109.冬のはじまり(3)

 発熱の魔法の授業はまず魔力を感じ取るところから始まった。エルモさんの手を握り、エルモさんが発する発熱の魔力を感じてその質を確かめる。


 私が発熱の魔力の質が分かったら、今度は私が発熱の魔法を発動してみる。始めは上手く発動出来なかったけど、徐々にコツを掴めてきたのか、発熱していったのが分かった。


「いい調子ですよ。そのまま発熱をしてみてください」


 エルモさんの言った通りに発熱の魔法を発動させていく。時間をかけて発動させると、段々と発動するのが上手くなり、問題なく発動出来るようになった。


「では、このコップの水をお湯に変えてください」


 冷却されたコップを手渡される。私はそのコップを両手で包み込むと、意識を集中させて発熱の魔法を発動させる。うん、しっかりと発動出来ている。後はコップの水をお湯に変えるだけだ。


 発熱の魔法を発動させて、コップの水をお湯に変えていく。冷たかったコップの水が徐々に熱しられて、温かくなっていくのが分かる。温度が上がっていくのを感じながら、丁度いい温度で魔法の発動を止めてみた。


「できたよ」


 コップを差し出すと、エルモさんがそれを確認する。


「うん、発熱の魔法が成功したみたいですね」

「やったー!」

「じゃあ、発動出来たので、今度は広範囲に発動出来るようにしましょう。これが出来たら冬は快適に過ごせますよ」


 発熱の魔法を広範囲にか、これは使えそうな魔法だ。


「やり方は簡単です。先ほど発動した発熱の魔法の魔力を広げたいところまで魔力を広げればいいだけです」

「他の魔法とやり方は同じだね。やってみる」

「じゃあ、私を発熱の魔法で温かくしてください」


 エルモさんに発熱の魔法をかければいいんだね、分かった。私は両手を前に出すと、発熱の魔法を発動させる。発動したのを確認すると、それをエルモさんに届くように魔力を排出する。


 魔力を操作して、発熱の魔力でエルモさんを包み込む。包み込む操作が難しいけれど、綻びがないように意識を集中して操作していった。そして、エルモさんを発熱の魔力で包み込むことに成功する。


「うん、いいですね。ちゃんと包み込まれています。発熱の魔法、合格です」

「やったー!」


 よし、発熱の魔法習得だよ! これで寒い冬も温かく過ごせるはずだよね、いい魔法を教えてもらったな。


「ノアちゃんは魔法が得意みたいですね。こんなに早く習得しているので、驚いてしまいます」

「なんかそうみたい。でも、私が早く魔法を習得出来るのはエルモさんの教え方が上手いからだよ」

「そ、そうですか? 褒められるとなんだか照れちゃいますね」


 エルモさんは恥ずかしそうに頬を両手で抑えた。その時、お店に置いてある時計が鳴る。お昼になったらしい。


「あっ、お昼ですね」

「昼食の時間だね」

「はい。今用意してくるので、しばらく待っていてくれませんか?」

「もちろんだよ」


 エルモさんは席を立つとお店の奥へと消えていった。待っている間は暇なので、今日習った発熱の魔法の練習をする。この魔法を使えば、寒い中外で頑張ってきた二人をすぐに温めることが出来る。二人を一度に温めることが出来るようになろう。


 私は誰もいないところに向かって発熱の魔法を発動し続けた。温度を高くしたり、低くしたり、自由自在に温度の変化もつけられるようにする。これでどんな時も臨機応変に温度の使い分けが出来そうだ。


 一人で発熱の魔法の練習をし続けていると、エルモさんがトレーに昼食を置いて戻ってきた。


「お待たせしました」


 エルモさんの今日の昼食はサンドイッチと野菜のスープらしい。というか、エルモさんの昼食はいつも同じだった。


 エルモさんが席につくのを待って、私は自分のリュックからお弁当箱とパンを包んでいる布を取り出した。布を広げてパンを出し、お弁当箱を開けた。両方ともまだ温かいままで、いい匂いがお店の中に充満する。


