55.家を作ろう!(4)
家造り十二日目、小麦の収穫をしていると農家の人たちが建築中の家を興味深そうに見ていた。
「あれをノアちゃん一人で建ててるんだな。何か困ったこととかないのかい?」
「今のところないですね。順調に造れていると思います」
「あんな大きなものをねー。魔法っていうのは凄いんだね」
「こんなことなら俺も魔法を勉強すれば良かったかもなー」
「また、そんな都合のいいことを。勉強しただけで魔法が使えるようになるわけないじゃない」
そんな雑談を交えつつ、小麦の収穫を終わらせて作物所に小麦を持ち込んだ。それから急いで帰ると、昨日の続きから始める。
昨日は板に防水加工を施したところで終わっている。今日はその板を屋根につける作業をする。全ての板を家の傍に魔動力で運び、道具である釘をその近くに置いておく。
魔動力で自分の体を屋根まで浮かせると、板と釘も魔動力で浮かせる。防水加工をした面を上にして、位置を調節して、釘を押し込んで板を固定した。
次々に板を屋根の下地の上に固定していく。その間に夕食の準備をしつつ、作業を続けていくと、なんとか今日中に板を張り終えることができた。
「屋根がこれで完成か……うん、普通の家の屋根に見える」
完成した屋根を見て、その出来に満足した。素人がやったにしては、上手に出来ているんじゃない? ふふ、やればできるじゃん!
家造り十三日目、今日は一日作業日だ、どんどん家造りを進めていくよ。
今日は家の外側の壁の板を作るところから始める。丸太に定規とペンを使って線を書いていく。沢山の量を作らないといけないから、線を書くのも一苦労だ。
それでもなんとか線を引き終えた。次は風魔法を使って丸太を板の木材に変えていく。これも物凄い作業量になっている、切っても切っても終わらない。意識が反れそうになるのをぐっと堪えて、最後まで集中して丸太を木材に変えていった。
なんとか丸太を板に変えると、今度は板を長さを合わせて切っていく。この作業はそれほど時間がかからずに済んだ。廃材を燃やしておいて、ゴミは残さない。
全ての板を切り終えると、作った板を魔動力で浮かせて家の傍まで持っていく。全ての板を家の傍に置くと、板を柱に固定する作業の始まりだ。
数枚の板を隙間がないように端を合わせてくっつかせ、その状態で釘を板と柱に押し込んで固定していく。全部魔動力でする作業だから、私は物を操るだけで終わるから簡単だ。
ここからひたすら板を柱に固定する作業が続いていった。作業を一旦ストップさせて夕食の準備をし、パン捏ねて発酵させ、発酵している間に作業を続ける。
そんなことをしていると、辺りは夕暮れに包まれた。そろそろ二人が帰ってくる頃だ、夕食を作らないと。作業は途中で止まってしまうけど、続きは明日やろう。
家造り十四日目、今日は昨日の続きをする。
外側の壁の板を柱に固定する作業を始めていく。隙間ができないように慎重に板を合わせて、板がずれないように慎重に釘を魔動力で押し込んでいく。ここの作業を雑にすると隙間風が家の中に入ってくるから気を付けないと。
作業中、ずっと集中して板を柱に固定し続ける。昨日の途中からだったから、今日で外側の壁の板を全て張り終えることができた。私は離れたところから家を眺める。
「外見は家らしくなったんじゃない?」
外側の壁を張っただけで見た目が普通の家と変わらない。うん、上出来だ。まだ完成していないのに充足感が沸き起こってきて、ちょっと感動してしまった。
気づけば夕方になり、夕食の仕上げをする時間となった。家を眺めるのはやめて、夕食の準備をする。すると、二人が魔物討伐から帰ってきた。そして、外側の壁だけを板で張った家を見て驚く。
「ノア! 家が完成したのか!?」
「もう、出来たのですか!?」
「あー、あれは外の壁だけを作った状態だから中はまだだよ。入口から中を覗いてごらん」
勘違いをした二人に中を見るように促すと、二人は興味津々だと言わんばかりに家に近づいて入口から中を覗く。戻ってきた二人は私の言葉を納得したような顔をした。
「中は全然だった」
「外だけだったんですね」
