85.家畜を飼おう(3)

 夕方になると、二人が帰ってきた。


「「ただいまー」」

「おかえり、お疲れ様」


 今日も魔物討伐お疲れ様。さて、夕食の仕上げをしないと。


「なぁ、ノア。外に何かいたんだが」

「あ! そうそう、言わないといけないことがあったんだ」

「外の牛や鶏のことですか?」


 すっかり夕食作りに夢中になっていたから、二人に説明するのを忘れていたよ。


「外にいる牛と鶏、飼おうと思っているんだ」

「あれを飼うのか!?」

「だ、大丈夫なんですか?」


 飼う話をすると二人は驚いている様子だった。まぁ、動物を飼うなんて大変なことだからね、この反応は仕方ない。


「うん、はじめは肉屋に肉として売られていたんだけど、肉に変えられる前に私が買い取ったの。なんでも、栄養失調で乳と卵を出さなくなったんだって」

「こういうのもなんですが、乳と卵を出さない家畜を飼うのは無駄じゃないですか?」

「可愛がるためにかったのか?」

「そこは大丈夫だよ。栄養失調で出さなくなっただけだから、しっかりと餌をあげて世話をすれば出せるようになるから。乳と卵目当てだったしね」


 不安そうだった二人は私の話を聞いて安心した様子だった。


「そうだったんですね、それなら納得です」

「その内、乳と卵が取れるようになるのか? それは楽しみなんだぞー」

「うん、だからさ飼おうと思っているんだけど……いいかな?」

「もちろん、いいですよ。私たちに出来ることがあるなら言ってくださいね」

「ウチもお手伝いするんだぞー!」


 良かった、二人とも許してくれた。それに、二人ともお手伝いもしてくれるみたいだ、助かるな。


「じゃあ、とりあえず先に夕食にしようか」

「ウチ、お腹ペコペコだぞー」

「はい、みんなで食べましょう」


 二人を席に案内すると、私は夕食の盛り付けに向かった。


 ◇


 夕食を食べ終えて、自由時間が終わり、寝る時間になった。秋用のパジャマに着替えて、ベッドの中に潜り込む。


「なーなー、何か手伝えることはないか?」


 寝る前のお喋りの時間にクレハがそんなことを言ってきた。うーん、そうだなぁ。


「なら、餌作りを手伝ってくれない?」

「餌って何を食べるんですか?」

「とうもろこし、大豆、麦だよ。でも、それだけじゃだめで、牛には草をあげたり鶏には野菜くずをあげたりもしないといけないんだ」

「何をすればいいんだ?」

「とうもろこし、大豆、麦の収穫の手伝いをしてくれないかな。それを収穫して、乾燥させて、実をとって砕くの」

「それでしたら、私たちでも手伝えそうですね」


 二人に餌作りをお願いすると、快く受けてくれた。急に人手が欲しくなる時に、近くに仲間がいて本当に良かった。


「大量に作らないといけないから、大変だと思うけど……いい?」

「もちろんだぞ! ノアの困ったことは、ウチの困ったことと一緒だぞ」

「三人で協力しようっていう話を忘れましたか? こういう時にぜひ頼って欲しいです」

「二人ともありがとう」


 頼もしい二人の言葉に心が温かくなる。勝手に家畜を飼うことを決めたのに、二人は賛成してくれたし、本当に嬉しいな。


「明日は久しぶりの収穫作業か、張り切って働くぞー」

「実をとる作業も大変そうですね、頑張りましょう」

「うん。大変だけど、三人いるから平気だね。そろそろ、寝ようか」

「うん、おやすみー」

「おやすみなさい」


 明日の予定を立てると、私は明かりの光を消した。明日はみんなで収穫作業と餌の作成だ、一緒に頑張ろう。


 ◇


 朝、起きた私は手慣れたようにかまどに火を点けて、お昼のお弁当作りを始める。昨日、下ごしらえしたお肉と野菜を焼き、味付けをして、粗熱を取る。あとはお弁当箱に詰めて、昨日作ったパンをお弁当の上に置いておけば完成だ。


