152.山菜取り(3)

 今の時期に採れる山菜はフキノトウとタラの芽らしい。地面の上にあるのを見つけるか、木の先に生っているのを見つけるかどちらかだ。


 周囲を見渡して山菜が生えていないか探す。あちらこちらで農家の人が山菜を採っている姿を見ると、簡単に見つかるんじゃないかと思ってしまう。


 というわけで、周辺をくまなく歩いてまずはフキノトウを探す。キョロキョロと地面を見渡すと、淡くて薄い緑色のものがいくつか生えていた。きっとこれだ、私はそこに駆けつけていく。


 見つけたものの前に座ると、それが良く見える。つぼみが開く直前のフキノトウみたいだ、確か農家の話だとつぼみが開きかけがいいって言ってたな。開いたフキノトウは苦いらしいから、私たちが食べるには苦くないほうがいいだろう。


 下の茎には毒があるから触らないようにして、つぼみの膨らんだ部分を掴む。それから上に捻るように引き抜くと……やった採れた! 採れたフキノトウは小ぶりの大きさだ。


 これだったら食べやすくていいかも。他にも四つくらい生えているけれど、全部は採らないほうがいいんだよね。来年も生えてきて欲しいから、二つくらい残しておこうかな。


 残りの二つのフキノトウを採ると、手には三つのフキノトウが手に入った。フキノトウを手に取って、私はディルとティアナを探す。すると、丁度二人が集まっていたところを見つける。


「おーい、見つけたよー」


 私は声をかけながら二人に近づいた。


「ほら見て、フキノトウを見つけたよ」

「なんだ、ノアも見つけたのか。俺も見つけたぞ」

「……私も」


 二人の手にはフキノトウがあった。ディルは三つ、ティアナは一つだ。


「なんだ、じゃあ競争は引き分けってことだね」

「あちこちに生っているからなー」

「楽しい」


 大勢で森に押しかけても、みんなが余裕で採れるくらいにはフキノトウが生えていた。簡単に取れてつまらないけれど、ティアナは楽しそうに笑っていたから良しとしよう。


「そうか、ティアナは楽しいか。なら、もっと採るか?」

「うん」

「じゃあ、採りつくさないようにやろうか」


 今度は三人で固まって動く。辺りをキョロキョロと見渡しながら、フキノトウを見つけていく。すると、少し遠くに淡くて薄い緑色のものが沢山生えているのを見つけた。


「あったぞ、あっちだ!」


 ディルが先に走っていき、それを私とティアナが追う。だけどディルは走るのが早くて、ティアナは走るのが遅いし危なっかしい。そこで、ティアナに手を差し出した。


「転ぶといけないから、手を繋ごうか」

「……うん」


 ティアナは恥ずかしそうにしていたけれど、手を繋いでくれた。私が先に入ってティアナを引っ張りながら走る。追いつこうと懸命に走るティアナは可愛くて、頬が緩んでしまう。


「ほら、見ろ! こんなに生っているぞ!」


 その場に辿り着くとディルが嬉しそうに声を上げた。そこには十くらいのフキノトウが群生している、これは大収穫だ。


「わぁ、凄い」

「これは大収穫だよ」

「さぁ、採るか!」


 三人でその場にしゃがむと、フキノトウを採り始める。


「つぼみが開いているのが三つくらいあるから、それは採らないで残しておこう」

「あぁ、こいつらか? 確か苦いっていう話だもんな」

「苦いの苦手……」

「他は採っても大丈夫そうだよ。ほら、これとかいいんじゃない?」


 指を差したフキノトウは小ぶりでつぼみが開きかけている。これくらいなら、きっと美味しく食べられるだろう。


「ティアナはちゃんと採れる?」

「うん、さっきも採った。見てて」


 ティアナはフキノトウに両手を伸ばすと、つぼみを掴んだ。そして、捻りながら上の方に引っ張った。


「採れた。見て、採れた」

「ティアナは採るのが上手だね」

「えへへ」


 ティアナは嬉しそうに微笑んで、採れたフキノトウを撫でた。少しずつ距離が縮まっているように思える。やっぱりイベントを一緒にやると、楽しさで距離が縮まってくれるみたいだ。