「そうそう、まだ中はこれからなんだよ。でも、一気に家らしくなったでしょ?」
「うんうん、見た目が家と変わらなかったぞ」
「外見だけでも家らしくなって、家が建つ実感が沸いてきました」
「骨組みばっかり見てたからね、壁を張ると一気に家が建つっていう感じがするよね。さぁ、夕食を食べよう」
二人に席につくように促すと、二人は席に座った。それから、夕食を食べながら家のことを話のタネにして盛り上がる。
家造り十五日目、今日は床を張る作業までいけるといいな。
板を作るため、丸太に木材加工を施す。まず丸太に板を作るための線をかきこんでいく。かなりの量の丸太に線を書き込み終わると、次は風魔法を使って丸太を切る作業だ。
何度もしている作業なので、大分慣れてきたのか作業がスムーズに進んでいく。それでも、切る量が半端なく多いから時間はかかるけれどね。歪みがないように集中力を切らさないで全ての板を切った。
全ての板を切ると、今度は長さの調節だ。長さが同じになるように切っていき、余分なところは切り落としていく。この作業はそんなに時間がかからなかった。
板を調節が終わると、今度は床張りの作業だ。板を家の傍まで持ってきて、作業の開始だ。土台の上に板を並べると、土台と板を釘で固定する。単純作業だけど、ここも隙間がないようにしっかりと木の板の端を合わせて作業をした。
気が付くと夕食の支度の時間になり、作業を途中で止めながら夕食の準備と作業を行き来した。今日中には全ての床を張ることができなかった、明日また頑張ろう。
家造り十六日目、いつものように小麦の納品を終えた私は昨日の作業の続きをする。
隙間がないように板を並べて、土台と板を釘で固定する。その作業をずっとやっていくと、とうとう最後の数枚になった。最後も気を抜かずにしっかりと板を綺麗にならべて、釘で固定する。
「出来た……床の完成だ!」
入口から家の中を見てみると、床が綺麗に張られている。これを自分一人でやったんだ、またあの時のような充足感が沸き起こってとても嬉しくなった。
張ったばかりの床の上で歩いてみる。コツコツと木と靴が重なるいい音が聞こえた。それだけでもやっぱり嬉しくなって顔がにやけてくる。
はっ、こうしちゃいられない、夕食の準備をしないと。急いで家から出ると、夕食の準備を始めた。パンを捏ねて発酵させ、肉の下ごしらえをして必要な分の野菜を切り、パンを小分けにして丸めるとまた発酵させる。
パンを焼き始める頃には夕暮れになってしまっていた。今日はちょっと遅かったけれど、二人が帰ってくるまでには用意ができそう。
そうして、パンが焼き上がった頃に二人は帰ってきた。
「おかえり。はい、氷水」
いつものように氷水を渡すと二人は美味しそうに飲んでくれた。
「プハー、生き返る」
「クレハは毎日それを言ってますね」
「だって、そうなんだもん。ところでノア、今日はどれくらい進んだんだ?」
「今日は床が完成したんだよ」
「本当ですか? 見てもいいですか?」
「もちろん、みんなで行ってみよう」
「楽しみだなぁ」
床を張り終えたことを伝えると、三人で家へと近づいていく。それから入口から家の中に入ると、一面に床が張られた光景が広がる。
「本当に床ですね!」
「凄いんだぞ、床が出来たんだぞ!」
二人は出来上がった床を見て歓声を上げた。
「歩いてもいいですか?」
「走ってみてもいいか?」
「もちろん!」
二人の質問に答えると、二人は動き出した。イリスはゆっくりと歩いて床の感触を確かめると、クレハは広い床を走り回っていく。どれだけ歩いても走っても、聞こえてくるのは床と靴が接触する音だけだ。木の軋みの音なんかしない。
「どれだけ走っても大丈夫なんだぞー!」
「なんか感動です。これをノアが作ったんですね、本当に凄いです」
「ノアは何でもできるんだぞー!」
まだ家が完成していないのに、この盛り上がりだ。でも、頑張ってきたから嬉しい。あともうちょっとで完成するから、待っててね。三人の家まであともう少し。
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