28.称号のレベルアップと冒険者ギルド

「今日も小麦が沢山とれたね」


 野菜を作った翌日はいつも通りに小麦を作った。荷車の中には小麦がぎっしり詰まった袋が積み重なっていて、荷車が動くたびにざらざらと小麦の実が動く音がする。


「新しい野菜はいつ作るんでしょうかね」

「とりあえず、小麦の在庫ができるまでじゃない?」

「この間言っていた在庫は無くなったのか?」

「多分、一日分くらいの在庫はあったんだと思う。だから、野菜を作るのが一日だけだったんだよ」

「小麦粉は主食ですからね、消費が激しいんでしょう」


 この村にいる人数は百二十人を超える、それに冒険者の人数を加えると百五十人くらいにはなると思う。その人たちの主食を賄おうと思ったらかなりの量を用意しないといけない。


「毎日消費する量としては野菜よりも小麦粉のほうが多いんだろうね」

「野菜も結構消費しているように思えますが、そうなんですね」

「難しい話は分からないぞ」

「ふふっ、そんなに難しい話じゃないですよ」

「まぁ、この事はコルクさんが考えて調整してくれるし、私たちはコルクさんの指示通りに作物を作っていけばいいよね」


 難しいことはきっとコルクさんが調整してくれるだろう。そんな話をしていると、二人が顔を見合わせて頷いた。どうしたんだろう?


「あのな、ノア」

「わたしたち、そろそろ自分の仕事をしようかなって思ってます」


 真剣な顔をして告白してきた。


「ノアの仕事をずっと手伝うことも考えました。だけど、それじゃあ称号のレベルアップもできないですよね。ノアの話だと私たちの称号とノアの称号が連動しているって言ってましたよね」

「ノアの魔法はとても便利で、とてもいいものだぞ。自分たちの生活をもっと良くしたいと考えたら、ノアの魔法は必要だと思った。だから、ウチらも外に出て称号をレベルアップすればノアの称号もレベルアップするぞ」

「ノアの称号がレベルアップすれば、新しい魔法を覚えられるんですよね? だったら、私たちが頑張って自分の称号をレベルアップさせて、ノアの称号もレベルアップさせたほうがいいと思います」


 私たちの称号にレベルが存在することが分かった。それは私が鑑定レベルが五になった時に、もう一度みんなを鑑定した時に気づいたことだ。称号のレベルが五段階上げられるらしい。


 今、みんなの称号レベルはレベル一だ。町にいた時は称号の経験値を貯めれたから良かったが、今はみんなで畑仕事しかしていない。ということは、称号のレベルを上げる経験値を積めていないということになる。


 経験値を積むにはそれぞれ条件がある。勇者の卵を持つクレハは魔物を倒したり、困った人を助けると経験値を貯めることができる。イリスは回復魔法などの聖魔法を使うと経験値を貯めることができる。勇者や聖女っぽいことをすると経験値が貯められるらしい。


 私の称号はというと勇者と聖女を育てたことで賢者が生えてきた。鑑定してみると私の称号は特殊なようで、勇者と聖女の称号がレベルが上がると、自動的にレベルが上がることになっているらしい。


 ということは、私の称号のレベルアップは二人にかかっている。私が新しい魔法を覚えるためには二人の称号のレベルを上げなければいけないのだ。まぁ、称号がレベルアップしたら魔法を覚えるのかは完全に憶測でしかないのだけれど。


「ということは、クレハは魔物討伐をしてイリスは村の怪我人を助ける仕事をするの?」

「いいえ、違います。考えたんですけれど、村にそんなに人がいないので回復魔法で経験値を稼ぐことができないと思うんですよ。だから、私もクレハと一緒に魔物討伐をして聖魔法を使って経験値を貯めます」


 イリスがクレハと一緒に魔物討伐に? あんなに怖がっていたのに、どういった心境の変化だろう。


「イリスはそれでいいの? 私の称号のレベルアップのために危険になることをするんだよ」

「ちょっと怖いですけれど、もう決めましたから大丈夫です。今日まで生活してみて、良い生活をするにはノアの魔法が必要不可欠だと思いました。だからこれはノアの為でもあるし、私たちのためでもあります」

