72.秋の始まり(2)

 夕食が終わり、少しの自由時間になった。家の中は夏の頃に比べて、日の光が入っておらず暗くなっている。そこで屋根から吊るした小さな木の囲いの中に光源の魔法を入れて、家の中を照らした。


「二人とも、クレアさんのところで注文した品が出来たの」

「えっ、本当ですか?」

「うん、クローゼットの中に入っているから見て」

「とうとう、出来たのか! どんなものか見てみよう!」


 二人の表情は一気に明るくなり、クローゼットの前に集まった。そして、中を開けるとハンガーにかかった真新しい秋服、ハンガーに吊るされた新しいリュック、下に置かれた新しいショートブーツが現れる。


「わぁ、これが秋服なんですね。えへへ、二着も新しい服があります」

「見た感じ、とっても着やすくて動きやすそうなんだぞ!」

「どうせなら、着てみる?」

「そうしましょう! 明日の楽しみにとっておくことも出来ますが、着てみたいです」

「それじゃあ、着よう!」


 三人で夜のファッションショーだ。着ている服を脱ぎ、新しい秋服に袖を通す。今回も肌触りがいい生地で、着るだけで気持ちが良くなる。


 そして、着終わるとお互いに向き合う。


「どうですか? 似合ってますか?」

「うん、似合ってるよ。私はどう?」

「似合っているんだぞ! これ、凄く気持ちがいいな!」


 イリスは長袖のワンピース、クレハは長袖に長ズボン、私は長袖にスカートとレギンスを履いている。それぞれ特徴がある衣服になっている。


「新しい服はいつ着てもいいものですね。孤児院の時は古着ばっかりだったから、肌触りは良くなかったです」

「そうなんだよなぁ。結構ズタボロだったし、穴から入ってくる隙間風とか寒かった気がするぞ」

「私も召使いの時はそんな感じだったかな。良い生地じゃなかったから居心地が最悪だった」

「でも、これは違いますね。体にピッタリだし、生地は気持ちいいし、いうことなしです!」

「尻尾を出す穴がちゃんとしているから、とっても良いんだぞ! 付け根とか服に擦れることもないから、居心地がいいんだぞ!」


 二人とも新しい服は気に入ってくれたみたいだ、もちろん私も気に入っている。こんなに良い服が着れるなんて、昔の私だったら想像がつかないだろう。


「ついでにショートブーツも履いてみようよ」

「いいですね! 今までの靴ともお別れですね」

「そうだね。靴も二足作ったほうが良かったかな?」

「一足でも十分なんだぞ!」


 今まで履いてきたボロボロの靴を脱ぎ、新しいショートブーツに履き替える。


「うわっ、なんだこれ! すっごく居心地がいいぞ!」

「なんていうか靴が足にピッタリとくっついているような感覚です」

「これは……今まで履いていた靴とは段違いにいい」


 足のサイズや形を測り、それぞれの足にあった靴を作ってもらった。そのお陰かショートブーツの履き心地はとても良くて、ビックリするほどだ。


「ちょっと、歩いてみましょう」

「ウチは走ってみるぞ!」

「私も歩いてみよう」


 立ち上がって家の中をぐるぐると歩いてみる。今まで歩くだけで靴の合わない部分が擦れて痛かったが、今回はそんなことが全くなかった。歩けば歩くほど、ぐんぐん前へ進んでいくみたいだ。


