6.三人一緒
商業ギルドと冒険者ギルドの登録を終わらせる頃になると、辺りはすっかり暗くなってしまった。通りには歩く人はおらず、壁際には避難民の人たちが横になっている。
「私たちもどこか休める場所を探そう」
今までは地べたの上で寝転がって寝ていたけれど、今日は石床の上で寝ることになりそうだ。石床は堅そうで寝心地は悪そうだ、土の上で寝たほうがいいかな? でも、今から外の門は開いていないし、今日は大人しく町の中で寝ることにしよう。
月明りを頼りに町の中を歩く、すると路地が目に入ってきた。大通りには避難民が沢山いるけれど、路地には人が少なく休める場所がある。
「この路地で休もう」
私たちは路地に入ると、人がいない場所に腰を下ろした。
「ふー、今日はもうくたくたです」
「ウチも、なんだか疲れちゃったぜ」
二人とも疲れたようにため息を吐いた。私も腰を下ろしたらどっと疲れが襲ってきたみたい。今日はもう立ち上がれないかも。
「二人ともお疲れ様。とりあえず、今日はできることがやれたからいい調子だと思うよ」
「そうですね。なんとか働く場所を手に入れましたから、働けば食べるものには困らなさそうです」
「一安心だな。仕事がなかったら、野垂れ死ににしちゃうところだった」
そうだよね、働く場所がなかったら明日からどうやって生きようか悩んでいたところだ。とにかく、明日からまた精力的に動かないと、生活ができないよね。
「とにかく、食事にしようぜ! ウチ、お腹が減った!」
「今日は時間がなくて買い物できなかったから、お肉だけになっちゃうね」
「そろそろパンが食べたいです」
「ウチは肉だけでも大歓迎だ!」
クレハはリュックを外して、中から燻製肉の固まりを取り出した。それを受け取ると、ナイフで棒状になるように切り分けていく。
「今日はこれくらいを三本食べちゃおうか」
「そんなに食べていいのか、やったぜ!」
「わぁ、嬉しいです」
「町についたから、そんなに節約しなくても良くなったからね。じゃあ、焼いていくよ」
生活魔法の発火を唱えて棒状の燻製肉を焼いていく。まずは二人の分を優先的に焼いていき、焼けた都度に手渡す。
「んー、美味しい!」
「孤児院にいた時はこんなに沢山のお肉を食べることがなかったので、幸せです」
「野菜ばっかりだったよなー。ノアはどうだった?」
「私も似たようなものだよ。残り物しか与えられなかったから、ひもじい思いをしていたよ」
思い出すのは召使いだった時の食事。従業員用に食事はしっかりと作っているはずなのに、私だけはみんなの残り物しか分け与えられなかった。始めの時は強い憤りを覚えたけど、それに慣れていくと何も感じなくなったかな。
本当に毎日ひもじい思いばかりで、満腹なんて夢のまた夢だったよ。
「働いたらさ、お腹いっぱいに好きなもの食べたいよね」
「それいいな! ウチ、食べたいもの一杯あるんだ!」
「私は甘いものが食べたいです」
「みんなでお金を貯めたら、好きなものお腹いっぱい食べようね!」
「おう!」
「はい!」
楽しみが増えるとやる気も上がるからね、楽しいことは常に考えておこう。二人とも表情が明るくなったし、明日も頑張れそうかな?
二人分の燻製肉を焼き終えると、今度は自分の分を焼いて食べる。最後の水を三人で順番に飲み干すと、夕食の時間は終わってしまった。
「明日は必要なものを買いに行って、瓶に井戸水を汲んでこよう。それから、それぞれの仕事をやりに行く感じでどうかな?」
「いいんじゃないでしょうか。まずやることがあるから、働いても半日ってところですか」
「だったら、ちゃちゃっとやること終わらせて働きに行こうぜ!」
二人ともやる気は十分だ、これだったら明日問題なく仕事ができそうだね。明日の予定を話し終えると、眠気が襲ってきた。
「そろそろ寝ましょうか」
「石床の上だから固くて痛いな」
「今日は我慢しよう。明日、毛布を買って包まって寝ようね」
三人で引っ付くように寝転がる、やはり石床の上は冷たくて痛い。
「明日、毛布に包まれるのが楽しみだ」
「ふかふかの毛布が買いたいです」
「いい毛布が見つかるといいね」
横になると強い眠気が襲ってきて、瞼が凄く重たくなる。みんなの声も段々と小さくなっていき、寝息が聞こえるようになった。おやすみなさい。
◇
翌朝、差し込んでくる日の光で目が覚めた。
「おはよう」
「はよう」
「おはようございます」
のっそりと体を起こすと、体のあちこちが痛くなっていた。石床の上で寝るのがこんなにも大変だったなんて知らなかった。召使いの時でも藁ベッドで寝れていたから、住む場所がないってこんなにも辛いことなんだな。
しばらく三人で座りながらボーッとしていると、通りの方が賑やかになってきた。どうやら他の避難民も起きたみたいだ。
「これからどうしましょう? 動くにはまだ早いですよね」
「まず、井戸を探して井戸水を瓶に入れておこう」
「よっしゃ、動くか!」
クレハが元気よく立ち上がった、良かった一日で疲れが飛んだんだね。私はまだちょっと体が重たいや、動いていたら軽くなるかな?
