10.賢者の卵が生えてきた

 あれから、私たちは懸命に働いた。クレハは魔物討伐、イリスは治療、私ことノアは素材採取。それぞれのやりたいことをして、頑張ってお金を稼いだ。


 だけど、稼ぎ始めたばかりで上手くはいかないこともあった。私はできるだけ二人の悩みを解決して、なんとか仕事を続けられるように努力した。


 クレハが剣の扱い方が分からないとなれば、資料室に行き剣の関連の本を探してやり方を教えたり。イリスは治療が上手くいかないとなれば、話を聞き原因を突き止めたりした。


 そうやって二人の不安を取り除いていくと、二人はめきめきと成果を上げてきた。少しずつ強くなっていくクレハ、少しずつ治癒魔法が上手くなっていくイリス、成長する二人を見るのはとても楽しかった。


 そのお陰でクレハとイリスは一日の収入が五千エル前後で安定し、私は二万エルを稼ぐことができた。三人合わせて三万エル前後を一日で稼げる。


 そろそろ宿屋にも泊れるんじゃないか。そう思って宿屋のところに行ってみたんだけど、私たちが泊れるような宿屋はどこも満室だった。避難民の人たちはずっと宿屋に泊っているらしい。仕方なく私たちは路地での寝泊りを続けた。


 朝、起き上がるとなんだか知らないけれど違和感を覚えた。なんだろう、知らない何かが体の中に入っているような、そんな感じだ。嫌な感じはしなかったので、そのまま朝食を食べて仕事へと向かった。


「んー、なんか変な感じ」


 平原についてからの何かがついているような違和感は消えない。しばらく考えていると、とりあえずステータスを出すことにした。


「ステータス!」


【ノア】


 年齢:十歳

 種族:人間

 性別:女

 職業:採取者

 称号:賢者の卵


 攻撃力:24

 防御力:23

 素早さ:31

 体力:38

 知力:62

 魔力:70


 魔法:生活魔法、火魔法レベル二、水魔法レベル二、風魔法レベル二、地魔法レベル二、氷魔法レベル二、雷魔法レベル二、植物魔法レベル二

 スキル:鑑定


「なんかいっぱい生えてる!」


 これはどういうことだ? 称号と魔法が生えているけれど、何がどうなってこんなことになったの? しかも、賢者の卵って勇者や聖女の卵じゃないんだから。


 この称号気になるな。レベル三に上がった鑑定で調べてみよう。


 賢者の卵:勇者と聖女の育成に尽力した者


 えぇ、育成に尽力って……ただ剣や治療の扱い方のアドバイスしただけなのに、どうしてそんな称号が生えるわけ?


 もしかして、この魔法も称号が生えたから一緒に生えてきたんじゃないの? ということは、この魔法は賢者の卵の付属品ってことなのかな。それなら突然生えてきた謎も解ける。


 けど、未だに信じられない。きっと勇者と聖女は希少な称号なんだと思う。その希少な称号持ちを育てたから、こんな希少な称号が生えてきたのかもしれない。んー、でも納得できない。


 それにしても、魔法か。異世界転生してもしかして魔法がある世界かもって期待していた部分があるから、これは正直言って嬉しい。そっか、私が魔法か……使ってみよう。


 誰もいない平原で手をかざして、体の奥底に眠る力を引き出す。なるほど、違和感を感じていたのは魔法の力だったんだね。なんとく、この違和感が魔法なのだと確信した。


 その違和感を手に集めて、一気に放出する。


「火よ、出ろ!」


 ボッ!


