声を揃えると、早速食べ始める。時間停止がついているリュックに入れていたので、お弁当は温かいままだった。フォークで唐揚げを刺すと、サクッといい音がする。
フォークで刺した唐揚げを歯で噛むと、サクッといい音がして温かい肉汁が溢れだし、うま味が口の中に広がる。うん、今日も美味しい味付けてサクッと揚がっているね。
「肉汁が堪らなく美味いんだぞー」
「相変わらず美味しいですね」
「上手に揚がったみたいで良かった」
二人とも唐揚げを食べてご満悦だ。
「ところで、農家の子と一緒に山菜採りしてどうだった?」
「楽しかったです。色んな子がいて、色んな話をしました」
「ウチは競争とかしたぞ。どれも、ウチが一番だった!」
どうやら、しっかりと交流は出来ているみたいだ。この村に来て、何かと忙しかったからまともな交流を持てていなかった。だけど、余裕が出来た今ならその交流が持てると思う。
「仲良くなれそうな子はいた?」
「はい、いました。農家の女の子たちなんですけど、髪と服を褒めてもらいました。あとは魔物討伐のことを話すと、どんなことがあったのか、と話をせがまれました」
「ウチも魔物討伐のことは話して欲しいって言われたな。話してみるとみんな驚いていて、面白かったぞ。それから、どんな風に魔物を倒したか実演したりもしたな」
「そっか、二人は魔物討伐をしているから、そこは農家の子たちとは違うかもね。珍しいから話をせがまれたんだと思うよ」
今まで交流してこなかったから、二人の話は新鮮だっただろう。魔物討伐なんて農家の子はしないだろうし、親だってしない。魔物討伐をする冒険者と接点がないから、話を聞くこともなかっただろうから物珍しかったんだろうね。
「農業の手伝いをするのはみんな同じでした。みんなは親の手伝いですが、私たちはノアの手伝いですからね。子供たち三人だけで暮していると聞くと驚かれました」
「ウチはそれをいうと羨ましがられたぞ。いつも仕事を手伝えっていううるさい母さんがいないから羨ましいだって。でも、ウチらはウチらでなんとかしないといけないから、そこは大変なんだぞって言ったぞ」
「そうだねぇ、私たちは自活をしないといけないから、そこは農家の子たちとは違うかもね。もしかして、話を聞いて寂しくなっちゃった?」
「いいえ、親はいないことには慣れっこですし、私は平気です」
「ウチも平気だぞ! 今は楽しい生活が遅れるから、楽しいんだぞ」
親のいる農家の子と比べて寂しい思いをしていないかと不安だったけど、二人とも大丈夫だったみたい。と思ったら二人は顔を見合わせて笑い合った。
「というか、ノアが母さんみたいに世話を焼くからなぁ」
「世話を焼いてくれる人がいるので、全然寂しくないです。だから、ノアがいると安心するんですよね」
「そうだぞ、ノアが家にいてくれてウチらを温かく迎い入れてくれるから、全然寂しくないんだぞ」
「二人とも……」
二人が快適に過ごせるように色々と手を尽くしたけれど、それが二人の支えになっていたみたい。
「だからこそ、ノアにも今を楽しんでもらいたいです。今回の山菜採り、楽しいですか?」
「そうだぞ、ノアも楽しまないとダメなんだぞ。仲良くしたい子はいたのか?」
二人が私を気遣ってくれる、それだけで嬉しくて胸がいっぱいだ。だから、そんな二人を不安にさせないように私は話す。
「うん、いたよ。この間、魔法使いの才能があるって言った子でね、今回の山菜採りで仲良くなったの」
「あー、あの子ですか。年下で可愛らしい子でしたよね。魔法使いの才能があるから、魔法で一緒に楽しめたらって言ってましたね」
「魔法の才能かぁ、ノアみたいに魔法が上手い子だったらいいな。そしたら、ノアも楽しめそうだ」
「いや、まだ魔法を覚えていないみたいなんだよね。だから、魔法で一緒に楽しむことはできないの」
才能はあっても、まだ魔法を覚えていない。称号があったとしても、それが必ずしも実際使えるようになるのは後みたいだ。
「そしたら、ノアが教えたらいいんですよ。そしたら、魔法使い仲間が増えます」
「その子が魔法を覚えたらきっと楽しくなるぞ」
「うん、そうだね。そうなったらいいな」
一緒に魔法が使えるようになったら、楽しいだろうな。魔法のことを話したり、一緒に使ったり、誰かの役に立ったり。色んな事が出来て、生活が豊かになりそう。
よし、もっと仲良くなって。魔法を覚えないか聞いてみよう。
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