「フキノトウ、沢山採れたな。今度はタラの芽を採りたい」

「じゃあ、小さな木を探さないとね」

「木……私でも採れるかな?」


 フキノトウは沢山採れたけど、まだタラの芽を採れていない。今度はタラの芽を狙いたいね。視線を高くして、周囲を見渡す。すると、タラの芽が生っている木を見つけた。


「あれだね」

「あれか、行こう!」

「待って!」


 ディルが走っていき、ティアナが後を追う。その後ろから私も追っていき、タラの芽が生る木に辿り着いた。


「確か、一番芽だけ採ればいいんだよね」

「ということは、このてっぺんの奴か」

「てっぺん……採れない」


 私たちは届くけど、ティアナは届かない。折角採取の楽しさを知ったのに、採取出来ない悲しさは味合わせたくない。そうだ、ここは魔法を使ってみよう。


「ティアナがてっぺんの芽を採れるように、魔法を使ってみようか?」

「わぁ、魔法?」

「そんな魔法があるのか?」

「うん、物を動かすことが出来る魔法なんだよね。それがあると……地面の枝を見て」


 地面に落ちている枝を魔動力で宙に浮かせる。


「わっ、浮いた」

「すげー、これが魔法なのか? なんか想像と違うな」

「魔法って言っても色んな魔法があるからね、こういう魔法もあるんだよ」


 ティアナは目を輝かせて驚き、ディルは感心したように枝を見た。


「この魔法を使えば、ティアナをタラの芽が届く場所まで浮かせられるよ。やってみない?」

「だとよ、どうするティアナ」

「……やりたい、うん、やりたい!」

「よし、決まり。それじゃあ、木の前に立って」

「うん!」


 ティアナはとても楽しそうにタラの芽の木の前に立つ。


「よし、行くよ……それっ!」

「わわっ、浮いた。私、浮いてるよ!」


 魔動力でティアナの体を浮かせると、ティアナは嬉しそうな声を上げた。足をジタバタさせて飛んでいる感触を確かめているみたい、可愛いな。


「すげー、ティアナが浮いてるぜ」

「ほら、タラの芽が採れる位置まで浮かせたよ。枝に棘があるから気を付けて、採れるかな?」

「うん、やってみる」


 ティアナは恐る恐る手を伸ばして、片方の手で枝を掴み、もう片方の手でタラの芽を掴んだ。そして、力を込めてタラの芽を千切る。


「やった、採れたよ」


 ティアナが嬉しそうにタラの芽を見せてきた、棘で手も傷つけてないみたいだし良かった。タラの芽を採ると、ティアナをゆっくりと地面の上に立たせる。


「良く採れたな、偉いぞ」

「えへへ、お姉ちゃんのお陰だよ。宙に浮いて驚いたけど、楽しかった!」

「喜んでもらえて良かったよ」


 ティアナに喜んでもらえて本当に良かった。こうやって少しずつ距離を縮めていけば、仲良くなるかな。個人的には魔法使いの友達になってくれたら嬉しいんだけどなぁ。


 そんなことを考えていると、ティアナがもじもじと恥ずかしそうにしていた。


「どうしたの?」

「あのね、あのね……またやりたい」

「もちろんいいよ。じゃあ、次の木も見つけようか」

「次は俺が見つけるぜ!」

「私も、私も見つける」


 ディルがその場から移動すると、ティアナも負けじと探しに行く。散らばっていった二人を見て、私も待ちきれないとばかりに探し始めた。どこかにタラの芽が生っているところはないかな?


 歩いて探していると、ティアナが近づいてきた。そして、私の手を掴んで引っ張った。


「ねぇねぇ、あっちにあったよ」

「本当、じゃあ行こうか!」

「うん!」


 ティアナから手を握ってくれて驚いた。でも、これって距離が縮まっているってことだよね。少しずつ仲良くなれて嬉しいなぁ。


 急かすティアナに連れられて、森の中を走った。

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