 その頃になると二人は起きてくる。


「おはよう」

「「おはよう」」

「顔、洗う?」

「うん」

「なら、外に行こうか」


 棚に置いておいたタオルを持って寝ぼけ眼の二人を家の外へと連れ出すと、二人が両手を差し出してくる。その手の中に水魔法で水を出すと、二人はその水で顔を洗う。


「ぷはぁっ」

「タオルー」

「はい、どうぞ」


 先にクレハにタオルを渡すと、クレハが顔を拭く。その次にイリスにタオルを渡すと、イリスが顔を拭く。その拭いたタオルを私が受け取り、洗浄魔法で綺麗にした。


「目、覚めた?」

「うん、覚めた!」

「いつもありがとうございます」

「いいよ。じゃあ、食堂に行こうか」


 私は家の中に戻ってタオルを棚に戻すと、また外に出た。そして、二人と合流すると宿屋に向かって歩き出す。


「大分、寒くなってきましたね」

「そうか?」

「クレハは丈夫そうだから、寒さに強そう」

「ウチはそんなに丈夫じゃないぞ」


 歩きながらお喋りをする。秋になってしばらく経ったけど、気温が少しずつ下がっているような気がする。冬に向かっていっているみたいで、ちょっと寂しい気持ちになった。


「まだ、秋でいて欲しいですね」

「寒いのは嫌だぞ。暑いのも嫌だけど」

「過ごしやすい気候が一番だよね。私も秋がまだ続いて欲しいな」


 他愛もない会話をしていると、宿屋に到着した。中に入り、食堂の扉を開けると、いつもの光景が広がっている。冒険者たちは朝食を食べて、ミレお姉さんが配膳の仕事をしていた。


「いらっしゃい。今、用意するから座って待っててね」


 そう言われて、イスに座ってテーブルで待つ。しばらく待っていると、料理を持ってミレお姉さんがやってきた。


「お待ちどうさま」


 朝食をテーブルの上に置くと、ミレお姉さんが話しかけてきた。


「最近、少しずつ冷えてきたわね。三人とも大丈夫?」

「ウチはまだまだ平気だぞ!」

「来る時の同じ話してました。今は大丈夫です」

「というか、過ごしやすい気候だよね」

「今の季節が長いといいんだけど、短いからねー。あ、早めに冬支度もしておきなさいよ。今年は薪の心配はないみたいだから、服とかしっかり仕立ててもらいなさい」


 薪はあの樵の兄弟が頑張ってくれたおかげで、十分な量が確保できたみたい。冬は薪の心配はしなさそうで良いから、安心だね。


「ミレ姉聞いてくれ、ノアが家畜を飼い始めたんだぞー」

「あら、そうなの? ちなみに何を飼い始めたの?」

「牛と鶏です」

「あら、いいじゃない。牛は乳を出すし、鶏は卵を生むわ。早速、食べてみたの?」

「ううん、栄養失調で今は乳や卵が出せないの。だから、しっかりと栄養を与えて世話をするつもり」

「そうだったの。なら、食べられるのは当分先になりそうね」


 ミレお姉さんは残念そうに言った。でも、すぐに話題を変えて話を盛り上げてくれる。


「牛乳と卵が手に入ったら、何を作るの?」

「んー、料理の幅が広がるから悩むなー」

「ノアちゃんの作る料理が気になるわ」

「ノアの料理は世界一美味しいんだぞ! 毎日食べても飽きないんだ」

「食べたことのない料理を出すので、いつも楽しみなんです」

「ふふっ、ノアちゃんってなんでも出来て凄いのね」


 でも、手に入ったら何作ろうか悩むなー。料理の幅は広がるし、調味料のマヨネーズを作れるようになる。生クリームにチーズ、作りたいものがいっぱいあって決められないな。


「ノアがすっごい顔で悩んでる。こーんな顔しているぞ」

「ふふっ、クレハったら。そんな面白い顔しないでください」

「えー、私そんな顔してたー?」


 クレハが変顔するから、イリスは面白そうに笑った。でも、私そんな顔してないもん……だよね?


「そんなに悩むのなら、美味しい料理が出来上がるわね。あなたたち二人が羨ましいわ。ノアちゃんにここの料理も作ってもらいたいくらいよ」

「ノアは宿屋には渡さないんだぞ!」

「そうです、渡しません!」

「あらら、これは無理そうね」


 二人に守られると、なんだか照れちゃうな。そんな二人の期待に応えるために、家畜の世話を頑張ろう。

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