5.商業ギルド
私たちは商業ギルドの場所を聞くとそこに向かった。大通りに面したところにあって、とても大きな建物だから一発で分かった。
「ここが商業ギルドか……なんだかでかいな」
「こんなところに入って大丈夫なんでしょうか」
建物の大きさを見てクレハとイリスが物怖じしている。んー、確かにいきなりこんな建物に入るのは緊張しちゃうね。ここは私が励ましてあげよう。二人の背中を軽く叩くとできるだけ明るい声で話しかける。
「ここが始まりの場所だよ。三人一緒に働いて、いい暮らしをしようよ。きっと、前よりもいい暮らしができるようになるよ」
「……そうだよな、もう十歳なんだしウチは働ける」
「私も……負けませんっ」
「さぁ、中に入ろう」
背を押していくと、二人の足が動いた。扉を開けて中に入ると、大きなホールに出た。ホールには幾つもの受付が並んでいて、そこで話をするみたいだ。
二人の前に出ると先導するように中を進んでいく。どの窓口に話しかければいいんだろう、とりあえず開いている窓口に突撃だ。
私は二人を連れ添って開いている窓口に近づいた。すると、こちらに気づいたお姉さんが微笑みながら話しかけてくれる。
「ご用件は?」
「商業ギルドに登録しに来ました」
「登録、ですか」
すると、お姉さんの表情が固くなる。
「こちらの町に住んでいる方ですか?」
「いいえ、他の町からやってきました」
「そうですか。目的は働くことですか?」
「はい、そうです」
そこまでを話すとお姉さんは重いため息を吐いた、どうしたんだろう?
「もしかして、避難してきた人でしょうか?」
「……はい」
「お仕事を紹介することはできません」
「えっ、なんでですか!?」
厳しい態度をしてきたお姉さんに食って掛かる。そのお姉さんは険しい表情のまま口を開く。
「この町に他の町からの避難民が来ているのは分かっています。ですが、このハイベルクの町ではそれらを全てカバーできる余力がありません。沢山の人が詰めかければ、こちらの生活が圧迫されてしまいます」
「でも、私たちも生活をしないといけないんです」
「それは分かっていますが、ですが全ては賄いきれません。まずは町民を優先です。町民の仕事が無くなるようでは、町民と避難民の間で要らぬ諍いを生み出しかねません。それを回避するためにも、こういった制約が必要になるんです」
確かに、私たちが仕事を求めれば町民の仕事は激減するだろう。そのために町民が働けなくなることになるかもしれない。この町に税金を収めている町民の収入が減れば税金の取れなくなる。
それだけじゃなく、そうなってしまった場合に町民の怒りが避難民に向く可能性もある。すると、諍いが起こり町では問題が多発することになるだろう。問題の上に問題が積み重なり、事態は悪くなる一方だ。
「商業ギルドとして、まずは町民を優先することになりました。ですから、町民以外のみなさんには紹介するお仕事はありません」
「そんな……」
「ちなみに冒険者ギルドも同じような考え方ですよ、冒険者ギルドに行ってもお仕事はありませんからね」
そんな、冒険者ギルドに行っても仕事がないなんて!
「ですが、わずかにですが許されたことがあります。商業ギルドでは素材や薬草納品、冒険者ギルドでは魔物討伐の仕事なら解放されています。もし、働きたいと思うならこの二つしかありません」
「町の中では働けないんですね」
「はい、町の中に仕事はありません。町の外に行ってください。それでもいいなら登録していきますか?」
「……少し考える時間をください」
「何かありましたら、申しつけてください」
私は受付を離れ、壁際に設置してあった長椅子に腰を下ろした。
「どうしましょう、町の中の仕事が受けられないなんて」
「それが目的だったのに、これから一体どうすればいいんだ」
話を聞いていた二人も困惑気味、私も困惑している。まさか、商業ギルドがそういう手段で出ていたなんて。言っていることは分かっているけれど、救いの手はどこにもない。
いや、ある。お姉さんが言っていた納品と討伐、この二つが命綱だ。今私たちにできること、それが納品と討伐。どうにかして、この二つを請け負って生きていかなくちゃいけない。
顔を上げて二人を見てみると、二人とも落ち込んでいるように見えた。そうだよね、ここで働いていい暮らしをしようって決めた後だったもんね。大丈夫、まだ道は残っているよ。
「二人とも、話があるの」
「どうしたんだ?」
「どうしたんですか?」
「町で働くことはできない、けど納品と討伐をすれば私たちでもお金は稼げるよ。だから、この二つを受けてお金を稼ごうよ」
できる限り明るく言う。働けない制約がいつまで続くか分からない、もしかしたらずっと解けない可能性もある。それを考えると、この町で生きていくのは厳しくなるだろう。
だけど、今はそんなことを考えている暇はない。今を生きるために最善を尽くす、それが今できることだ。二人には絶望しないように、できるだけ希望があることをいうことにしよう。
「ね、町で働かなくてもお金が稼げるんだよ。お金を稼げば食事だって取れるし、欲しいものがあれば買い物だってできる。自由なんだよ」
私にとっては働けばお金が貰えて、お腹が減ったら食事が取れて、働くのも休むのも自由に決められる。それだけで、召使いの頃に比べたら天国のようだ。そう、私は自分のことは自分で決められるんだ。
もう誰にも制約されない自由が手に入ったんだ、これからは自分の力だけで生きていくんだ。もちろん、二人もいるから三人の力を合わせてだけどね。
「そうだな、ウチらはお金を稼げるんだ。なぁ、ノア……ウチは魔物討伐をしてみたい」
「クレハが魔物討伐を? 大丈夫なの?」
「ウチは何かを探すっていうよりは、体を動かしたい。自分ができることを考えたら、それが一番しっくり来るんだ」
狼獣人だから人間より力も強くて素早い、クレハ向きのお仕事になりそうだ。
「イリスはどうするんだ?」
「私は……どうしようかな。町の中で働きたかったから」
そっか、イリスは町の中で働きたかったんだね。でもどうしようかな、納品も討伐も町の外に行くお仕事だし。イリスが町で働けるようにできるかな……
イリスにできること、そうだ回復魔法があった。そうだ、回復魔法の治療を売ればいいんじゃないかな。私は長椅子から立ち上がり、先ほどのお姉さんのところへ行った。
「すいません」
「どうしたの?」
「友達は回復魔法が使えるんですが、その回復魔法を使って治療を行ってお金を取ることはできますか?」
「治療院の真似事をしたいのね。ちょっと待てて、聞いてくるわ」
真剣に話を聞いてくれたお姉さんは受付の奥へ行き、他の人と話をした。しばらく会話をしていると、そのお姉さんが戻ってくる。そして、ちょっとした微笑みを浮かべた。
「許可が降りたわ、それくらいなら許容範囲になるわ」
「ありがとうございます!」
やった、許可が降りた! 急いで元の場所に戻るとイリスに事情を話す。
「イリスの回復魔法を使って、町の人たちを癒すお仕事ができるようになったよ」
「えっ……私の回復魔法がお仕事になるんですか?」
「うん、どんな怪我でもいいから癒してお金を取る。これだったら町の中で働けるよ、どうかな?」
「はい! 私、その仕事がしてみたいです」
「やった、イリスの仕事も決定したな!」
クレハは魔物討伐、イリスは治療費、私は納品。私とイリスは商業ギルドで登録して、クレハは冒険者ギルドで登録だね。
「よし、みんなで一つずつ登録してこう」
「おう!」
「はい!」
二人の表情が明るくなった、仕事が決まって本当に良かった。私たちはこちらを見て微笑むお姉さんの受付に急いだ。
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