「こういう時のイリスは頑固だから、拒否しても無駄だぞー」


 何を言っても無駄ってことか。ここはイリスを信じて、快く送り出すのがいいのかもしれない。


「分かった。イリスはクレハと一緒に魔物討伐に行って」

「ありがとうございます!」

「良かったな、イリス」

「そうと決まれば、冒険者ギルドに行ってイリスの登録を済ませないとね」

「早速この後行きませんか?」

「いいね、行こうか」


 小麦を納品した後に冒険者ギルドに寄ることになった。私たちは足早に作物所へと向かっていく。


 ◇


 作物所で小麦を納品して、荷車を宿屋の前に停めると、私たちは冒険者ギルドに向かった。こんな小さな村にも冒険者ギルドがあるのは、きっと開拓村だからだと思う。開拓には魔物討伐が必須だからね。


 この村で二番目に大きな建物へと行った。石と木造でできた立派な建物の中に入ると、カウンターが置かれてあり、そこには受付のお姉さんが一人座っている。


「こんにちは」

「あら、可愛い子。こんにちは、ここは冒険者ギルドだけど何か用?」

「この子の登録をしに来たの」

「魔物討伐が主な仕事だけど、その子にできるの?」

「やります!」


 色気のあるお姉さんが心配そうにイリスを見たが、イリスはやる気だ。


「やる気十分なのね。だったら、余計なことは言わないでおくわね。ここでは冒険者は一人でも多ければ多いほどいいから、私たちは歓迎するわ。じゃあ、これが登録用紙ね。ここに必要事項を記入してね」

「はい」


 お姉さんが一枚の紙を差し出すと、イリスはそこに記入していく。


「それにしても見慣れない子たちね、どこから来たの?」

「ここから遠い町から開拓村に送られました」

「なんだか左遷みたいな感じね、私と同じ」


 ふふっ、と笑うお姉さん。お姉さんは左遷されてここにきたのかな?


「はい、書きました」

「ありがとう。今手続きするからちょっと待っててね」


 お姉さんは平べったいボードを操作して、何かをしているみたいだ。あれはなんだろう、タブレットみたいなものだけど。


「ねぇねぇ、それは何?」

「これ? 冒険者の情報がいっぱい入っている水晶よ。不思議なものでね、この情報は色んなところで見れるの」


 やっぱり、タブレットみたいなものだ。ネットみたいなものと繋がっているんだろうか? なんだか不思議だな。


「はい、登録したわ。次にギルドカードの登録ね、この板に血を一滴垂らしてね」


 お姉さんは一枚のカードと針を差し出してきた。イリスはそれを受け取る、指先に針先を刺すと血を一滴ギルドカードに垂らす。すると、ギルドカードが一瞬光って表面にイリスの情報が浮かび上がった。


「不思議なカードですね」

「ウチも最初は驚いたぞ」

「どんな構造になっているんだろう?」

「気になるのは分かるわ。でも、なんだか難しい話になるから気にしないほうがいいわ」


 こういうのは不思議な力が働いているんだろう、気にするだけ無駄かな?


「これで登録が完了したわ。これで今日から冒険者として活動できるけど、もう今日は遅いから明日からにしたらいいわね」

「はい、ありがとうございます」


 冒険者活動か……そうだ、素材の買い取りとかもやっているんだろうか?


「あの、採取した素材の買い取りもやっているの?」

「あぁ、薬草とかそういった類の素材ね、その買い取りはやっているわ。ここには商業ギルドがないから、その役目も負っているわね。でも、素材を売るんだったらいい場所があるわ」

「いい場所?」

「そう、錬金術師の店」


 えっ、錬金術師? ってあれだよね、ポーション作ったり色んな便利道具を作ったりしている人。


「どういう訳か、この開拓村に錬金術師を誘致することができたみたい。だから、錬金術に使う素材が見つかったら、そっちに持っていくといいわ」

「そうなんだ、教えてくれてありがとう」

「いいのよ。そっちに持っていってくれたほうが、仕事が少なくて済むからね」


 なんという大胆なサボり宣言。でも、これで素材の買い取りをしてもらう場所も聞けたな。畑作業が落ち着いたら、素材を集めて収入を得るのもよさそうだ。


 私たちはお姉さんに別れを告げて、冒険者ギルドを出ていった。

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