「いつもお弁当を作って偉いですね」

「いつものことなので全然大変じゃないよ。それに、私の料理を楽しみに待っててくれる二人がいるので作りがいがあるの」

「他に食べる人がいるのっていいですよね。私は自分一人しか作らなくてもいいから楽なんですが、張り合いがないのが残念です」

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」


 二人で手を合わせて挨拶をすると、昼食を食べていく。ソースの絡まった肉や野菜は美味しいし、焼きたてそのままのパンを食べると幸せな気分になる。


「いつも自分でメニューを考えているんですか?」

「そうだね。時々、前に食べたアレが食べたいってリクエストがある時があるんだ」

「へー、楽しそうでいいですね」


 二人でお喋りをしながら昼食を食べる。魔法を習う前では、お互いに一人で食べていた昼食の時間。それが二人になるだけで、いつもより昼食が美味しく感じられた。


 楽しい昼食の時間は過ぎていき、二人とも昼食を食べ終えてしまう。


「「ごちそうさまでした」」


 二人で手を合わせて挨拶をする。エルモさんは食器を片づけにお店の奥に行き、私は使ったお弁当箱やフォークに洗浄魔法をかけて、綺麗にしてからリュックの中にしまった。


「今日は終わりですね。また、明日も来て魔法を習いますか?」

「うん、明日もお願いします。また今度素材採取に行くから、その時になったらいうね」

「一緒に食べるお昼もいいですが、お仕事もしないといけませんからね。私も素材をもらったからには調合を頑張ります」


 魔法を学ぶだけじゃなくて、しっかりと仕事もしないといけない。お互いに何かを忙しい身で、のんびりしていられる今を大切にしておきたい気持ちがある。


 私はコートを羽織り、リュックを背負うとお店の扉に近づいた。


「エルモさん、今日もありがとう。さとうなら」

「はい、さようなら。また、明日楽しみに待ってますね」


 エルモさんにお別れを言うと私はお店を出た。


「うぅ、寒い」


 外に出ると一気に寒さが襲い掛かってくる。温かいところにいたからなおさら寒さが身に染みる。でも、寒さなんかに負けない。二人はこの寒い中、魔物討伐に行っているんだから私も頑張らないとね。


 気合を入れ直し、家に向かって歩き出した。


 ◇


 家についた私は早速農作業を開始した。午後だけで収穫と納品を終えるためには、少ない作物しか育てられない。今は魔法を習っているから仕方がないとはいえ、収入が落ち込むのは痛い。


 少しでも多くの作物を収穫するために、私は時空間魔法の時間加速を使い作業を始める。種を撒き、植物魔法で作物を育てる。それから収穫をして、作物を木箱に詰める。


 一連の動作を二倍速で作業をすると、かなりの早く作業が進んだ。本当なら他の手も欲しいところだけど、ないのは仕方がない。農家の人たちは来年の小麦作りに向けて、畑を整備中で来れない。


 もう少ししたら、それも終わると思うから終わったら今度は砂糖作りが始まる。その前に、足りない野菜を作っておかないとまたひもじい思いをしてしまう。農作業を頑張って、村の人や町の人に作物を届けるんだ。


 使命感にも似た気持ちで農作業を続けていく。全ての作物を収穫し終えると、今度は納品だ。荷車の取ってに手をかけて、魔動力で車輪を動かすと、作物所まで暗くなる前に急いで行った。


 慣れた道を進んで、作物所に辿り着いた。すぐに、お店の扉を開けてコルクさんを呼ぶ。しばらく待っていると、お店の奥からコルクさんが現れた。


「今日もお疲れさん。じゃあ、作物を受け取るな」

「うん!」


 魔動力で作物が入った木箱をお店の中に入れた。コルクさんは作物を検分して査定していく。そして、査定が全て終わった。


「最近はやることがあって、大変だな。今日はこれくらいになるぞ」


 そう言われて手渡されたお金、やっぱりいつもよりは少ない。


「収入少ないけど、大丈夫か? 困ったことがあったら、いうんだぞ」

「蓄えもあるから今は大丈夫だよ。それにそろそろ砂糖作りも始まるから、そこで沢山稼いでみせるよ」

「それは頼もしいな。ほら、これが次に作って欲しい作物だ」


 コルクさんから次に作る作物のリストを貰った。ふむふむ、どれも冬には作れないものばかりだ。作ったら売れそうなものばかりだから、安心して沢山作れるね。


「じゃあ、明日もまたお願いします」

「こちらこそ頼むよ。ノアがいてくれて本当に良かった」


 お別れの挨拶をして、作物所を出ていった。空になった荷車を魔動力で動かしながら、今度は肉屋へと向かう。今日のお肉は昨日買ってあるから、明日に使うお肉を買おう。明日は何を作ろうかな。

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