「わっ、出た!」


 前に突き出した手の前に火が出た、魔法の成功だ。火はすぐに消えて何事もなかったかのようになっている。ボーッとしていると、ふつふつと喜びが込み上がってきた。


「やった、これで私も魔法が使えるようになった!」


 万歳をして一人で喜ぶ。この魔法で何ができるのかは分からないけど、何かの手段を手に入れることができたのが嬉しい。魔法で魔物討伐はちょっと怖いから、他のことで活用できないかな。


 よし、一通り魔法を使ってみて、どれくらい使えるか図ってみよう。今の生活に何か役立つものがあるんだったら、活用しないと損だよね。


 ◇


 あの後、一通り魔法を使ってみた。どれもレベル二だから弱い魔法でしかなかったけど、どれも普通に使えて嬉しかった。何に使うのかまだ分からないけれど、どれも何かに使えそうだ。


 一日の半分を魔法に使い、もう半分を素材採取をした。お陰で今日の売り上げは半分になっちゃうけど、仕方ないよね。蓄えもまだあるし、明日以降また挽回すればいい。


 採取した素材を換金して、クレハとイリスに合流すると、食事処のお店に入っていく。安定して収入が得られている私たちはお店で食事をとれるまでになっていた。


「珍しいな、ノアが稼ぎが悪くなっているなんて。一体どうしたんだ?」

「何か体調が悪かったんですか?」

「あ、いや……うーん」


 食事を取りながら、今日の収入についての話になった。いつも二万以上稼ぐ私が一万しか稼いでいなかったことにクレハとイリスは疑問に思ったみたい。そうだよね、疑問に思っちゃうよね。


 私は考えた。全てを話すか、ごまかすか、どちらにしようか。この先も一緒にやっていくなら隠し事はないほうがいい、私は話す決意をした。


「今日ね体に違和感があったんだ」

「やっぱり。私の治癒魔法で治せるか試してみます」

「いや、体調が悪いってことじゃなかったんだ。どうやら、私は魔法が使えるようになったらしいの」

「ノアが魔法?」


 二人は突然の話に不思議そうな顔をした。


「どうやら、私に賢者の卵っていう称号が生えてきたのが原因だと思う。それが生えてきたから、魔法が使えるようになったの」

「称号が生えると魔法が使えるのか?」

「特殊な称号だったらしくて、私の場合は魔法が使えるようになったんだよね」

「それはおめでとうございます。魔法が使えるってすごいことじゃないですか」


 イリスは魔法が使えるようになったことを喜んでくれた。祝われるのってなんだか恥ずかしい。


「でね、その称号が生えてきたのはどうやら二人のお陰だったみたいなんだ」

「ウチらの? どうしてだ?」

「クレハには勇者の卵、イリスには聖女の卵っていう称号がついていたのが原因らしい」

「私とクレハにも称号ですか。そんな大層な称号がついていたなんて知りませんでした」

「ウチ、勇者なのか?」


 二人とも顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。突然そんなこと言われたらそうだよね、まさか自分たちにそんな称号がついていたかなんて分からなかっただろう。


「でも、ノアはどうして私たちにその称号がついていたことを知ったんですか?」

「えっと、言っていなかったんだけど……私、鑑定が使えるんだよね」

「鑑定ってなんだ?」

「鑑定っていうのはものの情報を詳しくすることができるスキルですよ。ノアはスキル持ちだったんですね」

「あんまりいいふらさないほうがいいと思ってね、今まで内緒にしてたんだ、ごめん」


 頭を下げて謝ると、二人ともなんてことないと笑ってくれた。


「それで、私たちがノアの称号に関係しているってことなんですが」

「うん、どうやら二人を育てたのが原因らしいんだ。ほら、色々とアドバイスしてたでしょ? それがきっかけになったみたい」

「ふーん、そんなことがきっかけだったんだ。ウチはアドバイスしてくれて助かったから、どんどんアドバイス貰いたいくらいだぞ」

「私もです。困った時はノアが教えてくれたことを思い出して実戦してましたし。それが私たちの成長に繋がり、ひいてはノアさんが称号をもらえるきっかけになったんですね」

「そういうことみたい」


 クレハとイリスは納得したように頷いた。ふー、とにかくこれで隠し事がなくなったね。


「これから魔法をどんな風に使っていくか、考えていこうと思うんだ。二人とも、何か思いついたことがあったらなんでもいってほしい」

「分かったぞ」

「分かりました」


 これでよし、と。隠していたことを話したからスッキリしちゃった。これから魔法をどんな風に使っていくか考えておかないとね、何に使えるかな?

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