三人が立ち上がると、井戸を探して路地を歩いた。すると、進んだ先に円形状の広場があり、その中央に井戸があるのを見つける。
「井戸、あったぞ!」
「早速汲みましょう」
クレハが駆け寄り、イリスがやる気満々に手で拳を作った。まだ、朝が早い時間だからか町民は出てきていない。迷惑にならないよう、早めに井戸水を頂戴しておこう。
井戸の傍に近寄るとクレハが井戸から水を汲んで、汲んだ水をイリスが丁寧に入れる。とりあえず、一人二本分は確保しておかないとね。
「その分だけでいいよ」
「全部入れないのですか?」
「全部入れたら重たいからね。その日必要な分だけ入れておこう」
「分かったぜ!」
六本分の水入りの瓶を手に入れることができた。リュックに入れるとすぐにその場から立ち去り、通りを目指して歩いていく。だんだんと通りに近づいてくると、いい匂いが漂ってきた。
「こんなに朝早くからお店がやっているんですね」
「美味しそうだ」
避難民の為に食事処がやっている、ということはないと思う。売れると思っているから、食事処が開いているんだと思う。通りを見ると匂いにつられて動く人と動かない人がいる、それぞれで金銭状況が違うせいかな。
私はリュックのポケットに入ったお金を確認した、まだ余裕はありそうだ。それに今日から働くことになるから、お金は増えてくれるだろう。
「よし! 二人とも、朝食は何か買って食べよう」
「えっ、いいのか?」
「本当ですか?」
「うん、今日から働くことになるし、しっかり食べてしっかり働こう」
「やったぜ」
「嬉しいです」
食事を買うことに決めると二人とも嬉しそうにしてくれた。うんうん、朝は元気が一番だね。早速通りに出て、食事処を探していく。
どうやらこの近辺にあるのは屋台が多い、開いているお店形態の食事処は少ない。
「二人とも何が食べたい?」
「ウチ、肉!」
「私がパンが食べたいです」
「えーっと、あ! あそこなんていいんじゃないかな」
その屋台で買った人の商品を見て、ここだと思った。並んでいる列に並び、自分の番を待った。しばらく待っていると、自分の番がやってくる。
「何にする? 肉チーズサンドイッチ、卵野菜サンドイッチがあるよ」
「ウチ、肉チーズサンドイッチ」
「私は卵野菜サンドイッチをお願いします」
「私も卵野菜サンドイッチで」
「あいよ!」
おばさんは切り込みを入れたパンに具材を挟みこみサンドイッチを完成させた。
「肉が五百五十エル、卵が四百五十エルだよ」
「えーっと……はい、千四百五十エル」
「はい、毎度」
「やった、早く食べようぜ!」
お金を払い、サンドイッチを受け取る。すると、クレハが待ちきれないとばかりに通りの壁際に走っていき、その場に座った。私たちもクレハを追い、同じように壁際に座る。
「んまーーい!」
早速食べ始めていたクレハはサンドイッチに食いつく。美味しそうにがつがつと食べるクレハを見て、私たちは顔を見合わせて笑った。それから、私たちもサンドイッチにかぶりつく。
「美味しいです」
「うん!」
爽やかなソースがかかった卵野菜サンドイッチは味わい深くてとても美味しい。久しぶりに食べるパンの味はいつも以上に美味しく感じられた。いい一日の始まりだ。
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