「なんだこれ、今まで以上に早く走れそうだぞ!」

「凄く歩きやすくて驚きました。靴ってこんなに凄いものだったんですね」

「うん、これは凄い。足にピッタリ合う靴を作るだけで、こんなにも歩く時の負荷を減らせるなんて思ってもみなかったよ」


 どこまででも歩いて行けそうな気にさせてくれる靴だ。今までの履いていた靴はなんだったんだ、と悪態をついてしまうほどにとても良い靴に感動を覚える。


「そうだ、ついでにリュックも背負ってみようよ」

「新しいリュックですね、背負ってみましょう」

「どんなリュックになっているか、楽しみなんだぞ」


 一通り歩いて満足すると、次に移る。クローゼットの前に集合してハンガーにかかったリュックを確認した。


「結構な大きさのリュックですね。色んな物が入りそうです」

「開く口も大きいから出し入れもしやすそうなんだぞ」

「革と厚手の布で作られているから丈夫だね。擦り切れそうな所は革で出来ているよ」


 新しいリュックを色んな方向から見て楽しんだり、触って確かめたりした。十分に見終わった後、ようやくリュックを背負ってみる。


「あ、肩の部分がとても楽です」

「今までの背負い袋は肩に食いこんでいたもんな」

「背負う部分が厚めに作られているから、肩が楽になるんだね」


 新しいリュックも素晴らしい出来だ。今までの背負い袋は肩に食いこんでいて痛かったが、このリュックはそんなことはない。楽に背負えるし、動いたとしてもずり落ちることがなかった。


「良いもの作ってもらえて良かったね。これでまた生活向上したよ」

「そうですね。こんなに良いものが揃ってくるなんて、信じられません」

「本当なんだぞ。孤児院の時に比べると、全然良い生活を送れているんだぞ」


 以前の生活と比べれば、今の生活は雲泥の差だ。とても良くなっていっている。住む場所、着る物、食べる物、全てが各段に良くなっていた。


「これもみんなで協力し合っているからこそ、こんな生活が送れているんです」

「そうだね、それぞれができることを精一杯やっているから、今の生活が出来るようになったんだよ」

「ウチは苦手なことも得意なこともあるけれど、二人がウチの苦手なことを補ってくれるからどうにかなっているんだぞ。本当にありがとう」

「ふふ、私のほうこそありがとうございます。二人がいてくれたおかげで、今までやって来れました」

「それは私のほうもだよ。二人とも、本当にありがとう。お陰で良い生活が出来るようになったよ」


 三人で笑い合って、お互いを称えた。この感謝の気持ちはずっと胸の中にあるし、いつも思っていることだ。子供の自分たちがここまで良い生活を送れるなんて思ってもみなかったから、それぞれの努力に感謝だ。


「そろそろ、着替えて寝ようか」

「そうですね、はしゃいでいたら眠たくなりました」

「ウチもだぞ」


 リュックをハンガーにかけ直し、着ていた秋服を脱いでハンガーにかける。次にハンガーにかかっていた秋用のパジャマに着替えれば、寝る準備の完了だ。


「じゃあ、二人とも先にベッドに入ってー。明かりを消すよー」

「分かりました」

「分かったぞ」


 二人がベッドの中に潜り込むのを見届けると、家の中心にぶら下がっている木の囲いから光源を取り出して光を縮小させる。その光源を持ったまま自分のベッドに入った。


「じゃあ、明かりを消すね」


 光源を消すと、家の中は暗闇に包まれた。それでも暗闇に目が慣れてくると、月明りで家の中が見えるようになる。


「秋はどんな季節になるんでしょうね」

「秋って実りの季節って言われているから、色んな食材が取れると思うの」

「そうなのか! だったら魔物討伐のついでに森の食材でも探してみようかな」

「それもいいですね、食べられるものを調べておいて探すのもいいですね」

「私も森に入って素材採取してみようかな。もう少しで小麦の収穫も一旦中止になるから、時間が出来るんだよね」


 秋になると森の中にどんな食材が出てくるのか、考えるだけで楽しみだ。秋は時間が出来る季節だし、色んなことに手をつけるチャンスでもある。何をしようか、今から考えておこう。


「秋になると何が取れるんだ?」

「うーん、キノコとか? キノコは種がないから私は作れないんだよね、だから採取しかないと思う」

「キノコですか、探すのは大変そうですね。ノアは探すのが得意ですから、羨ましいです」

「でも、探すのは諦めないぞ! 色んな食材を見つけて、ノアに調理してもらうんだ!」

「色々見つかるといいねー。私も色んな料理をしてみたいよ」


 森の中でどんな食材に出会えるのか、とても楽しみだ。よし、秋は森の中に入って食材探しもしてみよう。


 そんな風に三人でお喋りをしていると、だんだんと眠たくなってきた。


「じゃあ、寝ようか。おやすみー」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 強くなる眠気を感じながら、目を閉じた。秋も楽しいことがあればいいな。

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